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【対談】五百蔵容×竹内達也(後編): すれ違う森保ジャパンと欧州サッカー

2022.01.27

開幕3戦2敗とカタールW杯アジア最終予選で厳しいスタートを切った日本代表は、3連勝で立ち直り本大会出場圏内の2位に浮上。起死回生を遂げた2021年の戦いぶりから見えてくる森保ジャパンの成長と課題に迫るべく、『砕かれたハリルホジッチ・プラン』と『サムライブルーの勝利と敗北』を上梓した分析家・五百蔵容氏と、森保体制発足当初から日本代表の現場取材を重ねている記者・竹内達也氏に対談してもらった。

後編では積年の課題に対する解決策を模索しつつ、森保監督の交代策に隠された戦略、そしてカタールW杯出場に向けて残された伸びしろをピッチ内外の視点から探る。

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避けては通れない「バイタルエリア問題」


――対応力の差が浮き彫りになったオーストラリア戦の次戦、ベトナム戦はどのように分析されていますか?

五百蔵「ベトナムとはアジアカップ準々決勝で対戦しているんですよね。当時もベトナムは5バックでしたが左右のCBがふらふらしていて立ち位置が定まらず、外にも内側にもギャップが生まれていました。でも最終予選でのベトナムはきちんとDFラインのギャップを埋めていて、CBは軽挙妄動しなくなっていましたね」

竹内「ベトナムの最終ラインは最終予選を通じて、徐々に良くなってきていましたよね。最初はCBもすべて人についていっていたのでDFラインがぐちゃぐちゃでしたが、個々の力の差を突きつけられる中で開き直り、その守備戦術に落ち着いたように見えました」

五百蔵「そうした明確な弱点を前半から徹底的に突いていればアジアカップでの勝負は簡単についていたはずでしたが、日本は選手をピッチに投げ入れ放置したように思えるほどの自由度が感じられた試合でした。終始様子見をしてしまっていて、後半に堂安がPKを決めて何とか1-0で勝つ展開でしたね。でも今回の対戦ではより守備を整備してきたベトナムに対して、立ち上がりからウイングバックを釣り出して3バック脇のスペースを使う形を繰り返せていました。そこにボールを蹴り出して左右のCBと競争させる。[4-3-3]の両ウイング、伊東と南野の優位性を生かせていました」

竹内「対するベトナムは[5-3-2]で2トップに裏抜けをさせながらロングボールでワンチャンスを狙っていましたが、吉田と冨安が跳ね返していた。中盤も3対3の数的同数で、選手の質で上回る日本がボールを回収していましたよね」

五百蔵「そうした局所局所の優位性が組み合わさって生まれたのが先制点で、ベトナムが蹴ったゴールキックを冨安が蹴り返して、中盤で競り勝った遠藤が頭で逸らしたボールを大迫が収めています。そこでゴールキックに合わせて一時的に5バックから押し上げていたベトナムの3バックの左脇に南野が走り込んでライン裏に出ると、逆サイドにクロスを送り右脇から飛び込んできた伊東が押し込む形でした。ベトナムは日本のワイドの選手のスピードを警戒して3バックから5バックへの移行をセンシティブに行いながらスペースを消そうとしていましたが、ボール保持の局面ではウイングバックを押し上げて3バック化するという約束事を杓子定規に実行していたため、彼らからすると『ボール保持』局面であるマイボールのゴールキックで無警戒にウイングバックを上げてサイドを空けてしまっていました。逆に日本は、彼らのそういったナイーブさをしっかり見て、利用できた格好です。その後もそうした優位性を認識しながら試合を進められていたので、追加点は入らなくても内容は良かった。試合が始まってから試行錯誤をするのではなく、しっかり準備して選手も対応力を見せながら勝った試合でした」

竹内「ベトナムは失点後もワンチャンスを狙うだけで前に出てこず、日本もオープンな展開にさせない試合運びでピンチになったら大きくクリアしていましたが、先発のうち5人がトラブルに巻き込まれて試合前々日まで飛行機に乗っていたことを考えると、消耗を抑えるのも大事だったので悪い対応ではなかったですよね。実際にその一人の南野は前日に眠れなかったようで、実は取材時間を後ろ倒しにするという出来事がありました。おそらく足止めされていた飛行機で寝ていたので、ホテルで時差調整ができなかったのでしょう。それでも先発で起用されたのは自分のコンディションを踏まえた判断が可能だからで、だから予定の変更もお願いできていた。試合後には森保監督の彼らが『いい顔をしていた』という発言が話題になりましたが、そこには文脈があって、主力が使えるかどうかを顔で選んだ。控えが主力のほどの顔をしていなかったというような比較ではなく、最初から彼ら主力を起用する前提で『行ける』と判断したということでしょう。それくらい明確な序列がある。実際に移動トラブルに巻き込まれていた吉田、冨安、伊東、守田も先発でしたが、全員うまくやれていましたよね」

五百蔵「吉田、冨安、伊東、南野、守田は最終予選を戦いながら判断をすり合わせ続けてきたわけですから、経験値が違うわけですよね。選手に運用を委ねている戦略を取っている以上、入れ替えが生じづらいのは仕方がない。むしろ彼らが試合前日しか練習できなかった中で、ベトナム対策として要所を抑えながら試合を進められたのはもっと評価されるべきです。

ベトナム対日本(0-1)のハイライト動画

 一方オマーン戦では[4-3-1-2]を基本布陣とするチームに対して、[4-3-3]で真っ向勝負を挑んでいた。事前に想定できていたはずなのに中盤が3+1対3で数的優位を取られていて、日本は早々に[4-2-3-1]へと並びを変えましたが、サイドハーフが絞るわけでもなく劣勢は変わらなかった。さらにオマーンの2トップはベトナムの2トップと違って、降りてきたりプレスバックもするので、ますます中盤でのボール争奪戦で日本は不利な状況に陥ってしまい、ベトナム戦のような安定性が失われてしまっていました。なぜ練習時間の少なかったベトナム戦でできていた構造的な準備が、より余裕があったはずのオマーン戦ではできなかったのか不思議です」


――しかも前回対戦ではアンカーとトップ下に中盤のマークをズラされた結果、再三プレスを突破されていましたからね。そこに対策を打ってこなかったのは疑問が残ります。

竹内「やはり森保ジャパンの特徴として、嚙み合わせ上のズレが生じるのは織り込み済なんだと考えています。中盤では不利に転ぶこともありますけど、サイドではSB一枚しかいない[4-3-1-2]に対して、ウイングあるいはサイドハーフとSBの2枚がいる[4-3-3]や[4-2-3-1]の方が有利になる。だから一方のサイドで攻め立てると相手は3センターをスライドさせなければいけないんですけど、そこから一気に逆サイドへ展開して今度はアウトサイドのインサイドハーフが間に合わなくなる状況を作りたかった。実際に序盤は左で幅を取って、右に展開して仕留める狙いが見て取れました。山根のパスがズレたり、柴崎が刺しきれませんでしたが、サイドを殴り続けて相手を消耗させていましたよね。戦前の選手のコメントでも、『サイドチェンジは大きい展開だけじゃない。ワンタッチで中盤を経由してもいい』というニュアンスの話が多く出てきましたが、まず起点として左サイドにボールを持っていき、大迫を経由して逆サイドから伊東純也が抜け出したり、逆に大迫がターンして南野や遠藤が飛び込んできたりする形もありましたね」

五百蔵「そうしたマッチアップ上で生じる問題を放置しても失点をしなかったのはCBが帳尻を合わせていたからですね。ボランチの裏、バイタルエリアを使われても前に出て消しにいくことは基本的にしない。2トップに裏を取られなければいい。自分たちの前、視野内に置いておけば怖くない、という対応でした。オマーンの2トップはバイタルエリアで仕事ができるタイプではなかったので、その判断は正しく、大きな危機には発展していなかった。ただ、本戦でバイタルエリアがあれほど空いていると、そこから芋づる式にDFの組織を解体されてしまう。

 これは日本代表が抱え続けている課題で、ハリルホジッチ元監督も解決に向けて取り組んでいたところです。実際に試合でバイタルエリアをCBが消していたのは2試合くらいだったんですけど、トレーニングではCBにその状況対応を徹底して体得させようとしていたと関係者から聞きました。CBが前方に出てボールホルダーに当たっていくのは、後ろに2枚カバーリングが残る3バックが基本です。4バックのCB2枚で実践するのはカバーリングが薄くなるためリスクが高い。なので不満を抱いたり、思い切って前に出られない選手もいたそうです。だからハリルホジッチ元監督は、右SBの酒井を絞らせる形も想定していて、彼にCBの動きを仕込んでいたようですね。おそらく本戦では日本の『弱点』と相手に見做されるであろうバイタルエリアの穴に相手を引き込み、そこを潰してカウンターを繰り出す戦略だったのではないかと考えています。森保監督も先を見越してあえてバイタルエリアを放置させているのかどうかは気になるところですね」

竹内「森保監督は最終ラインを大きく動かすことによるリスクを甘受するタイプではないので、CBが迎撃に行く形は現実的ではないように見えます。あり得るとしたら3バックが導入できた場合ですが、練習時間がない。しかも本大会前には1カ月程度の準備期間があるのが恒例ですが、カタールW杯は冬季開催なので欧州組は1週間前までリーグ戦を戦っている予定です。だから3バックを落とし込む時間はなく、4バックで本番に挑まざるを得ない。ただ、オーストラリア戦から修正してタッチライン沿いまでカバーしている3センターが運動量でバイタルエリアを埋めるのはすでに限界が見えてきていて、それを補うにはウイングを下げなくてはいけませんが、そうなると[4-3-3]に転換した意味がなくなってしまう。だから3センターの両脇、ウイングの背後をSBがケアして、その背後をCBがカバーできるようにDFラインのスライドを徹底するしかないんですよね。それも本大会までの大きな課題だと思います」

オマーン対日本(0-1)のハイライト動画

森保監督の交代策はEUROに通じている?


――ただ、オマーン戦は後半の三笘投入から流れが変わりましたよね。消極的だと批判に晒されることも少なくない森保監督の交代策ですが、お2人はどのように分析されていますか?
……

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ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表森保一

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista