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好調の要因「グランパスシアター」って何?名古屋グランパスが足を踏み入れたチャレンジの1年(後編)

2023.04.29

その安定感は、群を抜いている。長谷川健太監督体制も2年目を迎えている名古屋グランパスのことだ。J1第9節終了時で2位に付け、失点はリーグ最少の5。苦しみながら奮闘した昨シーズンの経験は、間違いなく今季へと生かされている。ただ、そんな見方だけでは、2023年のグランパスは語れまい。継続と変化を恐れぬ指揮官の思考を中心に、おなじみの今井雄一郎が前後編に分けてこの好調の要因を探る。後編ではスタッフ陣の奮闘、シンプルな競争原理と攻守の共通認識を掘り下げていく。

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「グランパスシアター」の確かな効果

 好調の要因と聞かれれば、スタッフたちの奮闘も見逃せないのが今シーズンだ。沖縄キャンプでは今年から、練習の際に内側にプロジェクター用のスクリーンを設置できるテントが用意され、練習中盤になると「一度映像を見よう」と選手たちがテントに入って行く様子が毎練習で見られた。

 そこで流される映像はやろうとしている練習のテーマに沿った参考映像や、撮影しておいた自分たちの練習映像などがあり、「こういう目的の練習をする」と口で説明するだけでなく、視覚的な理解の促進が主な意図。これが選手サイドから好評だったらしく、沖縄から帰ってきたスタッフたちはトヨタスポーツセンターの練習ピッチ脇、観客席スペースの一部をDIYで“改造”し、暗幕を張って動画視聴できる一角を一夜にして誕生させている。

 その名も「グランパスシアター」(スタッフ談)。まだまだ改良の余地はあり、今後台風の季節をどう乗り切るかなど課題は残るが、クオリティの高い練習をというスタッフたちの努力もまた、勝因の一翼を担っているのは間違いない。もちろん、その映像を制作し、選手に理解させる竹谷昂祐コーチ、佐藤凌輔分析担当コーチらの功績も、言い逃してはいけない部分だ。

 そして改めて、指揮官の手腕にも流石と唸らされるところが多い。「今季は仕事しますよ」。昨季がそうしなかったわけではなく、結果としてそうは見えなかったという部分をやや自虐的に語ったのを、聞いたことがある。冒頭(※前編を参照)にも書いたような危機的状況から8位という順位に押し上げたことは、十分に“仕事”だった気がするが、クラブ30周年のシーズンに「リーグ優勝」を掲げた手前、それを自らの功績とすることはできなかったのだろう。

 だからこそ余計に、今季の長谷川監督の手練手管には百戦錬磨のそれを感じずにはいられない。その采配は柔軟であり、目の前の勝利を追求しながら先々の戦いを見渡す大局観がある。具体例のひとつはユンカーと永井の起用法で、絶対的なエースクラスとしてスタメンを任せながら、前者は鼠径部に抱える“爆弾”を、後者は年齢的なものを含めたコンディショニングを考慮し、出場時間を適宜セーブし交代策を打ってきた。そこで交代出場する選手を鍛えることも怠りなく、ルヴァンカップと練習試合を使って選手層を厚くしてきたことは周知のとおりだ。

Photo: Takahiro Fujii

 注目すべきは永井やユンカーはタイプ的にも代わりは利かず、チーム内にも同タイプは存在しない中で、きちんとチームが成立する術を練っていること。それこそが次のキーワードになる「ワンシェイプでは戦えない」という、具体的に試合を勝っていくための方策へとつながっていく。

“ワンシェイプ”にとどまらない戦い方の幅

 ワンシェイプ、という言葉が出てきたのは4月に入ってからだった。開幕戦から順調に勝点を積み上げ、期待の3トップもきっちり成立して相手に脅威を与える中、やや攻撃が速すぎて単調になってしまう傾向を解消し、速攻とポゼッションのバランスが取れてきた矢先の試合前会見のことだ。「相手に対して[3-4-3]のワンシェイプだけでは追いつかない部分がある」。

 結果が出なければ早々の組み直しも想定していた1トップ2シャドーが当たり、基本布陣としての信頼度が上がっていく最中でも、勝率を上げるためのプランBは不可欠の次善策。ただし名古屋にとっては全くの別パターンというわけではなく、あくまで対戦相手への守備プランとしての意味合いが強い。

 ここまでは[3-4-3]の基本の並びから、前線を組み替える1シャドーの[3-5-2]、そして最近相手にすることが増えた内寄りのサイドバック対策としての2シャドーの[3-5-2]が確認できているが、これらはすべて守備のための並びであると同時に、攻撃面でも狙いをもった布陣になっている。これらを長谷川監督は若く意欲的なスタッフたちとともに構築し、実戦投入し、そこでのトライ&エラーをまたフィードバックして次のオプションとして精度を高めてきた。

 それが顕著に現れたのが4月5日と19日に行われた、ルヴァンカップの横浜FC戦だ。ホームでの1戦目は、リーグ開幕戦でも見られた中村拓海の内寄りのプレーへの対策として2トップ1シャドーを用意したが、それでもまだ上回られるところがあり、2週間後には「ほぼ同じメンバーになると思う」(長谷川監督)と予想しながら、同じ並びではなく2トップ2シャドーに変えて挑んだ。これは「2ボランチだとその脇が空いてしまう時がどうしても、今までのシステム上ではあったけど、そこの部分をカバーできるということ」(長澤和輝)という2トップ1シャドーのアップデート版で、絶え間なく状況分析を繰り返し、最善の策をピッチに持ち込もうとする指揮系統の執念が見て取れる。

横浜FCと対戦したルヴァンカップ第3節(上)と第4節(下)の各ハイライト動画

 それは前述した、戦力の最大化という部分にも強く関連してくる要素だ。相手に対して隙のない戦略をシステム込みで準備するだけでなく、名古屋のスタッフ陣は選手の組み合わせや、単純な調子の良さ、ポジションに対する相性やその時点でのパフォーマンスも加味して戦いに臨んできた。……

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名古屋グランパス

Profile

今井 雄一朗

1979年生まれ、雑誌「ぴあ中部版」編集スポーツ担当を経て2015年にフリーランスに。以来、名古屋グランパスの取材を中心に活動し、タグマ!「赤鯱新報」を中心にグランパスの情報を発信する日々。

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