「新スタジアムはこの街にとって絶対にプラスになる」――ブラウブリッツ秋田・岩瀬浩介社長インタビュー
2022年4月、秋田市の新スタジアム建設に大きな進展があった。新スタジアムを含む秋田市外旭川地区のまちづくり事業で、事業パートナーに選定されたイオンタウンの提案内容が判明したのだ。新スタジアムはJリーグのスタジアム基準を満たす屋根が付き、ピッチは可動式になる構造が予定されているという。
2019年11月末に公開した記事「秋田に新スタジアムは必要か? 岩瀬浩介社長独占インタビュー」から2年4カ月。この間、秋田で何が起きていたのか。そして、今後の展望は。再びブラウブリッツ秋田社長・岩瀬浩介氏に話を聞いた。
「まちづくりの1つとして新スタジアム建設を」
――2019年11月末に公開した岩瀬さんインタビュー記事後のトピックスについて、時系列でお聞きします。まずは当初のスタジアム建設候補地であった「八橋運動公園」「秋田大学」「秋田プライウッド」が、秋田県と市によって2020年2月にいずれも不適と判断されました。
「この判断が下される前から外旭川地区の“まちづくり構想”の話を聞いていたので、新スタジアム建設がそこに含まれる形になるのであれば、悪い結果ではないと思っていました」
――“まちづくり構想”に新スタジアム建設が含まれているのは、ブラウブリッツ秋田が地域に根ざしている証と捉えることができます。
「そうですね。時期は前後しますが、2021年の賀詞交換会で秋田市の穂積(志)市長から『まちづくりの1つとして新スタジアム建設を』とおっしゃっていただけました。まちづくりのコンテンツとして、クラブの存在を認めていただけたのは大きかったですね。2020年のJ3優勝や、長年続けてきているホームタウン活動など、スポーツ振興だけではないところも含めて、クラブが秋田市のまちづくりに寄与していると認識していただけたのではないかと」
――外旭川という地区に関して、岩瀬さんはどのような印象をお持ちですか? 「コンパクトシティ」という言葉で説明されるJR秋田駅前の市街地の活性化と、郊外……つまり、外旭川の開発の両立は賛否両論、県内で長く議論されているテーマだと聞きます。
「そこは考え方次第で。どのエリアに建設されようと、新スタジアムはこの街にとって絶対にプラスになるということは確信をもって活動し続けているので。サポーターの方にとっては、田んぼと古い卸売市場がある外旭川という場所のイメージは持ちにくかったかもしれませんが、右往左往した新スタジアム建設地に関して、大きな前進があったという認識は持ってもらえたのではないかと思います」
――2022年3月末、“まちづくり構想”の民間事業パートナーとして、公募に参加した3社の中からイオンタウン社が選ばれました。
「(イオンタウン社は)大規模事業を何度も経験されている日本有数のデベロッパーで、テナント経営のノウハウにも優れているので、私が言うまでもなく、すごく良い決定だったと思います」
――新スタジアム建設を含めた“まちづくり構想”が少しずつ具体化する中で、サポーターや秋田市内の気運の高まりは感じますか?
「いや、そこはこれからだと思いますね。それこそ市街地の方々からの反発もあるでしょうし、『イオンタウン社=イオンモールが建設される』という誤認もあります。今後、ブラウブリッツの後援会がシンポジウムなどを企画してくれているので、クラブとしてはそうしたところで市民、県民の皆様に説明をし続けることが気運を高める上でも大事になってきます」
“自分たちで造ったスタジアム”と感じてもらう
――同年4月にはイオンタウン社の提案の詳細が明らかになりました。新スタジアムに関しては、屋根付きで、ピッチは可動式であることが記載されています。
「秋田は冬になると雪の影響で、屋外でスポーツできる場所がなくなってしまいます。その意味で全天候型になるのは大きいですね。あと、先日もソユースタジアムで『東北絆まつり』が開催されて、芝生への影響を心配したのですが、新スタジアムは(ピッチが)可動式なので、サッカー以外のイベントにも積極的に利用できる点は大きなプラスです。ブラウブリッツとして試合でスタジアムを使うのは天皇杯を含めても20数試合で、それを公費だけで建設するのは困難な状況でしたが、今回の提案によってサッカーだけでなく、多くの目的での利用が可能となるので、“公共施設”として捉えていただけるのではないでしょうか」
――新スタジアムを“公共施設”と捉える中で、完成後の運営主体についてはどのようにお考えでしょうか? ブラウブリッツ秋田が指定管理者となる考えはありますか?
