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2021天皇杯決勝―― “カタノサッカー”の集大成に見た「涙と笑い、そして涙」

2021.12.22

2016年のJ3から始まった片野坂知宏監督の挑戦は、2021年の天皇杯決勝で幕を閉じた。『カタノサッカー・クロニクル』の著者であるひぐらしひなつさんに、集大成の舞台で起きた駆け引きと突き付けられた課題、そして去り行く指揮官の「第二のふるさと」大分への想いを伝えてもらおう。

 天皇杯決勝・浦和レッズ戦のキックオフ直前、ピッチに並んだ大分トリニータの選手たちの立ち位置を見た時には驚いた。中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]。1週間前に戦った準決勝・川崎フロンターレ戦と同じメンバーによる同じフォーメーションだった。確かに川崎F戦では[4-3-3]の相手にがっつりマッチアップさせる形で相手をサイドに追いやりながらそのハイクオリティな攻撃を阻み、それが見事にハマっていたが、それをそのまま決勝でも採用するのか……と意外に思った。

 試合が始まってみると、もう一度驚かされることになる。

 攻守で可変する浦和に合わせるように、大分も形を変えていた。守備時には2トップから連動したプレスをかけ、攻撃時にはセンターラインが1列ずつ落ちてアンカーの小林裕紀が2CBと3バックを形成し、両SBがウイングバックのように幅を取る。1週間前と同じシステムで、今度はまったく違う戦い方を仕込んできたのだ。その変幻自在さに、鳥肌が立った。

裏目に出た変幻自在。ハーフタイムの修正は見事だったが…

 だが、結果的にその狙いはあまり上手くいかなかった。

 左に開いた左利きCBのエンリケ・トレヴィザンはビルドアップをあまり得意としない。マンツーマン気味にハメてくる浦和に対して左サイドの攻撃がノッキングし、そのしわ寄せで全体に歪みが出る。逆にアンカー脇のスペースを使われ、早々の6分に先制点を奪われた。

 ビルドアップを助けるために中盤の選手たちが低い位置を取るだけでは足りず、トップ下の下田北斗までが最後尾に下りて組み立てを図るが、そうすると前線が薄くなり、前に運んでも結局ボールを奪われてしまう。試行錯誤のうちになんとか1点ビハインドのまま前半を終えたが、そこからの修正が見事だった。中盤をボックス型にしてボランチ脇のスペースをケアすると同時に、トレヴィザンの左側に左利きの下田が下りてビルドアップする形を取るようにすると、ボールはスムーズに回り始め、ダイレクトプレーでゴール前に迫る回数が目に見えて増えた。

天皇杯決勝でもビルドアップの舵を握った下田。写真はJ1第11節の浦和戦で、今季の公式戦通算対戦成績は1勝2敗となった

 この修正を前半のうちにできていればと、つくづく悔やまれる。コロナ禍でのレギュレーションとして設けられてきた飲水タイムが、この試合では廃止されていた。入場者数制限の撤廃とともにサッカー自体も本来の形に戻していこうという協会の意向だったようだが、戦術家として名高い指揮官同士のマッチアップ、飲水タイムで互いに修正を施すことができれば、その駆け引きをさらに存分に楽しめたのに、と少し残念だった。

ドラマの再現か…しかし勝負を決めたのは「浦和を去る男」

 後半にペースを握ってもネットを揺らすには至らず、試合は1-0のまま終わるかに思われた。だが、終盤にパワープレーで追撃していた大分に90分、劇的同点弾が生まれる。下田の右足から放たれた美しいクロスに勢いよく飛び込んだのはCBのペレイラ。迫真のヘディングシュートがネットに突き刺さり、感染防止のため声を出してはならない国立競技場が、思わず漏れた歓声と悲鳴で揺れた。

 準決勝の川崎F戦も、終盤にドラマが生まれた劇的な展開だったのだ。失点せずに粘る大分のオーガナイズされた守備は見事で、さらにそれを上回ろうとするリーグチャンピオンの攻撃もスペクタクルだった。そのせめぎ合いは拮抗して延長戦にまでもつれ込み、ついに均衡破れたのが113分。やはりさすが川崎F、大分もよく頑張ったがここまでかと思われた。だが、すでに延長後半アディショナルタイムに入っていたその8分後、下田のクロスからトレヴィザンのヘディングシュートで同点に追いつき、勝負はPK戦へ。そしてこの日に“神セーブ”を連発してチームを助けていた守護神・高木駿が強メンタルでそれを制し、リーグでは来季J2に降格するチームが、大会連覇を狙う王者にジャイアントキリングを成し遂げたのだった。

 そんな魂ふるえる準決勝の再来かと思わせる、土壇場でのドラマ。流れは完全に大分で、ゲームは延長戦にもつれ込むと、大分側の誰もが思った。

 その喜びが、一瞬の隙を呼んだ。

 ペレイラの同点弾のわずか3分後、それを上書きするような浦和の追加点。セットプレーの流れから柴戸海が放ったボレーシュートの弾道を、ゴール前にいた槙野智章が頭で変えての得点だった。今季限りで浦和を去る男は83分からピッチに立つとその存在感をフルに発揮して、美しいファイナルのすべてをかっさらっていった。

「グッドルーザーでいよう」。敗北を受け止める強さ

 スコアは2-1だったが、大分にとってはチャンピオンとの大きな差を突きつけられた一戦になった。スピード、走力、球際の強さ、トランジションでの迷いのなさ、ワンプレーごとのクオリティ。そのいずれにおいて、浦和は大分より優れて見え、実際にその差で主導権を握った。

 「今日のゲームもそうだが、6年間、そして今季J1で戦っている中で、トリニータに足りないのは、プレーの強度だとかクオリティだとか。結局、サッカーのベーシックなところはやはり大事で、そこで上回れるかどうかが問われる。いろんな戦術だとか戦い方だとか、わたし自身もカテゴリーが上がるにつれていろいろチャレンジしたのだが、ミラーゲームにされたり今日のようにマンツーマン気味にマッチアップされたりすると、我われトリニータは強度や質で上回られてしまう」

 指揮官・片野坂知宏は試合後に無念さをにじませた。大分がJ3にまで降格した2016年からチームを率い、1年でJ2に復帰させ、指揮4年目でJ1の舞台にまで押し上げる偉業を遂げたが、今季は主力の大幅な入れ替わりによる組織の再構築に手間取り、J1残留を果たすことができなかった。……

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大分トリニータ天皇杯戦術文化片野坂知宏

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。note:https://note.com/windegg