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ボルシアMG新世代コーチが提案するGKトレーニングのエコロジカル化

2022.09.14

集団での相互作用を大前提として語られがちなエコロジカル・アプローチは、GKトレーニングのように専門性の高い少人数の練習環境にも適用可能なのか? その難題に理論と実践で挑むのが、ボルシアMGのファビアン・オッテだ。新世代GKコーチのユニークなキャリアとメソッドを、彼が博士号を取得したケルン体育大学大学院でゲーム分析を学んでいるcologne_note氏に紹介してもらおう。

※『フットボリスタ第89号』より掲載

アメリカ、イングランド、ニュージーランド…3カ国を渡り歩いた異色のキャリア

 ボルシアMGのファーストチームでGKコーチを務める31歳のファビアン・オッテは、異色のキャリアパスで現在のポジションにたどり着いた。2009年にはU-19ブンデスリーガ所属のプロイセン・ミュンスターに在籍していたオッテだが、自身の実力ではプロとしてのキャリアを歩むのは難しいと判断し、スポーツマネージメントを学ぶために渡米する。大学リーグで選手生活を続けながらアメリカでの学業を終えたオッテは、一度ドイツに戻り4部リーグでプレーするもサッカーだけの生活に満足できなかった。

 「ドイツに戻ってから2カ月経って思った。あり得ないって。毎日サッカーの練習とプレイステーションだけ。35歳までこれを続けるのは嫌だった。何か脳に刺激のあるものが必要だったんだ」

 さらなる海外挑戦を求めた彼は、ニュージーランド2部クラブへと移籍。そのわずか半年後には、マーケティングを勉強するためにイングランドへ飛んだ。ニューカッスル大学に通いながら下部クラブのゴールマウスを守り、2016年に修士課程を終えたオッテは、アムステルダムにあるナイキの欧州本社に晴れて就職。マーケティング部門の一員として働き始めたが、オフィスでの仕事には慣れなかった。再びピッチへ戻ることを求めていた時、ニュージーランドから電話がかかってくる。元チームメイトからニュージーランド女子代表のGKコーチとしてのオファーを受けたオッテは、入社からわずか7カ月でナイキを離れ、2017年にニュージーランドへ戻ることを決断した。

東京五輪(写真はGS第2節アメリカ戦)に出場したニュージーランド女子代表を指導した過去を持つオッテ。南半球に浮かぶ島国での異文化交流が「スキルトレーニングのピリオダイゼーション」に生かされている

 ニュージーランドサッカー協会での仕事は当初フルタイムではなかったため、オークランド大学で補助教員の仕事をこなし、さらには下部リーグでもプレーを続けるなど忙しい日々を過ごした。オッテはその後、ユース代表のGKコーディネーターとしての職も任され、協会との長期契約締結に漕ぎつける。NZ女子代表が出場する東京五輪にも帯同予定だったが、事態が変わったのは2018年の5月。母国から連絡が入った。声をかけたのは、当時ホッフェンハイムでGKコーディネーターとして働いていたミヒャエル・レヒナー。U-23チームのGKコーチとしてのオファーを、オッテは「ノーとは言えないようなチャンスだった」と回想している。

 帰国したオッテはホッフェンハイムでの指導と並行しながら、ケルン体育大学大学院でGKトレーニングの研究に取りかかる。そのきっかけは、ニュージーランドでの経験だった。オセアニアの島国で彼が目にしたのは、ラグビーからクリケットまで競技の垣根を越えて交流し、知見を蓄えていく指導者たちの姿だった。

 「ニュージーランドは研究に対してとてもオープンだ。人数の面では相当限られているから、選手から最大限を引き出すために、パフォーマンスを数パーセントでも上げられるものはないかと常に模索していた」

 オッテはホッフェンハイムでの2年間を経て、イングランド人のパートナーの都合もあり再び渡英する。そこで職探しを始めると、つてを頼りながらバーンリーのGKコーチ、ビリー・マーサーとの接触に成功。彼のアシスタント兼リザーブチームのGKコーチとして、プレミアリーグクラブに加入した。シーズン中、オッテはそれまでに学術誌に寄稿してきたトレーニング理論をまとめていく。「専門職のGK指導における現代的なスキル(習得)トレーニング方法」というタイトルの論文を書き上げ、ケルン体育大学大学院で社会科学博士の学位を取得した。当時30歳という若さで、代表チームにはじまりドイツとイングランドの1部クラブで指導経験を積みながら、ドイツ最高峰の研究機関で学術知識を身につけたオッテは2021年、遂にブンデスリーガクラブのGKコーチに就任。10年間、世界を渡り歩いてきた彼はドイツでの新しい挑戦について、「ここで人生を少し安定させられるのがうれしいね」と喜んでいた。

代表とクラブでの指導経験から誕生「スキルトレーニングのピリオダイゼーション」

 オッテが自身の論文を通じて試みたのは、エコロジカル・アプローチや非線形教育学、制約主導型アプローチに基づいた「スキルトレーニングのピリオダイゼーション」というコンセプトの確立だ。スポーツ科学の世界では、古くから様々な研究者が運動学習のモデル化を図り、特にピリオダイゼーションは注目を浴びてからすでに久しい。オッテはこれらの原則を彼自身のようなチームスポーツ内の「専門コーチ」のトレーニング文脈に適用することで、実践的な選手の育成計画を提案できるような理論構築を目指した。……

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GKエコロジカル・アプローチファビアン・オッテボルシアMGヤン・ゾマー

Profile

cologne_note

ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note