「いや、この規模になると我々の力だけでは難しいですね。多機能複合型になったからこそ、様々なノウハウが必要なので、別途プロジェクトチームなどを設ける形の方がいいと思います」
――以前、岩瀬さんは新スタジアムについて、寒さ対策として「ヒーティング設備」や、高齢者向けに「エスカレーター設置」などのアイデアを話されていましたが、何か新たに考えているアイデアはありますか?
「時代の流れとしても“エネルギー”については絶対です。うちのメインスポンサーはTDKさんですから、蓄電やバッテリーに関する技術は長けていますし、スタジアムの照明を太陽光で補うことや、県内で開発が進む洋上風力の活用などは検討しています」
――現時点でスタジアムの整備費は143億円と見込まれています。県と市にそれぞれ33億円、国に22億円の支援を求め、残りの55億円は企業版ふるさと納税や民間からの投資が想定されています。
「企業版ふるさと納税の活用は常々話しているのですが、まだ一般の方を含め、企業の方々も、行政の方々も知識やノウハウが豊富な訳ではありません。そういう意味では、先日発表した潟上市内にサッカーグラウンドを整備する事業は2億5千万円の総工費を企業版ふるさと納税で集めようとしているので、ここでしっかりと成功を収めることが重要です。クラブとしての営業力が試されています」
――新スタジアム建設費に関して、企業版ふるさと納税以外に予定されている集金活動はありますか?
「クラウドファンディングや、パナソニックスタジアム吹田のような個人からの寄付を募る形はあると思っています。秋田県内どのお店に入っても募金箱が設置されていて、お釣りはいつも入れてしまうみたいな形になればいいなと。あと、有名な『ヤマダフーズ』さんの納豆はご存知ですか? 秋田では非常に親しまれて、スーパーでは必ず目にします。例えば、この納豆に新スタジアム建設を告知するシールが貼ってあって、1個購入ごとに売上から1円がスタジアム建設に寄付されるようなアプローチも面白いと思っています」
――新スタジアムを身近に感じてもらうためにも、小口でも寄付者の数を増やすことは重要だと思います。
「はい。街中で『おめえんとこのスタジアムに寄付もしたし、納豆も買ったし、お釣りも入れた。椅子1個くらいは俺の寄付で造ったんじゃないか』なんて言われるくらい多くの人たちが参画する仕組みが必要ですね。完成した時に“自分たちで造ったスタジアム”と感じてもらうこと。これが重要です」
――少し気が早いですが、新スタジアム完成後についても聞かせてください。2021年度のブラウブリッツ秋田の営業収益は7億7500万円で、内入場料収入は3800万円となっています。将来的に目指す営業収益の額はありますか?
「15億円ですね。J1昇格プレーオフ圏内を目指す上で、それくらいの額がラインになってくると考えています。売上が多くても勝てないことはありますし、逆に少なくても勝てる可能性があるのがサッカーの面白さではありますが。やはり舞台装置(新スタジアム)ができることで、サッカーの魅力が正しく伝わりますし、虜になる人がたくさん出てくるんじゃないかなと思いますね」
――新スタジアム完成がますます楽しみになってきました。本日はお時間いただきありがとうございました。最後に読者に一言いただけますか?
「新スタジアムが完成した時に多くの方に観戦してもらえるためにも、今の環境下でコツコツとお客さんを集めていく。それが大切だと思います。クラブの存在意義、価値をしっかり示して、気運を醸成させていき、“みんなでつくるスタジアム”にしたいと思います」
Kosuke IWASE
岩瀬 浩介
1981年4月8日生まれ。茨城県出身。プロサッカー選手として2007年にブラウブリッツ秋田の前身であるTDK SCに入団。2010年にブラウブリッツ秋田で引退し、フロントスタッフへ転身。2012年よりブラウブリッツ秋田の代表に就任。2016年~2017年に日本サッカー協会のJFA/Jリーグ将来構想委員会(日本代表強化およびJFA・Jリーグ発展のための施策に関する事項を検討する委員会)を務め、現在は秋田公立美術大学特任准教授も務める。
Photos: BLAUBLITZ AKITA
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Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime