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ルヴァンで猛威を振るう広島の「ストーミング」。リーグ戦で再現できないのはなぜか?

2022.03.11

ミヒャエル・スキッベ新監督がサンフレッチェ広島に導入しようとしている「ストーミング」は、果たして機能しているのか? 2戦2勝のルヴァンカップでは圧倒的なパフォーマンスを見せているものの、3戦3分のリーグ戦ではその再現ができない――その秘密を中野和也氏に分析してもらおう。

 真っ白な雪が降り注ぎ、エディオンスタジアム広島のピッチも純白に染まった。

 「これは、果たして試合ができるのか。公共交通機関も止まってしまうのでは」と実感し、「試合中止」すら頭をよぎった。だが、スタッフが必死の努力を続け、試合開催を可能としたのが、2022年シーズンのJリーグ開幕となった鳥栖戦(2月19日)である。

 雪の中でもスタジアムに詰めかけてくれた1万人弱のサンフレッチェ広島ファミリーたちの期待は、サポートしている我がチームがどれだけ新しく変わったのか、その1点だった。コロナ禍でトレーニングマッチも見ることができず、プレシーズンマッチもない。練習見学もできない。それでも、多くの人々が新生・広島の姿を見ようと集まってくれた。

鳥栖との開幕戦で足りなかったのは「狂気」

 だが、その期待に応えることができたとは、正直、思えない。

 鮎川峻、浅野雄也、仙波大志の前線トリオは試合開始当初、キャンプから続けてきた「前線からのプレス」を仕掛けようとしていた。だが、キャンプでの迫力とは違い、身体をぶつけにいくようなプレッシャーはかけられない。

 GK朴一圭が最終ラインの中に入ってビルドアップに参加する、鳥栖のリスキーな形に対しての戸惑いもあっただろう。雪によるピッチのぬかるみがスプリントを仕掛けることに影響したのかもしれない。だが、どういう事情であれ、前線3人のプレッシャーの強度は、少なくともキャンプで見たものとは遠かった。

J1開幕節、鳥栖戦のハイライト動画

 ただ、それは若い1トップ2シャドーだけの責任とは言い難い。

 青山敏弘と塩谷司、ダブルボランチは前の3人の動きに連動できなかった。両ワイドも同様で高い位置を取れなかった。必然的にチーム全体として後ろが重くなった。

 「行くべき時とステイする時のメリハリの大切さ」

 試合前、選手たちはその難しさを訴えていた。90分、常にいけるわけではない、と。

 その言葉は間違ってはいない。いや、むしろ正しい。だが、その正しさが、中途半端な状況を生んだのではないか。

 2018年9月18日に配信されたfootballista「CL戦術総括:加速する攻撃優位。『ストーミング』が生み出すカオス」(片野道郎氏)によれば、ストーミングの定義は「ビルドアップに対する超攻撃プレッシングとボールロスト時のゲーゲンプレッシングを組み合わせた、敵陣でのアグレッシブな守備によるボール奪取とそこからのショートカウンターを中心に据えたゲームモデル」である。

 ここで重要なのは「敵陣」である点だ。つまり、ウラのスペースを広くあけるというリスクを追いながら「守備」の局面を迎えているということだ。

 サッカーは当然のことながら、ボールを持っている方が優位に立つ。だがストーミングは、その常識を打ち破る概念だ。つまり、ボールを持っていない局面であっても、相手ではなく自分たちが主導権を握る。プレッシャーをかけ、追い込み、相手を慌てさせ、混乱させることで、意図的にボールを奪っていく。それが目指すべき方向性だ。ミヒャエル・スキッベ監督は「ストーミング」という表現を自ら使ったことはないが、彼の言う「ボールに向かって守備をする」というコンセプトも、結果としては同じことである。

 ボールを持っていない状況であってもウラのスペースをあけて敵陣に入っていくというスタイルを貫くには、ある種の「狂気」が必要である。揺さぶられ、プレッシャーを剥がされて、ウラをとられる恐怖を意図的に無視する「常識からの乖離」がなければ、このコンセプトでは闘えない。少しでも逡巡したり、躊躇があれば、前には行けなくなる。

徳島戦の2点目に結実した目指すべき形

 新型コロナウイルスの水際対策によって来日が開幕に間に合わなかったスキッベ監督に代わって現場を預かっていた迫井深也ヘッドコーチは2月22日、鳥栖戦の結果・内容を踏まえて語った。

 「勝ち点1を奪えたことは、間違いなく収穫。ただ、より前で守備をしていく、より前でプレーしていくという自分たちのスタイルを貫くという意味では、もっともっと前に進んでいくべきだったのかなと感じています。よりチャレンジしていることを勇気を持って、前に一歩踏み出せるか、そこが重要です」

 翌日のルヴァンカップ・徳島戦を控え、迫井ヘッドコーチは決意を込めた。

 今、考えてみれば、この鳥栖戦で中途半端になってしまったことが、その後の広島に好影響を与えたとみる。

 メンバーを9人入れ替えて臨んだアウェイ徳島戦、広島は立ち上がりから相手陣内に押し入った。ボールを保持するのは徳島。しかし、それでも構わず白いユニフォームに身をまとったアウェイチームは「前に、前に」とかかった。……

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サンフレッチェ広島ストーミングミヒャエル・スキッベ戦術迫井深也

Profile

中野 和也

1962年生まれ。長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集に関わる。1994年よりフリー、1995年からサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するレポート・コラムなどを執筆した。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。以来10余年にわたって同誌の編集長を務め続けている。著書に『サンフレッチェ情熱史』、『戦う、勝つ、生きる』(小社刊)。