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意外な好発進(?)のレノファ山口。新チームの戦力と名塚采配を分析する

2022.03.10

昨シーズン途中に就任した名塚善寛監督が引き続き指揮を執るものの、複数の主力がチームを去り、厳しい戦いが予想されたレノファ山口。しかし、蓋を開けてみれば1勝2分と順調なスタートを切った。この3試合で見えてきた新チームの戦力と名塚監督の采配を、下部リーグ時代からレノファを見続けているジェイ氏に分析してもらった。

 かく言う自分もそうだったのだが、今季のレノファ山口の下馬評は相当に低かった。

 例年になく出入りの少ないオフではありつつも、地方の小クラブである以上、流出ダメージは避けられるものではない。

 昨季の山口は全42試合で37得点、J2リーグ17位タイと得点力不足に悩まされたが、そこから上位2名が抜けることに。チームトップ6得点の高井和馬と、2位の草野侑己(5得点)がそろってチームを去った。

 大槻周平が完全移籍で正式な一員となったが、その大槻も昨季は12試合1ゴールと振るわず。その他のFW補強は大卒ルーキーの沼田駿也と、昨季の相模原で左ウイングバックとして起用されていた兒玉澪王斗のみ。実績のあるストライカーの補強はなかった。

 さらに前線では、ポテンシャルを発揮しきれていなかったFW浮田健誠を相模原へ放出。中盤でハードワークしていた田中陸も早々に契約満了となり、ようやく主力中の主力へと成長したCB楠本卓海に加え、右ウイングバックの要だった地元出身DF川井歩も流出した。

 中盤は逆足ウイング吉岡雅和と大ベテランの山瀬功治、DFラインには北九州で成長を示した生駒仁に高卒ルーキー上本銀太を獲得して手当は行ったが、財政難もあり、額面上はどうしても『補充』に近い印象になる。

 各メディアの順位予想では軒並み「降格候補」の位置づけで、私としても「何とか頑張って15位くらいに……」と志の低い予想。さらにはコロナ禍の影響で、一時はチームが活動休止に陥るなど、なかなかポジティブな話題が上がらないままシーズンへと突入した。

 ところが、である。

 開幕から3戦を消化して1勝2分。この時点での順位を誇るのもアレだが、プレーオフ圏内の6位につけている。3試合で4得点2失点と数字も悪くなく、まずは上々の滑り出しと言っていいだろう。

 対戦相手との兼ね合いもあるが、ここまでの好スタートは失礼ながら意外だった。好調の要因はどこにあるのか、まずはポジションごとの戦力を再精査してみたい。

GK:「神様・仏様・関様」――最後尾は安泰

 戦力的に上位にあるわけではない山口だが、ことGKにおいてはJ2リーグの中でも「強み」と言えるポジションだ。関憲太郎が昨季から、最後の番人として立ちはだかっている。素早く正確なポジショニング、それゆえに一度「静止」してから繰り出すセーブはダイナミックで射程も長い。

 公称178㎝の身長を感じさせないハイボール対応でクロスにも強く、DFラインの背後をカバーする守備範囲の広さも魅力。判断の速さと出足の鋭さは1対1対応の強さにもつながっており、とにかく昨季は最後のところで関が「何とか」してきた。昨季は降格圏と5ポイント差の15位、失点数もクラブ史上最少を記録したが、この守護神がいなかったら間違いなく降格していただろう。

 また足下の技術も優れており、プレスにも慌てずアンカーへショートパスを差し込み、相手の頭上を超える浮き球をSBへつけることもできる。鳥栖のパク・イルギュほど極端ではないが、必要と見ればペナルティエリアの外へと出てDFラインのボール回しに加わるなど、ビルドアップへの貢献度も高い。

 今となっては、なぜこれほどのGKがそれほど出場機会を得られずにここまで来たのか、謎は深まるばかりである。ただ、そのおかげで山口は今季もJ2リーグに参加できている。36歳を迎える今季も衰えは感じられず、「神様・仏様・関様」と崇められるプレーをすでに連発しており、最後尾は安泰だ。

DF:「3→4」の変更はおおむね順調

 ここまで3試合のメンバーは固定されており、右から眞鍋旭輝、生駒仁、渡部博文、橋本健人の4バック。渡部は昨季からずっとJ1級のプレーを披露しており、今季もそれは健在。プレス時の相手FWへのアタック、ライン裏のカバーともに高水準のプレーを見せており、両足が使えることと体の向きの工夫を駆使して、ビルドアップも含めて攻守の要となっている。

 さらに、一昨年から特別指定選手としてプレーしていた橋本がついに正式加入。高水準の技術と戦術眼は疑いようもなく、今夏には早くもいなくなってしまうのではないかと観念してるサポーターも多い(筆者調べ)。左ウイング、左インサイドMFと連係したサイド攻撃は今季の山口のストロングポイントだ。

 そして新加入の生駒を右CB、昨季は3バックの右CBを務めていた眞鍋を右SBに配したのはちょっとしたサプライズだったが、これも現在のところおおむね機能している。詳細は後半の新潟戦レポートで解説したい。

MF:霜田体制以来の3MFで池上の負担軽減

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レノファ山口名塚善寛戦術

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。

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