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伝え切れていなかった日本代表活動のリアル。“長距離移動”問題に記者が抱える葛藤

2022.09.22

好評発売中の本誌『フットボリスタ第92号』では、「W杯から学ぶサッカーと社会」と題した特集企画を実施。開催国カタールのサッカーというソフトパワーを活用した国家ブランディング戦略から、サッカーファンの政治への向き合い方、さらには拡大するW杯の行き先まで、4年に一度の祭典を切り口に見えてくるサッカーと社会の関係性を考えた一冊だ。

その記事企画として、吉田麻也が過去4年間の日本代表活動で強いられた「地球8周分」移動の裏にあるサッカーエコシステムの問題点とその解決策を探るべく、山崎卓也FIFPRO (国際プロサッカー選手会)アジア支部代表へインタビューを敢行した竹内達也記者に、取材後記を綴ってもらった。

将来に受け継ぐための吉田の提言

 国別代表チームで戦う選手たちにとって、大陸間移動や過密日程を強いられる中でプレーするのがどれほど過酷なことなのか——。

 今や欧州組が大半を占めるようになった日本代表において、常につきまとってくる“長距離移動”問題。その肌感覚をより深く理解するための一助となる記者会見が、今年6月に開かれていた。出席したのは国立競技場での親善試合ブラジル戦を前日に終えたばかりのDF吉田麻也。2009年末のA代表デビューから13年間にわたって第一線でプレーし、18年秋の森保ジャパン発足後はキャプテンとして日本代表を率いてきたベテランだ。

 アジア各国の報道陣がオンラインを通じて聞き入った会見の場で、吉田は「このままいくと、いつ体が壊れてもおかしくない」と痛切に訴えた。その際に示されたデータによると、18年6月から4年間の移動距離は地球約8周分にあたる計約31万8000km。大半は日本代表の試合に出場するため、所属クラブがあるヨーロッパから長い時間をかけて航空機で移動したものだ。

 それも代表選手たちは、ただ長い距離を移動すればいいというものではない。長距離移動を経てチームに合流した後、たった2、3日の準備期間で試合がやってくるし、高度な精神的負荷の中で通常2試合をプレーする。そしてまた長い距離を移動して所属クラブに戻り、日常のリーグ戦に臨むのである。このルーティーンは代表選手であり続ける限り、年3、4回ほど繰り返されることになる。

 もっとも、ここで誤解を避けておきたいのだが、吉田は「代表活動がサッカーキャリアの障壁になっている」と言いたいわけでは決してない。

 「少し前までは移動の中で予選をしないといけなくても、それでも日の丸を背負って戦うということが日本代表の宿命だと思っていたし、若い頃からそう教わってきた。日本代表でヨーロッパで活躍するならやっていかないといけないと言われてきた。物理的な距離がある分、ヨーロッパの選手よりタフにならないといけないのは間違いない」

 「ただ、今のフットボールはスピードも強度も上がってきていて、フィジカル的な要素がすごく重要になっている。その中でこのようなタフさを強いられるのは、これからの選手にとって枷になっていくんじゃないかと思っている。僕はプレミアリーグにいたからこそ、それがいかに難しいかを理解している。少しずつプレミアリーグなどのレベルの高いチームでプレーする選手が増えている中、僕は彼らがビッグクラブで活躍する姿を見たいし、そのためにできることはこうしたインフラ面、ピッチ外のこと、環境をもっと整えてあげること。それが彼らのキャリアの手助けになるんじゃないかと思っている」

 国を背負って戦うことに大きな価値を見出しているからこそ、その活動をより望ましい形に変え、将来世代に受け継いでいくための提言だった。

ブラジル戦でリアクションを見せる吉田

代表活動に襲い掛かる試練の数々

 こうした長距離移動はヨーロッパ出身の選手には見られないもので、ヨーロッパでプレーする南米やアジア出身選手に顕著。会見ではその実態も明らかにされていたが、トッテナムのハリー・ケイン(イングランド代表)とソン・フンミン(韓国代表)では約2.5倍の差があるという。吉田によれば、自身はリーグ戦が終われば夜中のうちに帰国の途につくのが通例だが、ヨーロッパ出身の選手はオフが挟まれることもあるそうだ。

 それでも日本代表選手たちは普段、長距離移動の過酷さを自ら積極的に口にする機会はほとんどない。なぜなら彼らにとって、代表戦に伴う長距離移動はもはや「代表選手である限り求められる使命」のようなものとして捉えられているからだ。

 例えば日本代表で言えば、21年11月のW杯最終予選ベトナム戦前に起きた出来事が象徴的だった。代表ウィーク直前にリーグ戦があった11選手はJFAが手配したチャーター便でオランダ・アムステルダムを出発したが、給油地のロシアで運行トラブルが発生。約12時間にわたって足止めされ、敵地のベトナムに向かうという異例の事態に見舞われたのだ。

 選手たちは試合前々日の深夜にようやく合流し、前日練習のみ参加できるという状態だった。しかし、前日練習前に取材に応じた選手によると、遅延中の機内でミーティングを実施。吉田はその様子を「練習も少ししかできなくて試合が続いていたので、なかなか話すこともできないし、ある意味でいい機会になったかなと思う。こういう経験はしておいたほうが将来役に立つと思う」と前向きに振り返った。

 また森保一監督も彼らのうち5選手を先発に起用。試合後には「遅れて合流した11人の顔を見た時にすごくいい顔をしていて、疲れた様子があまり見受けられなかった」と振り返りつつ、「移動のアクシデントがあったり、練習の時間も削られた中、選手たちが落ち着いてアクシデントを乗り越えてくれて、限られた時間の中で非常にいい準備をしてくれた」とコメントし、彼らのメンタリティを称賛していた。

ベトナム戦で移動トラブルに巻き込まれながらも、先発起用に応えた守田英正、伊東純也、南野拓実ら5選手

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FIFpro吉田麻也山崎卓也日本代表

Profile

竹内 達也

元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea