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下平トリニータがスタートダッシュに成功したワケ。野村直輝が言う「部活っぽさ」とは?

2023.04.12

今季J2の第8節までを終えて、6勝1分1敗の大分トリニータ。現時点で首位の町田と並ぶ勝ち点19、得失点差で下回って2位につけている。下平隆宏監督体制2年目は、スタートダッシュに成功したと言っていいだろう。その要因をひぐらしひなつさんに分析してもらった。

「戦力ダウン」の評価を覆す、新戦力とコンバート

 昨季J2リーグ戦を5位フィニッシュし、J1参入プレーオフ1回戦で4位・熊本と引き分けてJ1復帰を逃した後、それまで主力として出場していた下田北斗が町田へ、三竿雄斗が京都へ、井上健太が横浜F・マリノスへと移籍したこともあり、今季の大分について、開幕前の評価は「戦力ダウン」と見なす向きが多かった。当然、戦力補強は行ったが、アカデミーからトップ昇格した保田堅心と佐藤丈晟、大卒ルーキーの松尾勇佑、Jリーグでプレーするのは初となるデルランら、戦力的に未知数なプレーヤーが多数。シーズン序盤は苦戦するのではないかと予想されていた。

 そんな巷間を裏切る3連勝スタート。第4節はアウェイで清水にスコアレスドローと連勝はストップしたものの、第5節の千葉戦には2-1で勝利と開幕5戦負けなし。上位をキープし続けてきた。

アカデミー以来の大分復帰となった茂平(右)は開幕から全試合でスタメン起用されており、監督からの信頼の高さがうかがえる(Photo: OITA F.C.)

 ただし、果たしてそれが本当に「スタートダッシュに成功した」と言えるのかと問えば、内容的には決して開幕から絶好調とは言い難い。苦しい展開を粘り強い守備で耐えながらセットプレーからの得点でものにした試合が続いた。

 フォーメーションは昨季から継続した[3-4-2-1]。出場メンバーは固定気味で、1トップの伊佐耕平から始まるアグレッシブな守備からリズムを作っていく。下平隆宏監督が得意とするポゼッションスタイルもベースに持ちながら、隙あらば素早くゴールを目指す前向きの矢印を、昨季より強めている印象だ。

 前線の選手たちが心置きなくハイプレスを仕掛けることができるのは、新戦力のデルランを含め、ペレイラと上夷克典による3バックの対人守備の強さが担保されているからでもある。昨季は守備面に課題を抱えた左ウイングバックの藤本一輝も、後ろにデルランが控えていることで、高い位置から攻撃をスタートできるようになった。そのデルランがコンディションを崩した第3節の栃木戦では、急きょ代役を務めた香川勇気がブラジル国籍CBに劣らない守備強度を見せ、藤本が調子を落として第5節の千葉戦で先発を外れると、代わりに先発した高畑奎汰が2得点の活躍で勝利を引き寄せる。

 右ウイングバックで存在感を光らせるのは、大分アカデミーOBで高校卒業時にトップ昇格できず、JFLからJ2まで3クラブを渡り歩いて12年ぶりに今季古巣へと戻ってきた茂平だ。負傷がちだったドリブラーは3クラブでの経験のうちに90分間たゆまず上下動できるスタミナと気の利くコンビネーションを身につけて、さっそく不動のレギュラーポジションに収まった。

 今季からボランチにコンバートされた野嶽惇也が新戦力並みに新たな力をもたらしていることも大きな要素だ。もともとはアタッカーとして一昨年の夏にJ3鹿児島から完全移籍加入し、当時J1だった大分できらめきの片鱗を見せたが、昨季は指揮官交代による戦術変更や負傷の影響でリーグ戦出場3試合にとどまっていた。紅白戦の控え組にして“穴埋め要員”的にフィールドの全ポジションをこなしていた中で、今季はプレシーズンにボランチの新戦力として期待されていた池田廉がグロインペイン症候群により長期離脱を余儀なくされたことや保田がU-20代表活動でチームを離れる時期があることを受け、層の薄くなったボランチへとコンバート。それが野嶽が本来持っていたサッカーIQを引き出すことになり、28歳のMFはゲームメイカーという新境地を開拓すると1試合ごとにポテンシャルを開放してきた。ボランチとして出場した公式戦はいまだ8試合という事実を感じさせないまでに、現在はダブルボランチを組む弓場将輝とともに不可欠な存在となっている。

20歳と若い弓場将輝とともに中盤からチームに安定感をもたらす野嶽惇也(Photo: OITA F.C.)

「仲間のために」という想い、そして「信じて任せる」

 野嶽によると、自らにサッカーを教えてくれたのはチームメイトの野村直輝だという。

 「ボールの持ち方から、相手との駆け引き、ポジショニングや体の向き。すべてを教えてもらいました。それを練習で実践して『ああ、確かに』と腑に落ちて、試合でできるようになっていく」 ……

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J2大分トリニータ

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

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