SPECIAL

なぜ「2年目の長谷川健太は良い」のか?名古屋グランパスが足を踏み入れたチャレンジの1年(前編)

2023.04.28

その安定感は、群を抜いている。長谷川健太監督体制も2年目を迎えている名古屋グランパスのことだ。J1第9節終了時で2位に付け、失点はリーグ最少の5。苦しみながら奮闘した昨シーズンの経験は、間違いなく今季へと生かされている。ただ、そんな見方だけでは、2023年のグランパスは語れまい。継続と変化を恐れぬ指揮官の思考を中心に、おなじみの今井雄一郎が前後編に分けてこの好調の要因を探る。前編では長谷川監督の明確な評価基準、米本拓司ら選手たちの進化を掘り下げていく。

今季の揺るぎないベースは昨シーズンにあり!

 「今年はチャレンジですよ!」。とある日のトレーニング後に、長谷川健太監督はそう言って朗らかに笑った。これこそが2023年序盤のJ1リーグ上位を突っ走る、名古屋グランパスの原動力である。巷では“2年目の長谷川健太は良い”という都市伝説じみた風評も飛び交うが、そもそもコアメンバーをほぼ変えず、そこに的確な補強を加えて2年目を迎えることができれば、チーム力は多少なりとも上がるもの。指揮官のスタイル、好む戦術、求めるタスクに根幹となる哲学等々が浸透し、そこに自らの経験だけでなく冒頭の“チャレンジ”の要素をふんだんに盛り込んでいる今季、現役最多勝監督の持つ手腕がここぞとばかりに発揮されていることが好調の要因だ。そこにあるのは「あの監督は2年目が良い」というどこかふわふわした理由ではなく、はっきりとした意図がある。

 今季の名古屋が良く見えるのは、苦しみ抜いた昨季とのギャップによるところも未だ大きい。何度でも言うが、2022年の名古屋はシーズンの後半、いや終盤に差し掛かるまでが常にスクランブル状態だった。チームを襲ったコロナ禍によって沖縄でのキャンプは前半を終えたところで中断し、リーグ開幕1週間前に行われたジュビロ磐田との練習試合においてもまだ、検査で陰性の出ない主力がいたという。

 さすがにそこでは大まかな組み合わせは試していただろうと思いきや、ヴィッセル神戸との開幕戦で「この組み合わせでやるのは初めて」と指揮官が発言したのは、嘘偽りない事実だったわけだ。検査陰性が出なかったということは開幕前の1週間しかチームトレーニングをしていないということであり、それであれだけの試合をして、かつ勝利まで得たというのは改めて奇跡的なことだった。

2022シーズンのJ1開幕節、神戸戦のハイライト動画

 だが、プレシーズンの蓄積のないチームはその後に次々と襲い来るエラーへの修正法を持たず、攻撃陣の不振によっても試合内容、結果両面のマネジメントに苦しみ、4月に現在の基本布陣の元となる3バックへの移行を決意。以降の事象はここでは詳細に触れないが、トライ&エラーの試行回数はほぼ毎試合のごとく、夏の補強をきっかけにようやく上昇の兆しが見えるも、最終的に勝点46の8位でシーズンを終えた。

 順位自体は可もなく不可もなし、という数字であったが、現場の苦労を思えば長谷川監督の言う通り、「得点30で勝点46取っている、選手のみんなは頑張ったじゃないですか!そこは何で言ってやってくれないんですか」というチームの奮闘の結晶だった。そして、開幕してからがチーム始動のようなあの1年間が、今季の揺るぎないベースとして彼らを支えている。

リーグ戦出場の条件は“標準記録”のようなボーダーライン超え

 長い前置きだったが、そうした前提を踏まえると、チーム始動とほぼ同時にキャンプインした今季の名古屋は、基礎を飛ばして応用からチーム作りを始められたようなところがあった。つまり、完成度を高めるようなトレーニングを積み重ねられたということだ。移籍新加入の選手にとってそれは順応に難しいようにも感じられるが、補強の中心はキャスパー・ユンカー、米本拓司、野上結貴の経験豊富でサッカーIQも相当に高い選手たちばかりだ。ユンカーは彼を活かすようなシステム構築の恩恵を受け、米本は長谷川監督をFC東京時代からよく知り、野上は開幕までは丸山祐市からスタメンの座を奪えずにいたが、ルヴァンカップでの活躍をステップに実力で3バックの一角を奪い取ってみせた。

 長谷川監督のチームには明確な評価基準があり、メインであるリーグ戦でプレーできるメンバーに求める“標準記録”のようなボーダーラインがある。それを満たせば選択肢に入ることができ、起用された後の出場時間、スタメンか否か、はピッチ上でのパフォーマンス次第。たとえばヴァンフォーレ甲府からやってきた山田陸は練習試合などでも悪くないプレーを見せているのだが、このチームのボランチに求められる要素をしっかり満たしていないことから、なかなかレギュラークラスに割り込めないでいた。

 少し話が逸れたが、23日間と長めだったとはいえ、限られたキャンプ期間を有効に使えたチームは日々のトレーニングを地力の積み重ねに変えてきた。それはイコール、今季のテーマであるチャレンジの始まりだった。最初のチャレンジは、今やリーグを席巻する自慢の攻撃陣、永井謙佑、ユンカー、マテウス・カストロの3トップの結成である。昨季もオプションとして持っていた1トップ2シャドーの形だが、それは普段の2トップ1シャドーの守備的な派生形としての存在だったが、今年はその在り方を逆にする。……

残り:2,349文字/全文:4,519文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

名古屋グランパス

Profile

今井 雄一朗

1979年生まれ、雑誌「ぴあ中部版」編集スポーツ担当を経て2015年にフリーランスに。以来、名古屋グランパスの取材を中心に活動し、タグマ!「赤鯱新報」を中心にグランパスの情報を発信する日々。

関連記事

RANKING

関連記事