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クリアソン新宿が目指すソーシャルな価値――「多様性」が「勝利」につながる

2021.01.13

不定期連載『東京23区サッカー新時代』

第1回:クリアソン新宿(前編)

海外に比べてプロ化の歴史が浅い日本サッカーは、後発ゆえに人口が集中する東京23区内にプロサッカークラブがない、というジレンマを抱えている。しかし、Jリーグ創設20年を超えた現在、23区内にJクラブを作る動きが同時多発的に起こっている。この連載では、新しいムーブメントの担い手たちの考え方に迫りたい。

第1回は、関東サッカーリーグ1部に所属するクリアソン新宿が登場。前編では、クラブの代表である丸山和大氏に、クリアソン新宿のユニークな理念を聞いた。

クリアソン設立の原点


――まずは丸山さんご自身がどのようにサッカーに関わってきたかを教えてください。

 「サッカーは兄の影響で小学校1年生の頃に始めて、地元(横浜市)の桐蔭学園に進みました。高校卒業時には力及ばずプロになれなかったので、指定校推薦で立教大学に入学しました。立教ではサッカーサークルでプレーをして、3年次には代表をさせてもらっています。高校時代プロになれなかった自分や、プロに進んだ先輩、声がかかっていたけどプロに行かなかった同級生を横目に見ていました。その同級生、剣持(クリアソン新宿 選手・株式会社Criacao 取締役)はプロサッカー選手になりたいと言っていたのですけど、いざ現実を見た時にセカンドキャリアの問題などを考え、プロに行かない選択をしました。そのことを不思議に思っていた原体験がありました」


――「なぜプロになれたのに、ならない」という選択をしたのか、ということですね。

 「はい。当時の桐蔭はプロ予備校みたいな感じで、結果を出した人に発言権があったり、チームメイトも味方というよりもライバルという感じだったり、勝つことを最重要視しながらサッカーをやっていました。けれど大学に入ってからはサークルということもあって、サッカーの上手い下手に関係ないチームへの関わり方になった。メンバーが一致団結して同じ目標を目指して、それを達成する喜びを感じた時に、いろんなサッカーがあるんだなということを感じることができました。そういった経験をする中で、先ほどのセカンドキャリアの問題なども含めて、サッカー界には課題もたくさんあるなと。端的には、ビジネス的な側面から変えることができる人間になれたら、少しでもサッカー界に貢献できて、もっといろんな人が感動できる社会を作れるんじゃないかなと思いました」


――その経験がクラブ設立の原点になるんですね。ここからどういった過程でクラブを立ち上げることになるのでしょう?

 「経営やビジネスの力がつく環境ということで、最初の就職は伊藤忠商事を選びました。そこで7年間食品のビジネスに携わりました。クリアソン新宿というクラブは大学4年の頃、2005年にサッカーサークルの選抜のような形で立ち上げたのがきっかけになっています。2006~2007年は僕が関西で働いていたのであまり活動できずに、東京に戻ってきた2008年から本格的に活動を始めて、2009年から東京都リーグに参戦しました。そして2013年に剣持と2人で起業を決意して、サッカークラブを中心とした会社を設立しました。そこから本当の意味でギアを入れてサッカークラブと向き合って、今に至るというのが大きな流れですね」

駆け寄る選手たちと喜びを分かち合う丸山氏


――ホームページnoteなどを拝見するとフィロソフィが独特というか、ビジネスとの両立や教育的観点といった独自の視野がうかがえます。

 「近年は井筒(陸也)など様々なメンバーが加わって、クリアソン新宿自体は進化をし続けているんですけど、スタート地点で言うと、サッカーにはもっといろんな解釈があっていいんじゃないか、勝ち負けだけの一元的な評価基準でいいのかというのがありました。もちろん勝敗は大事な基準で、それがあるから魅力があることだと思うんですけど、それと同じくらい仲間を思いやってお互いが成長できる環境があることだったり、いろんなことに価値があると考えています。自分も高校まではわりと一律の物差しで、サッカーがうまいやつが偉いと思っていて、その部分だけで人を見ていてその人間の本当に良いところを見られていなかったという反省があります。大学時代はもう少し、サッカーはいろんな人の想いなどがつながりあってできるスポーツなんだというのを学んで、サッカーとは何なんだろう? とあらためて考えるきっかけにもなりました。

