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【藤春廣輝インタビュー】「移籍を考えたことは1回もない」――ガンバ大阪で迎える勝負の12シーズン目

2022.02.07

ヘッドコーチを務めた2015年以来、7年ぶりの古巣復帰となる片野坂知宏氏を監督とした新体制で2022シーズンに挑むガンバ大阪。今季のチームで片野坂監督のヘッドコーチ時代を知る選手は5人しかいない。そのうちの1人が藤春廣輝である。

2011年に大阪体育大学から加入後、“ワンクラブマン”として11シーズンをガンバで過ごしたベテランには、新監督と選手を繋ぐ役割も期待される。ここ数年はケガに苦しめられていたこともあり、今シーズンは個人としても復活を懸けた1年となる。2月19日の開幕戦にむけてトレーニングを続ける本人に新シーズンへの想いを聞いた。

片野坂ガンバでの役割

――まずはコンディションについて聞かせてください。2019年に左鎖骨骨折と左足趾骨折、昨年は左足首痛と肉離れ……藤春選手はこれまでケガが少なかったので、連続しているのは心配です。

 「トレーナーさんに話を聞くと、一箇所のケガで体全体のバランスが崩れて、(他の箇所も)ケガをしやすくなる可能性があると言われました。『ケガをしないことが当然』という感覚でプレーしてきたので、2019年にケガが連続した時はメンタル的にもかなりやられましたね。フィジカル的に厳しい時でも我慢して1試合を走り切って、それに楽しみを感じていたところもあったんですけど(笑)、今は無理をしないことも大切かなと思っています」

――怪我後は食事への意識も変わったと聞きしましたが、弟の隆矢さんが調理をサポートする関係は今も継続中ですか?

 「はい。今も家での食事は栄養面を考えて弟が作ってくれています。納豆とサラダ、酢の物は毎食必ず出てきて、試合後は疲労回復に効く豚肉料理とか。いろいろ勉強してくれて助かってます」

――そういうサポートもあって、スピードや運動量を武器とするプレースタイルをずっと維持できているのかもしれませんね。一方で、昨シーズン序盤はこれまでになかった“偽サイドバック”的なプレーへの挑戦も見られました。

 「監督によって求められるプレーが違うのは当然ですし、新しい役割を求められるのは自分にとってもプラスです。ツネさん(宮本恒靖元監督)とコミュニケーションを取りながら(偽サイドバックに)キャンプから取り組んで、手応えをつかみつつあったタイミングでの(チーム内に新型コロナウイルスの感染者が出たことによるリーグ戦序盤の)活動停止は痛かったですね」

――新しい挑戦という意味では、今シーズンから監督に就任した片野坂(知宏)さんからどのようなプレーを期待されていますか?

 「まずはサイドの上下運動の部分。昨シーズン、大分(トリニータ)と試合をした時も両WBはかなり走ってた印象があります。あとは、クロスを上げる回数を増やすことは(片野坂監督から)言われました」

新監督に就任した片野坂知宏氏。コーチを務めた2014年~2015年以来、7年ぶりの古巣復帰となる

――片野坂監督が指揮する今シーズンは、3バックシステムが採用される可能性があります。昨シーズンもチームは3バックと4バックの併用で、藤春選手は左WB(3バック時)と左SB(4バック時)の両方でプレーする機会がありました。

 「左WBはサイドに自分しかいない分、左SBよりも上下運動の数は自然と増えますね。あと、(左WBは)好守両面で対応すべきスペースが広いので、切り替えの早さも求められます。ボールを奪った瞬間の前線に出ていくスピードとか。走る距離が長いのでけっこうキツイですけど(笑)」

――4バックと比べて、3バックは複数人が連係してサイドを崩すシーンが少なくなると思うのですが、藤春選手的に左WB(3バック)がやりにくさを感じることはないですか?

 「確かに左SBでプレーしてきた時間が長いので、中盤の選手にボールを当てて、自分が外側をオーバーラップする形は簡単というか、得意にしている形ですけど、左WBは(右サイドからの)クロスに入って得点を狙えるメリットがありますし、どちらのポジションもメリットはあるかなと」

――片野坂監督の話に戻します。コーチ時代(2014年~2015年)を知る選手として、当時からの変化を感じる部分はありますか?

 「コーチ時代から変わらず喋りやすくて、サッカーに対して熱い気持ちを持っている人。ワンプレーワンプレーに対して熱量があって、選手の気持ちを高めてくれる。監督になっても変わらないですね」

――伝統的にガンバはおとなしい選手が多いクラブだと言われています。片野坂監督の就任で練習の雰囲気が活性化される効果もあるのかなと想像しているのですが。

 「う~ん、どうやろ。カタさんよりも、新加入選手がかなり声を出していて、そっちの方が目立ってるので……」

――福岡将太選手(徳島ヴォルティスから新加入)のことですか? 「2022シーズンキックオフイベント」(新体制発表記者会見)でも抜群の存在感でした。

 「そうですね(笑)。盛り上げ役というか、かなり声を出してますね。今までガンバにはいなかったタイプで、練習も賑やかになりました」

2022シーズンキックオフイベントの様子

「ケガ明けでも100%の力でプレーします」

――2011年に大阪体育大学からガンバ大阪に加入後、今年で12シーズン目を迎えます。振り返ってみて、同一クラブで長くプレーできた要因をどのように分析していますか?

