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本人の言葉から読み解く指導者・長谷部誠の可能性

2022.11.19

いまだ衰えることのないプレーを披露し現役への情熱を口にしている一方で、指導者としての将来を見据えすでにライセンスの取得などを進めている長谷部誠。指導者講習などを受ける中で、彼は選手と指導者の違いや指導者として必要なことをいかに感じているのか。自身もドイツで指導者をしている中野吉之伴氏が、本人の言葉から読み解く。

 フランクフルトの元日本代表キャプテン長谷部誠は、どこでもいつでも頼りになる男だ。選手としての存在価値は変わらず高い。第15節終了時で4位につけているフランクフルトだが、序盤は調子が悪かった。オリバー・グラスナー監督は4バックシステムを採用しようとしていたが、攻守のバランスが改善されず、失点を重ねる試合が続いてしまう。

 だが長谷部をスタメンで起用し、3バックへ変更すると突如チームは安定感を取り戻し、リーグでもCLでも勝てるようになってきている。38歳ながらいまだトップレベルのパフォーマンスを披露しているから驚きだ。CLトットナムとのアウェイ戦で膝の靱帯を損傷し、離脱しなければならなかったことを残念がる地元記者やファンは数知れず。そして長谷部離脱後もグラスナー監督は3バックを基本軸とし、チームの戦い方が成熟して生きているのは興味深い現象だ。

CLトッテナム戦での長谷部。今季はここまで9試合に出場している

 そうした選手としてだけではなく、長谷部が引退後の指導者への道も視野に入れているのは周知の事実だろう。昨年からドイツサッカー連盟(DFB)によるセカンドキャリアを考える現役プロ選手のためのプロジェクト《パスウェイプログラム》の一環として行われたDFB公認B級ライセンスに参加し、無事合格している。

 《選手と指導者は違う》ということはよく言われるし、耳にするが、「長谷部には指導者としての確かな資質がある」というドイツ人関係者は非常に多い。それこそ、元フランクフルト監督アディ・ヒュッターが「長谷部は優れた指導者になれる」と太鼓判を押していたのを思い出す。

 では、長谷部のどういうところに指導者としての資質があるのだろうか。長谷部自身が記者会見で話していた言葉を取り上げながら、その可能性について考察してみたい。

選手と指導者の違い

 「(指導者講習会で)育成についてとか、いろんなことを学んでいる。僕にとってとても大事なことです。時々時間がある時にフランクフルトの育成アカデミーへ足を運んでトレーニングをしたり、トレーニングを見学したりしています。指導者は選手と違うということには、もう気づいている。ライセンスにしても道のりは長い。今のところは引退後もドイツに残るつもりなので、監督ライセンスはドイツで取ることを考えています」

 「選手と指導者」は何が違うのだろうか。指導者養成プログラムの中には定期的にU-15やU-16といったチームで指導実践をすることが含まれているが、そこで長谷部は何を見て、どんなところに難しさを感じているのだろう?……

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フランクフルト長谷部誠

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。

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