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Jリーグが示した「新たな成長戦略とリーグ組織の構造改革」。その狙いと背景事情を読む

2023.01.12

2022年11月、Jリーグが「Jリーグ新たな成長戦略とリーグ組織の構造改革について」と題したリリースを発表した。W杯開幕を目前に控えた時期とあって大きな話題にはならなかったが、中長期的なリーグ運営の指針を示す重要な内容が含まれていた。

Jリーグが見据える成長戦略と与える影響、そしてこうした決定を下すに至った背景にはどんな事情があるのか。

かつては楽天にて、現在はシティ・フットボール・ジャパンの代表としてJおよび欧州クラブのフロント事情や世界のスポーツビジネスシーンの最前線を知る利重孝夫が、自身の経験も踏まえて紐解いていく。

サッカー界に僥倖、W杯大盛上がり

 周知の通り、日本代表の快進撃も相まって先のW杯では日本全国で大きな盛り上がりを見せた。業界に携わる1人として、サッカー界で今後もチャレンジできるうれしさ、というよりも安堵感を覚えつつ新年を迎えたところだ。

 ここ最近、街の通りや公園でボールを蹴る子供たちをたくさん見かけるようになり、日本代表のユニフォームを普段から身に付ける子供たちも増えた。運営するサッカースクールにも問い合せや体験申込が急増している。これから男女を問わずより多くの子供たちが、自らが行うスポーツとしてサッカーを選択することが期待できるだろう。

Jリーグによる新たな成長戦略に着目

 さて、日本サッカー界にこのような追い風が吹いている中、W杯開幕直前(2022年11月15日)にJリーグから「新たな成長戦略」が発表されていたことをご存知だろうか?

Jリーグ新たな成長戦略とリーグ組織の構造改革について

 W杯の熱狂ですっかり忘れられがちだが、これまでも、そして今後も日本サッカー界を支える基盤となるのはJリーグである。そのJリーグがどのような背景で、なぜこの時期に新たな成長戦略を定め発表するに至ったのか? 「Jリーグの新たな成長戦略~2つの成長テーマ~」のうち、ここでは2つ目の「トップ層が、ナショナル(グローバル)コンテンツとして輝く」にフォーカスを当てて掘り下げてみたい。

 11月にJリーグから発表された内容は、

Jクラブの中で、世界に伍するトップクラブが生まれ、ナショナル(グローバル)コンテンツとして輝くことで、Jリーグの成長を牽引する。
そのためには、フットボール改革のための投資と、これまでよりも明確な結果配分(競技&人気)、競争促進を進めていく。

そして、そのために「配分金構造の見直し」を実施すること、であった。

 加えて、「成果創出を後押しし、高みへの挑戦を促す新たな配分ルールへ」と謳い、

①カテゴリー間の配分比率の見直し
2つの成長テーマを後押しするために、目安としてJ2:J2の配分金比率を5~6倍程度(現状約2倍)までJ1への配分割合を段階的に高めていくことを目指す

② 同一カテゴリー内の配分方法の見直し
カテゴリー間の配分金比率の見直しに加え、同一カテゴリー内の配分方法として均等配分中心から競技成績やファン増加等の成果に応じた配分(結果配分)中心へ段階的にシフトするとともに、それらの成果創出を後押しするための施策に重点投資を行う

の2点を具体的に明らかにしている。

 つまり、オン・ザ・ピッチでもオフ・ザ・ピッチにおいても、クラブ間に明確な競争原理を導入することで各クラブによる成長のための投資を促し、その後も成長を維持・拡大するための継続的な再投資を行う仕組み作りを意図しており、そのプロセスとしてたとえクラブ間格差が大きくなろうとも、少数の最上位クラブに富が集まることを容認したわけである。

 これは、「みんなで仲良く成長していきましょう」といった日本では受け入れられやすい互助会的な考え方とは真逆なコンセプトであり、なぜそのような機関決定がされるに至ったのか、その理解を深めておく価値があると思われる。

DAZNの現契約条件と実態との乖離が直接的な要因か

 2017年、Jリーグは新進のスポーツ専門ネット配信事業者DAZNと放映(配信)契約を結び、それまでスカパー!と結んでいた契約条件(推定50~70億円/年)を大幅に上回る収入(10年/年間210億円)を得ることに成功した。2010年代半ばから世界的にOTTプレーヤーの出現で需給バランスが好転し放映配信側の需要が増える中、サッカー市場への進出をうかがっていたDAZNが、世界を見渡しても最もアンダーバリューの契約条件下にあったJリーグをその足がかりの場として選択したのである。

 しかし、契約開始から6シーズンを経た2022年末現在、途中コロナによる不可避なマイナス要因はあったものの、DAZN側の投資(放映権料)回収に対する期待値とこれまでのリーグの成長度合いにはかなり大きな乖離があるのは知られたところだ。

 その乖離に対するDAZNからの有形無形のプレッシャー、呼応するJリーグ側の問題意識や改善ニーズこそ、このタイミングでJリーグが新たな成長戦略を遂行する最大の背景であると思われる。

DAZN以前(2014-15CFGによるリーグ成長プラン提示

 実は筆者にはDAZNとの大型放映(配信)契約を締結する以前に、Jリーグに対し「①世界的に各国リーグが放映(配信)権収入を大幅に増大させていること」「②Jリーグとスカパー!との当時の契約は非常に低い水準のままになっており、大きな拡大チャンスがあること」「➂一方で、そのためには明確なリーグ全体の成長プランが必須である」旨を提案する機会があった。……

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Jリーグビジネス

Profile

利重 孝夫

(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。

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