 「運が良かったこともあると思いますけど、常に意識していたのは『監督が求めるプレーを理解する』ということ。毎年、新しい選手が入ってきますし、監督が求める動きができないと試合に出られない。特に新監督が就任した時は、監督が目指すサッカーを体に覚えさせることを徹底的にやりますね。過去には監督のサッカーを否定する選手も見てきましたが、まず受け入れた上で自分の色をプラスアルファで出すことで生き残れたのかなと思います」

――ケガが連続したここ数年も復帰後すぐにスタメンで起用されることが多く、監督からの信頼が厚いことが分かります。

 「スタメンで起用してもらった時は、その期待に応えるために、ケガ明けでも100%の力でプレーします。繰り返しですけど、監督とのコミュニケーションを大切にして、分からないことは聞いたり、苦手なプレーも練習でしっかりと取り組んだり、そういう姿勢は持ち続けてきましたね」

――コミュニケーション面に関しては、昨シーズンは試合中に藤春選手からチームメイトに声をかけている場面をよく見ました。

 「確かに試合中にだいぶ喋るようにはなったかな。崩されそうなシーンがあった時は自分からチームメイトに守り方を提案することは増えてきたと思います」

――年齢的にもチームを牽引する立場だと思いますが、若手選手とは普段の練習中も含めてコミュニケーションを積極的に取るタイプですか?

 「多分、ガンバのベテラン選手の中で(自分が)いちばん話やすい存在じゃないですかね。 自分もそれを良しとするスタンスでいるので、若手も馴れ馴れしく話しかけてきますし(笑)。自分も若手の時に先輩にガツガツいくタイプだったので、年齢差は関係なく、自然に受け入れられる部分はあります。コロナ禍ではコミュニケーションの機会が限られてしまうのですが、練習中とか(会話の)チャンスがあるタイミングで声をかけるようにしています」

――そのスタンスは、同じポジションでレギュラーを争う相手であっても変わりませんか?

 「ライバル心とか、そういうのは全然ないですね。同じポジションの選手とも仲良く喋れますし、プレーのアドバイスをすることもあります。経験はあるので、それを若手選手に伝えていきたいという考えもあります。同じポジションじゃない選手も含めて、チームのほぼ全員と気軽に喋ってますね」

2021シーズンにはJ1リーグ250試合出場も達成した

――「経験を伝える」という考えは20代の頃にはなかったものだと思います。年齢を重ねると共にプレーするモチベーションも変化するものでしょうか?

 「いや、やっぱりタイトルを獲ることが最大のモチベーションであることは変わらないですよ。何個か獲ってますけど、J1でタイトルを目指してプレーすることは毎年変わらない目標ですね」

――答えにくい質問だと思うのですが、過去にはガンバがJ1にいないシーズン(2013年)もありました。藤春選手個人のキャリアとしては、日本代表に選出され(2015年)、リオデジャネイロ五輪にもOAとして出場しています(2016年)。そうしたタイミングで海外も含めて、他クラブへの移籍を検討したことはありませんでしたか?

 「移籍を考えたことは1回もないです。2012年はJ2に降格しましたけど、攻撃的なチームのスタイルは自分に合っていると思っていたので。(2012年リーグ戦の)得点数も確か1位(67得点)ですよね。やっぱり、純粋にガンバのことが好きという理由もあります」

――「ガンバのことが好き」……J2優勝時(2013年)にピッチで涙したシーンをはじめ、クラブ愛を感じさせる言動が時々あるのは、藤春選手がファン・サポーターから長年愛される理由の1つなのかもしれません。そんな藤春選手を応援している方々へ、最後に今シーズンに向けた一言をお願いします。

 「個人としては、自分の特徴である上下運動を守備面でも攻撃面でも繰り返すこと。そして、得点やアシストという数字にもこだわってきたいですし、その結果としてチームがタイトルを獲って、カタさんにトロフィーを掲げて欲しいです」

HIROKI FUJIHARU
藤春廣輝

大阪府東大阪市出身。東海大仰星高校、大阪体育大学を経て、2011年にガンバ大阪に加入。豊富な運動量と圧倒的なスピードを武器にガンバ大阪の左サイドを支える。2015年に日本代表に初選出され、2016年にはオーバーエイジとしてリオデジャネイロ五輪にも出場。2021年、J1リーグ250試合出場も達成している。

Photos: 🄫GAMBAOSAKA , Getty Images

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ガンバ大阪藤春廣輝

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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