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【月間表彰】4973人の『GAMBA EXPO』がつなぐ未来。ガンバ大阪、30年目のリスタート

2021.09.16

DAZNとパートナーメディアによって立ち上げられた「DAZN Jリーグ推進委員会」の活動の一環としてスタートした「月間表彰」。2021明治安田生命Jリーグで活躍した選手、チームなどを各メディアが毎月選出。フットボリスタでは「月間MIC」(Most Interesting Club)と題し、ピッチ内外で興味深い取り組みを行ったクラブを紹介する。

8月度は『GAMBA EXPO』を開催したガンバ大阪を選出。同イベントが行われるのは今年で4回目。過去3回はいずれもチケット完売、平均入場者数が3万5000人を超える人気企画だが、コロナ禍によるスタジアム収容人数制限により、今回の来場者数は4973人にとどまった。入場料収入が期待できない状況下でも『GAMBA EXPO』を“強行”した理由は何だったのか。ガンバ大阪 管理部 経営管理課 課長の竹井学氏 、管理部 試合運営・広報課 広報担当の木下知子氏、顧客創造部 企画課 チケット担当の文野秀紀氏に話を聞いた。

“つながり” を表現したユニフォーム

――まずは本題に入る前にACLから続いた21連戦、お疲れ様でした。今週は一息つけましたか?(取材日:9月10日)

木下「ありがとうございます。しばらく週2回の試合開催が当たり前になっていたので、逆に(試合間隔が)1週間空いていることに違和感を覚えるくらいです(笑)」

――タフですね(笑)。本日は『GAMBA EXPO』について伺わせてください。本イベントは今年で4回目となりますが、昨年は新型コロナウイルスの影響で開催を見送られています。状況的に今年も同様の判断を下す選択肢はあったと思うのですが。

文野「確かにコロナ禍でのイベント開催はリスクがあります。ただ、『GAMBA EXPO』がガンバ大阪の理念である『スポーツのチカラで地域を元気にしたい、地域の心の拠りどころでありたい、子どもたちに夢を持つきっかけを与えたい』を実現することを目的にしており、難しい時期だからこそ開催する意味があると考えました」

――過去の『GAMBA EXPO』を振り返ると、来場者に記念ユニフォームが配布されることもあり、集客効果の高いイベントになっています。しかし、今年は緊急事態宣言発令により、残念ながら収容人数上限5000人での開催となりました。

文野「開催を決定したタイミングでは50%……つまり、2万人程度の来場者数を想定していました。記念ユニフォームはパートナー企業様からの協賛により制作が実現しているのですが、5000人では宣伝効果も弱まりますし、過去と比較して資金調達が難しかったのは正直なところです」

――マネタイズの面では、今回の記念ユニフォームは一般発売もされています。サポーターの反応はどうでしたか?

文野「好意的なものが多かったです。面白かったのは『スタバっぽいデザインだと思ったら、デザイナーが本当にスタバの人だった』という感想ですね(笑)」

今回のGAMBA EXPO記念ユニフォームは太田翔伍氏がデザインを担当した

――記念ユニフォームのデザインを担当された太田翔伍氏は、お話しのあった「スターバックス」をはじめ、「Google」や「Facebook」など、様々な企業やブランドとのコラボレーション実績をお持ちの方です。人選の基準はあるのでしょうか?

木下「ユニフォームのデザインを誰にお願いするかは毎回一番悩む部分でして、1年がかりと言っても大袈裟ではないくらいです。前回の木梨(憲武)さんのような有名人がいいのか、漫画家さんがいいのか、イラストレーターさんがいいのか……打ち合わせの段階ではいろんなアイディアが出ます。今年に関しては『GAMBA EXPO 2021』のテーマである“世界とのつながり”を表現してくれる方を探している時に、数年前に『グッと!地球便』(読売テレビ)に出演されていた太田翔伍さんを思い出して、『この方のデザインなら(『世界とのつながり』を)表現できる』とオファーしました」

――太田氏の過去の作品や人柄から、直感的な理由も含めてオファーに至ったのだと解釈しましたが、実際に『世界とのつながり』を表現するデザインが完成に至るまでのコミュニケーションは、抽象的な要素もあるでしょうし、ご苦労があったのではと想像します。

文野「デザインの最終決定までにはかなりの時間がかかっています。最初はこちらの希望をお伝えした上で、太田さんから提案いただいたデザインをベースに意見交換を続けました。例えば、最初は『鳥がパナスタから世界に飛び立つ』デザイン案もありました」

――今回の特別ユニフォームには“隠れデザイン”が多く含まれている点も特徴ですね。「たこ焼き」「パナソニックスタジアム」……etc.

