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次代のメッシを見逃すな!A代表に「海外在住の10代」7人を招集した、アルゼンチンの才能発掘プロジェクト

2022.04.09

W杯南米予選(10カ国・全18節)で早々に突破を決め、本大会ではメキシコ、ポーランド、サウジアラビアとグループCで対戦するアルゼンチン。1986年以来の世界制覇を目指す同国では、その予選中から「海外在住アルゼンチン代表候補のスカウティング」という未来を見据えた試みが同時進行されていた。知られざる10代の“欧州組”を続々と招集する実験の舞台裏を、Chizuru de Garciaさんがスカウト担当への取材を交えてレポートする。

 3月下旬の2022年カタールW杯予選ラスト2試合に向けて招集されたアルゼンチン代表メンバーの中に、欧州のクラブに在籍するユース世代の若手が7人も含まれていたことは大きな話題を呼んだ。しかもそのうち5人は、アルゼンチン国内のスポーツ専門メディアでもこれまでほとんど取り上げられたことのない、無名に近い選手。すでにW杯出場を決めたチームで新戦力となり得る人材がテストされることはあっても、ユース代表歴さえない10代の選手たちがA代表の公式戦に招集されるのは先例のないケースだった。

W杯予選第1718節に招集された10代の欧州組】

 マティアス・ソウレ(ユベントス所属、18歳)
 ルカ・ロメロ(ラツィオ所属、17歳)
 フランコ・カルボーニ(インテル所属、17歳)
 バレンティン・カルボーニ(インテル所属、17歳)
 アレハンドロ・ガルナチョ(マンチェスター・ユナイテッド所属、17歳)
 ニコラス・パス(レアル・マドリー所属、17歳)
 ティアゴ・ヘラルニック(ビジャレアル所属、19歳)

2020年「欧州スカウティング部」を設立

 これに先立ち、昨年11月に行われたW杯予選2試合(ブラジル戦とウルグアイ戦)で、リオネル・エスカローニ監督は代表初招集となるU-20世代の8人をメンバー入りさせていた。この時のニューフェイスたちは、ユベントス所属のソウレを除く7人が国内のクラブに属し、すでにトップチームでプレーしている選手ばかりで、アルゼンチンのサッカーファンにとってはいわゆる「馴染みのある顔ぶれ」。それでも強豪相手の真剣勝負の場にユース世代の若手が8人も呼ばれたことで注目を集めただけに、続いて欧州組の未知の10代が招集されると、国内のメディアは「一体何が起きているのか」と言わんばかりに一斉にその舞台裏を探り始めた。そこで脚光を浴びたのが、現在アルゼンチン代表で行われている「海外在住アルゼンチン代表候補のスカウティング」という画期的なプロジェクトだ。

3月の代表合宿でガルナチョ(左)とソウレ(右)。ともにウイングを主戦場とし、2004年にスペインで生まれたガルナチョはアトレティコ・マドリーを経て2020年からマンチェスターUでプレー、2003年生まれのソウレは同年に母国のべレス・サルスフィルからユベントスに加入した

 ここで言う「海外在住アルゼンチン代表候補」とは、「アルゼンチン人を親に持ち、海外に拠点を置いて活動中のユース世代の選手」を指す。国内から多くの才能が続々と輩出されるアルゼンチンだが、海外在住の未成年の中にもアルゼンチン代表としてプレー可能な人材は存在する。リオネル・メッシがその良い例だ。

 メッシの場合はまず、当時の代表監督だったホセ・ペケルマンとそのスタッフが「バルセロナに所属するアルゼンチン人の天才プレーヤー」の情報を入手。以後、およそ2年間にわたって成長を追った後、スペイン代表より先にアルゼンチン代表としてデビューさせるためにAFA(アルゼンチンサッカー協会)の会長だった故フリオ・グロンドーナを説得し、わざわざU-20代表の親善試合を組んでプレーさせたことで知られている。

 メッシのような「隠れた逸材」を見逃さないため、ペケルマンのスタッフは常に「海外在住のアルゼンチン人ユース選手」にアンテナを張っていたが、現役時代にそのペケルマンの指導を受けたベルナルド・ロメオは、2020年1月にユース代表部門のコーディネーターに就任するや「海外在住アルゼンチン代表候補」を集中的に探してデータベースを作成する「欧州スカウティング部」を設立。アルゼンチン代表では国内でも全国規模のスカウティングを行っているが、欧州専門の部署を設け、現地にスカウト担当者を常駐させることにより、将来の人材となり得る才能発掘と育成を充実させようという試みだ。

海外にもユース代表候補が80人いる

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アルゼンチン代表カタールW杯

Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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