SPECIAL

ラフィーニャ(ブラジル):人生は急展開。「小柄で痩せっぽち」と言われ続けた遅咲きFWの軌跡【W杯注目の新星⑩】

2022.08.27

7月11日に発売され、現在プレゼントキャンペーンも実施中の『footballista 2022 QATAR WORLD CUP GUIDEBOOK』。出場32カ国確定のタイミングでどこよりも早く、全チームの有力メンバーを網羅した選手名鑑と戦術分析をお届けするカタールW杯観戦ガイドだ。その連動企画として、WEBでは各国の担当ライターがそれぞれ、本大会でブレイク期待の“ライジングスター”を紹介。第10回は2002年日韓W杯以来の優勝を目指す「ブラジル代表」から、昨年10月のセレソンデビュー後、一躍レギュラー候補に名乗りを上げ、今夏にはリーズからバルセロナへのステップアップ移籍も果たした25歳の俊足ウインガー、ラフィーニャを取り上げる。

 ブラジル代表チッチ監督が“ペルニーニャス・ハッピダス”と呼ぶ選手たちがいる。「俊足」をニックネームのように使ったもので、訳すなら“俊足くんたち”といったところ。昨年後半から代表で実力を発揮し始め、チームの攻撃にスピードという武器を加えた、ラフィーニャ(バルセロナ)やビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)、アントニー(アヤックス)といった若手FW陣のことだ。

 中でもラフィーニャはブラジルでプロになる前にヨーロッパに渡り、国内サポーターやメディア関係者の馴染みがなかったため「チッチの発見」と言われている。

 代表デビューは昨年10月で、まだ1年も経っていない。それでも今、ベテランから若手まで好調な選手がひしめくブラジルのアタッカー陣において、W杯招集枠争いはもちろん、スタメン候補にも挙げられる選手となった。

デビュー戦で3点演出、初先発で2ゴール

 鮮烈なデビューだった。2021年10月7日、アウェイでのW杯南米予選第11節、ブラジルが1点のビハインドを背負ったベネズエラ戦。後半からピッチに投入されると、チームの3得点に絡み、逆転勝利(1-3)に貢献したのだ。

 ラフィーニャは「多くの意味を持つ試合になった。アシストはゴールと同じ価値があると信じているし、ゴールを決めるのと同じぐらい幸せに思う」と冷静に語っていた。

 その3日後のコロンビア戦(0-0)、途中出場での好プレーを経て、さらに4日後の10月14日、ホームでのウルグアイ戦(4-1)では、初スタメンにして2ゴールをマークする。

 前半18分、ネイマール(パリ・サンジェルマン)のシュートを相手GKが指先で弾いたところに飛び込み、ワンタッチで決めて1点目。後半58分の2点目は、高速で走りながらネイマールからボールを受けると、ノンストップでドリブルし、相手が追いつく前にシュート。GKが動けないタイミングで逆サイドに決めた。

ウルグアイ戦のハイライト動画。ラフィーニャのセレソン初ゴールは1分27秒〜、圧巻の2点目は7分55秒〜。1996年12月14日生まれの25歳は以降スタメンに定着し、今年2月のW杯予選パラグアイ戦(○4-0)でも得点を挙げている

 この日ネイマールが挙げた先制ゴールも、彼のドリブルから始まった。メディアは一斉に「ネイマール&ラフィーニャのショー」と見出しを掲げた。彼は試合後、高揚しながらも謙虚にこうコメントしている。

 「この幸せをどう言葉にすれば良いのかわからない。今夜は眠れないだろうし、これからもこの試合を忘れることはない。この夜が終わらなきゃいいのに。でも、僕がここに来られた理由、リーズでの良いプレーができるように、また集中し直して頑張らなくては。これから何度でも、代表に戻って来られるように」

 その言葉通り、リーズで活躍を続けたラフィーニャは、今年7月にバルセロナへの移籍を果たした。代表でもここまで、新型コロナ感染による辞退を除いて、南米予選7試合、親善試合2試合を戦い、合計3ゴールを記録している。

 左利きで、主戦場は右サイド前方だが、ピッチのどこでも縦横無尽に駆け回る。スピードがあり、ドリブルやフェイントに長け、パスで味方を生かせる上に、独力でフィニッシュにも持ち込める。

 初招集の時点で24歳。年代別代表にも呼ばれたことのなかった彼は、遅咲きのライジングスターとも言える。しかし、ヨーロッパでは着実にステップアップを重ねていた。

挫折の繰り返しだった少年時代

 ブラジル南部ポルトアレグレの、市内でも経済的に恵まれない地区に生まれ育ったラフィーニャ。路上でのサッカーの他には、地域の社会プロジェクトとして運営されるクラブなどにも通っていた。厳しい環境に暮らす少年たちが道を踏み外さないように、サッカーを通して人間形成をすることを目的としたチームだ。

 ラフィーニャは誰よりも早く練習に来て、最後まで帰ろうとしない。せっせと用具の準備を手伝い、ボールを持てば一際目立つ存在だった。そして、今日はこのチーム、翌日は別のチームと試合をはしごしてプレーする彼を、家族は今も笑い話のように思い出す。

 しかし、少年時代は挫折の繰り返しだった。知り合いの紹介でポルトアレグレの2大クラブに挑戦したものの、インテルナシオナウのスクールでも、グレミオ下部組織のプロジェクトでも、入団テストに落ちてしまった。……

残り:2,516文字/全文:4,706文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

カタールW杯バルセロナブラジル代表ラフィーニャ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

RANKING