 そこで1つの一番大きな経験として、大学時代にサークル日本一になる経験ができました。サッカーが上手いだけではチームは成り立たなくて、そうじゃないメンバーがいてくれたからこそ喜びの総量が大きくなったなとも思いました。高校時代は試合に勝ってもベンチメンバーがあまり喜んでいなかったり、自分が出られない悔しさの方が大きかったりということがあったんですけど、大学サークルでは出ているメンバーも出ていないメンバーも、本当に濃いレベルでチームのための役割分担をみなでしていて、試合に出るだけじゃない、みなが成長できる関わり方、そういうサッカーがあってもいいなと感じました」


――クリアソン新宿の独特のフィロソフィは丸山さんのそうした経験からきているんですね。

 「Jリーグの選手やクラブの経営者などと話す機会がある中で、勝ち負けや良い選手を獲得してチームを勝たせる、ということはもちろん大事なんですけど、そこに偏重し過ぎているんじゃないかなと感じることがあります。自分の基準としてはそこがすべてじゃないなと思うので、そういったことを一つひとつ言語化していって、大事に思ったことをクラブの理念などに書かせてもらっています。

 ビジネスや経営の観点にしても、サッカーをより成長させるにはと考えた時に、サッカーをエンタメととらえるのか、教育ととらえるのかによってもマーケットが変わってくると思っていて。例えば塾が週1回で月謝1万円なのに対して、サッカースクールは週2、3回で5、6000円というのが現状で、そりゃあコーチのお給料も塾の半分くらいになるよねという話なんですけど、もう少しサッカーを教育として捉えられたら、塾と同じかそれ以上の価値を提供できるのかなとも思っています。自分としてもサッカーというスポーツで人間的にも、自分よがりだった人間が仲間と協力できるようになったり、人との関係の中で生きることを学ばせてもらったなと思っています。なのでクリアソン新宿というクラブがそういうものを思い切り表現するクラブになれたら、いろんなサッカーの見方が広がって、サッカー界にとっても意義のあることになると考えています」

「応援のすゝめ」の意味


――それに関連する話で言うとHPに「応援のすゝめ」 を掲載されていますよね。これはサポーターにもそういった視点を求めていくということでしょうか?

 「これはけっこう賛否はあると思うんですけど、だからあえて『すゝめ』というくらいのやわらかい言い方にしています。サッカーの構造を見た時にピッチでプレーする人がいて、スタンドで応援してくださる方もいて、応援する方にはゴール裏で激しく応援する方もいればメインスタンドなどで落ち着いて観られる方もいる。そのスタンドの人たちについてはピッチの中ほどルールがないというか、極端に言うとサポーターが問題を起こしてしまった責をクラブが負う事例もあります。なのでサポーターという存在をどう位置づけるかはクラブとしても大事だと思っていて、どういうスタンドであって欲しいかというのも提供できる価値なんじゃないかなと。

 うちとしてはクラブも選手も理念やビジョンをすごく大事にしていて、そういったものに共感していただける方々に来ていただいて、一緒にスタンドからも良い雰囲気を作ってほしいと考えています。楽しみ方はひとそれぞれなのでブーイングが必ずしも悪いとは思っていないんですけど、僕らのスタンドは相手にブーイングをするよりも、味方を応援するあり方になる方が価値があるものだなと考えています」


――相手に対するブーイングは海外では当たり前ですが、教育を重視するのであれば難しい問題ですよね。

 「社会人サッカーでも審判に対する暴言は出てしまいますけど、僕らは、感情に任せた愚痴や批判にならないようにしようと選手にも言っています。審判も人間だし、忙しい中でやってくださっていて、間違えることも感情的になることもあるけど、感情的に返すのはやめようと。もちろん判定に関して健全な議論は必要だと思いますが。そういうスタンスをスタンドも一緒に持てるとしたらすごく素敵なことですし、幸い僕らはまだカテゴリーが下で、ものすごくたくさんの人が応援に来るわけではないので、今のうちにスタンドのコアとなるような雰囲気作りをこちら側で定義させてもらえればなと。スタンドの雰囲気もクラブの提供価値になりますから。親御さんがここになら子供を観に行かせたい、選手が前向きになれる、トライしたミスに対しては温かい拍手やポジティブな声が出るようなスタンドになればなと考えています。観戦に来てくれた子供たちが自分のチームに戻った時に、味方のミスや審判に文句を言うのではなくて、もっとポジティブな働きかけができるのようになる。これが1つのやり方なんじゃないかなと思って『応援のすゝめ』で表現しています」