文野「他にも(隠れデザインが)あることには気付きましたか? 太田さんはシアトル在住なので、ビデオ通話を通じて何度もコミュニケーションを重ねたのですが、そういう『コロナ禍でもネットを通じて“つながれる”』という想いも込めて、『スマホ』や『Wi-Fi』もデザインされています」

記念ユニフォームは来場者全員に配布された

――事実、コロナ以降のガンバ大阪はDAZNでシーズンドキュメンタリー『Who is your HERO』や、YouTube公式チャンネル『GAMBA-FAMLiY.NET 』など、オンラインコミュニケーションを重視されていますね。

文野「今はスタジアムの収容人数上限が5000人に制限されていて、チケットは『年間パス会員先行発売』と『ファンクラブ会員先行発売』で完売しています。コアファン層ですら満足にスタジアムで観戦できない状況はクラブとして課題だと考えており、スタジアム外でガンバ大阪を応援してくれる方とのオンラインでの接点は重要視しています」

――今はスタジアムへの集客のターゲットは『コアファン層』に限定せざるを得ない状況ですが、年間パス保有者の今シーズンの来場率は何%でしょうか? 昨シーズン終了時では73%とのことでしたが(※ 2021年4月26日公開:「JリーグID登録数20万突破!ガンバ大阪、コロナ禍のデータ活用法 」参照)。

木下「昨シーズンより低い、約59 % 程度です。ファンクラブ会員の方が4万人いて、5000人が収容人数上限になっている状況が続くのは、少し怖いです。スタジアムに行かないことが日常になって、ガンバに対する興味が薄れてしまう人が増えてしまうのではないか、と。だからこそ、収容人数に制限がある状況でも『GAMBA EXPO』のような話題性のある企画を実施することに意味はありますし、オンライン等で『ガンバが楽しいことをやっている』ことを伝え続けることは、未来に向けて重要なことだと思っています」

30周年はリスタート地点

――今年はガンバ大阪創立30周年ということで、『GAMBA EXPO』の他にも多くの企画が実施されています。その中でも今春に実施した『クラウドファンディング』は約6500万円(達成率130%)の支援金を記録し、注目を集めました。

竹井「(クラウドファンディングは)3月2日から開始したのですが、翌日にクラブ内で新型コロナウイルスの陽性判定者が出て、チームは活動休止になってしまって。そこからはクラウドファンディングどころじゃなくなりましたね。そうしたスタートダッシュにつまずいた影響もあって、4月中旬くらいまでは厳しい進捗でした。『目標金額に届かなくても仕方ないのかな』とも思ったのですが、残り1週間(募集終了日は4月30日)で急激に支援額が伸びて、目標金額に到達しました。最後のガンバサポーターの団結力はすごかったです」

――「パナスタメインピッチ使用権(30万円)」「サイン入り30周年記念マッチ公式球(10万円)」など、高額な返礼品(リターン)から売れていったことも印象的でした。

竹井「一瞬で売れましたね。普通のグッズと比べると割高感はあると思うんですよ。それでも支援してもらえるのは、そこに『期待』や『応援』が含まれているからだと思います。今回のクラウドファンディングは支援者がメッセージを残せるシステムだったのですが、『苦しい状況ですが、頑張ってください』『これからも家族全員で応援します』といった言葉の数々にとても励まされました」

――サポーターからの支援金がクラブの活動資金になる『クラウドファンディング』が代表例だと思いますが、30周年記念事業ではクラブの“共創”意識の高まりを感じます。『30周年特別ユニフォーム』のデザイン、『30周年記念オフィシャルBlu-ray&DVD』の収録映像をサポーターの投票で決定していますが、この狙いを教えてください。

竹井「マーケティング手法として『制作段階から多くの人に関わってもらえれば売上も増える』みたいな話はよく聞きますが、そういう下心はありません(笑)。30年は長いですし、スタッフでも 30年間のすべてを知っている人は一部です。だから、シンプルにサポーターの声を聞くのが一番参考になるだろうと」

――印象的な声はありましたか?

竹井「ユニフォームのデザインに関しては、人気を集めるのは『リーグ初優勝(2005年)』や『3冠(2014年)』など、タイトル獲得時のものが中心です。しかし、中には『子供の時に初めて買ってもらったもの』のような自分の人生と重ね合わせるコメントもあって、そういうものを見ると30年の重みを感じますね」

――30年は長いですよね。近年、多くのOBがスタッフとして、クラブに戻ってきていることからも時の流れを感じます。

竹井「20周年の時も松波(正信)さん 、實好(礼忠)さんがコーチとして在籍していましたが、30周年の今は、アカデミーで育った地元(豊中市)出身の大黒(将志)さんがアカデミーの指導者として働いている。育てられた側が育てる側に。30年間というのは組織にとって1つのサイクルの節目なのかなと感じます」

2021シーズンよりアカデミーストライカーコーチを務めている大黒将志氏

――その視点では、今シ-ズン特別指定選手としてプレーする山見大登選手の存在も面白いですよね。ホームタウンである豊中市の中学校、吹田市の高校を卒業し、現在は関西の大学でプレー。先日、話を聞いたらパナスタで応援もしていたとか。そんな選手が天皇杯でガンバ相手に得点を決めて、大学卒業後にガンバに加入する。OBとは違う形で、30年の歴史を感じる選手です。

竹井「そうですね。彼がいつガンバのことを好きになってくれたのかは分かりませんが、クラブとしてホームタウン活動を長く続けてきて、ファン・サポーターも少しずつ増えてきて、山見選手のような選手が生まれる土壌ができたのはうれしいことです。本人は今、ガンバでプレーしていることをどう思っているんでしょうね(笑)」

木下「昔のユニフォームを持っていると話していたので、ガンバを応援していたのは本当だと思います(笑)。けど、クラブ内ではファンの部分は見せないですし、とても冷静で、しっかりした考えを持った選手だなと思います」

――竹井さん個人としては、ガンバ大阪30年の歴史で一番記憶に残っている出来事は何ですか?

竹井「私はガンバに転職してきて5年なので、まだ歴史を語れるほどではないです。ただ、2019年の『大阪ダービー(ホーム)』は忘れられないですね。チケットが完売して、満席になったスタジアムは何度か経験したことはありましたが、あの日のパナスタの雰囲気……言葉にするのは難しいのですが、サポーターの声量による“圧力”や“緊張感”、“一体感”を実感して、自分の中で満席の定義が変わりました。『これが本当のダービーなんだ』と。チケットが完売になるだけが満席ではなく、『相手には絶対に負けない』という雰囲気をもった満席を毎試合実現したいと、自身の目線を上げてもらいましたし、ああいう熱狂できる試合を数多く開催することが、大阪にサッカー文化を根付かせるために必要なのだと思います」

――前段の「クラウドファンディング」も、2019年の「大阪ダービー」も、チーム状態が苦しい時に成果を出しているという共通点は、30年の歴史で培ってきたクラブの底力なのかもしれません。

竹井「経営的にも、チーム状態的にも苦しい時に支援してもらえるのは、ガンバがこれからも成長を続ける期待感を持っていただいているからだと思います。今年から『GBA(ガンバ大阪ビジネスアカデミー)』も開催していますが、我われスタッフもスポーツビジネスをもっと学び、監督や選手が結果を求められるのと同じように、プロフェッショナルとして質の高い事業を続けることが必要だと考えています。30周年はリスタート地点。これから新しいことにもどんどん挑戦していくつもりです」

――今日はありがとうございました。10月2日に開催される『30周年記念マッチ』も楽しみにしています。

竹井「ありがとうございます。『30周年記念マッチ』はすごい演出を準備していますので、楽しみにしていてください。演出内容のヒントは……“今までにないガンバ大阪が見られる”です(笑)。今シーズンも新型コロナウイルスの影響で苦しい状況が続いていますが、我われは前を向き続けていますし、成長する意欲を持って日々の業務に取り組んでいます。30周年の節目にクラウドファンディングをはじめとする様々な場所でのご支援、ご声援には本当に感謝しています。どうぞ引き続きよろしくお願いします」

MANABU TAKEI
竹井学(写真右)

1972年4月16日生まれ。兵庫県出身。関西学院大学卒業。1997年ヴィッセル神戸へ入社。集客責任者やアカデミー事業担当を務める。2016年ガンバ大阪に入社。パートナー営業担当を経て、2019年より集客イベント・デジタルマーケティングを担当。

TOMOKO KINOSHITA
木下知子(写真左)

大阪府出身。2015年ガンバ大阪へ入社。グッズ担当、パートナー営業担当を経て、2021年より広報を担当。

HIDEKI BUNNO
文野秀紀(写真中)

1992年5月30日生まれ。大阪府出身。同志社大学卒業。2015年にぴあ株式会社へ入社。演劇のチケット仕入れ営業、票券管理担当を経て2020年に出向社員としてガンバ大阪に着任。現在はガンバ大阪顧客創造部企画課チケット担当。

Photos:©️GAMBA OSAKA , Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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