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古豪を蘇らせたビエルサ。ブラジル&アルゼンチン連破のウルグアイ代表に伝授する「タイトルよりも大切なもの」

2023.11.27

9月からスタートした2026年W杯南米予選(全18節)。そこで10月にブラジル、さらに11月には世界王者アルゼンチンに歴史的勝利を収め、古豪復活を印象づけたのが、“エル・ロコ”率いる新生ウルグアイだ。

選手たちに何を教え、何を残すのか

 ペップ・グアルディオラは以前、マルセロ・ビエルサについて次のように語ったことがある。

 「ビエルサに対する私の称賛は計り知れない。彼は選手たちをより優れたレベルに引き上げる。私も彼のアドバイスにはずいぶん助けられた。ビエルサほど準備万端の監督はこの世にいない。彼のチームはピッチ上を精力的に動き回り、多数の選手を使って攻撃を展開する。選手たちに何を教え、何を残すのか。それはタイトルよりも大切なものであり、それに匹敵するものは他にない。私はビッグクラブにいたことでタイトルを獲得できたが、ビエルサには“彼が指導したすべての選手に残したもの”という最大のトロフィーがある」

 ビエルサがウルグアイ代表監督に就任した際、私はコラムで「ウルグアイの選手たちならば、狂気に等しいビエルサの情熱を全身で受け入れるだろうし、相乗効果によって個々がさらにレベルを向上させる可能性も大いにあると思う」と書いたが、その考えのもととなったのがこのペップの言葉だった。彼の言う通り、ビエルサなら、限られた時間の中でウルグアイが世界に誇る素材――天性の才能に強靭なメンタルと競争心を宿す選手――から最高の持ち味を引き出し、それを最大限に活用しながら自身のトレードマークである攻撃的サッカーを展開させるだろうと思ったのだ。

 結果的にビエルサは、就任からわずか6カ月、親善試合2ゲームを含む8試合でウルグアイ代表を変貌させた。

 10月17日に行われた2026年W杯南米予選の第4節では、超満員のホーム、エスタディオ・センテナリオにブラジル代表を迎え、相手に枠内シュートを1本も打たせないまま2-0と快勝。ポゼッション率では38%と下回ったが、ブラジルの攻撃を2015年以来最も低いゴール期待値(0.17xG)にとどまらせることに成功した。そして続く11月16日の第5節でも、アウェイゲームでリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)を擁するアルゼンチン代表を文字通り完封してみせたのである。

 アルゼンチン戦のスコアはブラジル戦と同じ2-0だったが、内容的にはよりインテンシティの高い、アグレッシブな“ビエルサ式サッカー”で圧倒。FIFA公式サイトのマッチレビューでも「見事なパワーの実演だった。昨年のW杯でも、決勝戦の終盤で反撃に出たフランス代表以外にアルゼンチン代表をここまで追い詰めたチームは他になかった」と絶賛され、強豪国の底力を見せつけた。

 その5日後にはセンテナリオでボリビア代表に3-0と完勝し、4勝1分1敗の戦績で全10カ国中2位につけて2023年度の代表戦の日程を終了。得点では13ゴールで首位アルゼンチンの8ゴールを上回っており、早くもビエルサのカラーが表れている。

第4〜6節のハイライト動画。ブラジル戦はヌニェス(42分)とデ・ラ・クルス(77分)、アルゼンチン戦はアラウホ(41分)とヌニェス(87分)がゴールを挙げ、ボリビア戦はヌニェスの2発(15分、71分)とオウンゴール(39分)で勝利した

どこに行っても、誰が相手でも、我われはゲームの支配を目指す

……

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Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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