――スタンドの雰囲気作りはカテゴリーが上がった後だと難しいものがありますしね。

 「大事なのは言い続けて歩み寄り続けることですし、あくまでも僕らの1つの考え方でしかないので、そういう考え方って良いよねと思ってもらえるクラブとしてのあり方を続けることが大事なのかなと思います」


――サポーターという呼び方を使わずに「メンバー」としているのもそういう考え方からですか?

 「サポーターという言葉には、既存のイメージがついてしまっているなとも感じています。とはいえ奇抜な名前をつけると意味がわからなくなるので、アルバイトのことをクルーと呼んでいるオリエンタルランドのような感覚で、コアなファンの領域をメンバー、スポンサーに近しい領域をパートナーと呼んで、一方的に支援してあげている、応援してあげているというスタンスではなくて、一緒に何かを作っている存在なんだと感じていただけるようなクラブにしていきたいと強く思っています」


――いわゆるスポンサーを「パートナー」と呼ばれていますけど、通常だと支援規模の大小でくくって掲載されていると思うんですが、クリアソン新宿の場合はジャンル別で紹介されていますよね。

 「ベースは『ビジョンパートナー』という形で、基本的には理念・ビジョンに賛同いただくことを大前提に置いていて、そこから共に進んでいく中で『地域』『事業』『競技』と分かれています。『競技』はユニフォームなどに掲載する従来のものに近い形で、『事業』は企業が持たれている事業にクラブを使って連携してという形、『地域』は我々が新宿という地域に対して行っている活動に一緒になって連携していただけるパートナーという形になっています。企業によってサッカークラブをどう使いたいかという考えもそれぞれ違っていて、単純に広告宣伝という考えもJ1、J2くらいまで上がれば一定の価値が出てきますけど、一方で広告宣伝はどうでもよくて、とにかく応援したいという企業もいらっしゃる。自分たちの事業として、サッカークラブのコミュニティやネットワークを活用して本業を伸ばしたいということであれば事業パートナーとして一緒に活動すればいいと思っていますし、そういう枠組みで各企業に対して僕らが提供できるソリューションはこういうものですとご提案させていただいております。今までの既存モデルだとスポンサーと言われる形で、すべてが広告宣伝に立脚しているわけではないですけど、原則はそのクラブの何かしらの想いに共感して応援したいというクラウドファンディングに近いお金と、あとは広告宣伝や企業社内の活性化みたいな文脈があるかと思います」


――応援しているから何となくお金を出してくれる。

 「そういった少しふんわりとした、サッカーを頑張っているので応援してくださいというのが主要なスポンサーモデルになっていて、そういう目線ももちろん大事なんですけど、もう少し企業のニーズの解像度を上げて、そこに対して僕らが価値を提供するんだという意識を持っています。それこそ井筒などは選手でありながら、一緒に企業に行って企業の課題を解決する。サッカーで得たセルフマネージメントやチームマネージメントというテーマで企業の課題解決のための講演をするといったことも、クラブが提供できる価値だと思っています。企業さんに対して、何が一番価値が高いのかを一つひとつ丁寧にやっていくという観点でパートナー制度を設計させていただいてますね」

なぜ、社員選手が多いのか?


――働きながらサッカー選手をするというと、大企業のチーム以外はスポンサー企業で働きながらという形が多いと思うんですけど、クリアソン新宿の場合は社員選手が多いのがユニークです。

 「どのあり方が良いのかの優劣はないと思うんですけど、僕らの切り口で言うと昨季は26人の選手がいて、10人がうちの社員選手で3人が学生、残りの13人が社外選手という構成で1年競技をしてきました。本当は部活でも十分やれる学生が社会人サッカーというフィールドを選んだり、社外選手がリクルートやサントリーという企業で、彼らのフィールドで全力でやりながら、それ以外の時間で自己実現をしながら自分の成長や社会の価値提供のようなことをやっていくという、全部のあり方が面白いなと思っています。株式会社Criacaoという企業に勤めている選手も、自分がやっているサッカークラブでの競技活動と、その競技活動をしているからこその地域との連携や企業への研修の提供だったり、スポーツという切り口で自分達の経験を大学の体育学生向けに言語化や構造化して、就職活動のサービスとして提供していくなど、サッカーを広くとらえてビジネスと両立していける。経験を違う領域に持っていっているだけで、サッカーをピッチの上でプレーしているのと同じ感覚だと。それはサッカーの価値だなと捉えながら仕事をしてもらっていますので」


――競技への悪影響はないですか?

 「ピッチでプレーすることとトレードオフが起きるのでは?と考えるサッカー関係者はたくさんいると思いますし、当然起きる部分はあります。けれどそれよりも競技以外の活動をすることで、サッカーをもう少し広く理解できたり、自分がやっている価値で自分のことを応援してくれる、一緒に喜んでくれる人が増えて、それはビジネス的な観点でも収益性が増えて自分の給料が増えることにもなりますし、そういったことが結果として競技の質を高めることにもつながっていく。そうやって社会に触れていればセカンドキャリアという問題も自然になくなると思いますし、もう少し当たり前にサッカー界が社会につながりながら動いていけて、『選手を引退したのでマッキンゼーに行きます』『フットボリスタで一緒に働かせていただきます』という世界観を目指していきたいなと思いますね」


――スポーツ界ではずっとセカンドキャリアの問題があって、最近は現役のうちから考えましょうという流れになっていますけど、同時に進行していくというのはさらに次のスタンダードになるかもしれませんね。

 「そもそも切り分ける必要はあまりないのかなとも思いますね。職人的にサッカーをやりたい人はきちんと切り分けてそういうフィールドを選べばいいと思いますけど、それだけではない同時進行の考え方が当たり前になってきたら、もう少しあり方が変わってくるかもしれない。今の時点だとサッカーをもう少し広く捉えられるようになって、それが自然に社会価値やビジネスになれば良いと思います。既存のサッカーの、競技を突き詰めていくという素晴らしい世界があるので、そこにもう少し幅を出していくような一端を担えればサッカー界にとっても意義のあることだし、そこにチャレンジしたいと思っていましたから」


――井筒選手や小林祐三選手もその理念に共鳴してくれた?

 「そうやって活動していくうちに井筒だったり、小林祐三のような感度が高くて、僕たちが考える理念を体現しながらサッカーでもパフォーマンスを出してくれるような選手たちと出会えました。こういう人たちと一緒に世界を作っていって、プロサッカー選手を目指す子供の親御さんに『クリアソン新宿に行けばいろんなキャリアにチャレンジできるから』と言われるような存在になっていきたいです」

2019年に徳島ヴォルティスからクリアソン新宿へ加入した元Jリーガーの井筒陸也


――ただ勝ちを目指すのではない、違う方向でサッカーの価値を提供するのがクリアソン新宿のやり方だということですけど、一方ではカテゴリーを上げるためには勝たなければならないわけで、難しい二律背反があるのではないでしょうか?

 「そこは意図が誤って伝わったかもしれませんが、勝つためにどんな手段を使ってもいい、ということではない、そこは大事にしたいと思っています。一方で、勝つためのマリーシアのような考えもわかるんですけど、そこよりも優先順位を高く、サッカーの構造を理解した人間教育をする先に勝利があると考えています。サッカーの原理原則として、脳から一番遠い足という部位を使ってやるものなので、そこのミスをどう補うかというのが勝利へのステップだと思います。まずはミスを減らすことが重要ですし、11対11という人数で変数が多い中で決断をしていく、状況認知や決断力、自分で判断するという自立を求められるスポーツという特性があるので、純粋に頭を使うという観点を突き詰めてやっていきたいです。だから勝ちにはめちゃめちゃこだわるんですけど、勝ち方やスタンスにもっとこだわりたい。勝たなくていいのだったらサッカーやスポーツじゃなくて良いと思いますから(笑)

 自分たちと同じようなことを言っているNPO法人やベンチャー企業はたくさんあると思うんですけど、サッカーならそこをわかりやすく勝利で示せると思います。とはいえ僕らも昨年関東1部で5位と、まだまだなチームですけど、それを積み上げてきた中で東京都4部だったチームが関東1部まで来ました。これを突き詰めていけば世界一に近づいていくんだろうなと思っていますので、そういうプロセスを大事にしていきたいです」

「新宿力」=違いを強みに変える力


――ここからはホームタウンについて聞かせてください。クリアソンは新宿という特異な街を本拠地としていますけど、新宿という地域性をどのように捉えていていますか?

 「新宿というエリアについて、会社がある場所は新宿1丁目ですけど、横の2丁目にはセクシャルマイノリティの方がたくさんいる街があったり、3丁目には飲み屋や伊勢丹さんを中心とした街がある。ちょっと入っていくと歌舞伎町があって、さらに上がっていくと大久保という多国籍なエリアがある。さらに上には早稲田という大学エリアがあって、東に行くと神楽坂という昔情緒の街並みがあって、西に行くと落合という染物など伝統文化にあふれる街がある。そういういろんな考え方がコンパクトなエリアにまとまって、34万人の人口がいて、そのうちの10.5%の3万6千人の外国籍の方がいらっしゃる。こういう人たちが多様性をエネルギーに変えて、お互い強みを生かし合うのが『新宿力』というコンセプトです。

 これはすごくサッカーに近しいなと。違いを認め合って、より高い目標に向かってみなで力を合わせることが社会性を育む人間を育てたり、人に感動を与えたりする本質だなと思っているので、僕らがサッカーを通じて伝えたいことと、新宿という街のコンセプトが合致しているなということで新宿を選びました」


――では実際に新宿を拠点に活動してみて、どうでしたか?

 「その仮説みたいなものは正しかったんですけど、現場で動いているともっと多様だなと。同じ職種や、同じ新宿の事業者でもいろんな考え方があるし、エリアごとでも全然違ったりということを含めると、本質的な多様性は別に新宿じゃなくてもあるんだろうなと感じました。ただ新宿の街はわかりやすく多様性があって、そういうものをサッカーで全部融合させようなんてことはまったく思っていないですし、サッカーは手段の1つでしかない。本当に嫌いな人はサッカーを観ないし、やらないかもしれませんから。その中で少しでもサッカーを、クリアソン新宿を通じて知ったサッカーを面白いなと思ってもらったり、新宿が好きだからクリアソン新宿を応援してみようと思ってもらいたい。そうした中で、多様性をみんなで良い理解に変えていって、みんなで協力する同質性を持ちながら多様性を認め合えばすごくいい街になるだろうな、というのを活動していく中で感じています。

 なのであらためて、新宿という街を選んで良かったというか、自分自身も多様性を割と理解していると思っていたんですけど、思っていた以上にいろんな違いがあるので、自分たちが一方的に何かを与える立場ではなくて、一緒に多様性を学んでいっているような感覚をもらっている街かなと思いますね」


――大坂なおみさんの件のように、スポーツが人種差別などソーシャルなものにメッセージを発するということが注目されていますが、そういう問題にクリアソン新宿がどうアプローチしていくのか興味があります。

 「サッカーで言えば、そういったものをある意味対立構造にすることもできるじゃないですか。相手のことをブーイングしてダービーっぽく煽ってというのも、お互いのアイデンティティを強めるやり方だなと思いますし、そのやり方を否定もしないですし、実際に熱狂するんだろうと思います。ただ、対立概念で乗り越えるよりも、お互いの良いところを見て違いを学んで、お互い前向きになれる方が良いと思います。アウェイのチームが訪れた際もウェルカムな雰囲気で、お互いの違いを知り合って、良いものだなと感じるサッカーがあってもいいと思うので、僕らはそういうところを目指してチャレンジしたいです」

23区内にプロクラブを作る意義


――そういった理由で新宿を選ばれて上を目指していく中で、今現在23区内にはプロサッカークラブが存在しません。23区内にプロクラブが生まれる、23区内でJリーグを目指すという意義についてはどう考えられますか?

 「僕らのコンセプトとしては、まずはこの新宿からやっていく。伝えたい価値の本質がこの街には詰まっているというのと、新宿のためだけにではなくて新宿から、新宿と一緒になって東京や世界に広げていくことに意味があると感じています。そういった意味においては、23区だけで人口が950万人いて、東京には1400万人いるということを考えると、ビジネス的な観点もそうですが、たくさんの人に僕らの考え方を伝えるチャンスがあるマーケットだなと思っています。

 物事の鉄則として、インパクトを与えるのだったらたくさん人の通るところでやるのが絶対に良いよねというのはありますから。そう考えた時に23区にクラブがある意義は、サッカーファミリーを広げられるチャンスが多いということだと認識しています。そこにあるだけでたくさんの人に知ってもらうことにつながると思いますので、サッカーに触れないでも生きてこれた東京という街に、サッカーの素晴らしさに触れてもらえる機会をたくさん作れることは意義があると考えています。加えて、サッカー人口の減少、特に若年層の競技人口が人口減よりも高い比率で減少しているので、良いサッカークラブが23区内にあればシンプルに競技人口も増えるはずなので、そこにも貢献していきたいです」


――ですが、23区内となると、スタジアム問題も重くのしかかってきます。

 「そこは課題になっていますね。コロナ禍で新規参入条件の緩和も叫ばれていますけど、Jリーグの担当者と話していると(条件の緩和は)これまで頑張ってクリアしてきたクラブがどう考えるか気になると。そこで15クラブくらいの経営者とお話させていただいて『23区内にプロサッカークラブができることをどう思うか?』という話を聞いてみました。そうすると1つも反対をされなくて、例えば地方のクラブが関東のクラブと試合をするだけでも数百人のアウェイサポーターが来てくれる、これが新宿だったら数千人単位で来てくれることもあり得て、地元だけでは得られなかったお客さんが増えてマーケット拡大のチャンスにつながると。23区にクラブができるのはアウェイクラブにもメリットがあるという話をしていただけています。同時に、コロナ禍において基準としての観客動員をどう捉えるかという議論も起こると思いますので、考え方に柔軟性が出てくるタイミングなのかなと考えています」


――現実問題として土地もないですし、23区内に新しくスタジアムを作るのは困難ですよね。

 「スタジアムが作れそうな広さがある場所はだいたい公園で、特に都心区の公園は都が所有しています。なので都が認めないとスタジアム開発は進みませんし、東京都は特定のクラブのホームタウンとすることを認めないという考え方を現状持っています。それもあってとてもハードルが高くなっていて、そういった一つひとつをひも解いていったとしても、コロナでどこの自治体も財政は大きなダメージを受けています。仮に土地や機運があったとしても、そんなお金があるのなら飲食店に1円でも出してやれという時代だと思いますし、僕もそう思います。なので新しく作るとしても、既存のスタジアム、西が丘や駒沢だったりを上手く活用しながらみんながサッカーに触れられる環境を作って、コロナが落ち着いていろんなものが回復してきた時に、やっぱりサッカースタジアムがあった方が良いよねという空気になってようやくスタートだと思います」


――では、その先はどう考えますか?

 「中長期的には、僕らの新宿には国立競技場があって、そもそも誰がどうやって活用するかも決まっていない。今はまだまだ力不足ですけど、人気があるクラブ、多くの人に喜んでもらえるクラブになれば、国立をホームスタジアムとして使用させてもらうという選択肢もあるのかなと。稼働率を高めて税金の支出を減らせるというのであればそれ自体に意義があると思いますし、既存のスタジアムを活用しながらサッカー界全体や社会への貢献を目指していくやり方が王道なんじゃないでしょうか。東京都サッカー協会とも協力して、短期的には複数のスタジアムを活用しながらやっていく案を出しながら、中長期的には『国立をぜひ使ってほしい』というクラブになっていくことが、あり方として優先順位が高いと思っています」

東京オリンピックの主要会場として新宿区に建設された国立競技場。新たな聖地の使用を認められるクラブを目指して、クリアソン新宿は歩みを続けていく

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Photos: Criacao Shinjuku, Getty Images

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Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。