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【短期集中連載】間瀬秀一のモンゴル冒険譚Part3「モンゴル代表に最先端GPSを導入した理由、そして近未来的なオンラインでの試合指揮」

2022.01.19

5カ国でプレーした異色の現役時代を経て、イビチャ・オシムの通訳として指導者キャリアを始めた間瀬秀一。ブラウブリッツ秋田や愛媛FCで監督を歴任し、2021年4月からモンゴル代表監督という新たな挑戦を始めた。残念ながら眼の病気で昨年12月で退任することになったが、クロアチア時代のルームメイトで20年来の仲であるジャーナリストの長束恭行氏を相手に、未知の地での濃厚な冒険譚を聞かせてくれた。

全4回の短期集中連載のPart3は、モンゴル代表に最先端機器のGPS機器を導入した理由と効果、U-23アジアカップ予選で実践したオンラインでの試合指揮の実情、そして眼の病気で退任に至った経緯を掘り下げていく。

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初対面のサッカー連盟会長にGPS導入を直訴


――モンゴルと日本の両国を結ぶものとして真っ先に浮かぶのは大相撲ですが、サッカーを指導するにあたってモンゴル人のフィジカル面で気づいた特徴はありましたか?

 「当然のようにあったんですよ。日本に来たモンゴル人力士が横綱になるわけですから。その特徴が何たるか明確に表現できないと、何かしらのエビデンスがないと確信が持てない部分ではあると思うんですね。でも、僕がトレーニングを通して一番驚いたのは、モンゴルの選手たちは中殿筋(ちゅうでんきん)が強いことです」


――中殿筋?

 「中殿筋ってお尻のちょっと斜め後ろについている筋肉です。彼らは中殿筋が強いだけじゃなくて、最初から器用に使えたんですよ」

モンゴル代表のキルギス戦勝利に際して、第68代横綱の朝青龍が間瀬氏に熱烈なお祝いメッセージを送っている


――なるほど。

 「サッカー選手の走るスピードを初速から上げられる『スタートモーション』というトレーニングを私はワイヴァンFCで体系化したのですが、そのトレーニングの中に中殿筋を鍛える動作があります。このトレーニングを日本人にやらせると、おおよその選手はその中殿筋を動かすことすら最初は不可能です。ところが、モンゴル代表選手のほとんどが初日から器用に中殿筋を思い通りに動かしたんですよ。

 僕はモンゴルであらゆるデータを取るため、GPEXEというイタリア製の高品質のGPSデバイスを導入しました。世界のサッカー界では日本代表も含めてオーストラリア製のCATAPULTが主流になっていますが、GPEXEはスピード変化のグラフが細かく取れるんです。ヨーロッパではイタリア代表やラツィオ、パルマ、パリ・サンジェルマンなどが導入しています。初速のスピード変化とか、トップスピードまでどう上がるかとか、右足・左足のステップでどう変わるかまでグラフに出ます。私は2020年12月に『一般社団法人日本スプリント協会』という組織の設立に関わったのですが、そこでもGPEXEを活用しています」


――そんな最先端機器の購入をどうやってモンゴルサッカー連盟に説得したのですか?

 「僕がモンゴルに渡ったのが7月21日で、入国後の隔離措置が開けた1週間後、サッカー連盟会長との初対面の場としてランチに誘われていました。モンゴル人の走力を高めるために僕が一番重要視していたのがGPEXEの導入。会長は英語を話せるし、僕も英語を話せますが、細かいGPSデバイスのデータに関する話をするためには、サッカーを理解して日本語も話せる人物をそのランチに同席させたかったんですよ。その人物こそが私の右腕だったアシスタントコーチのトルガ。僕は『ランチにトルガを連れていきたい』と主張しました。でも、サッカー連盟の会長や理事しか出席しないVIPランチだったので『監督1人でいらしてください』と。会長秘書に『いやいや、大切な話をしたいからトルガをぜひ連れてきたい』『会長がダメだと言ってます』というやり取りを嘘じゃなくて5回も繰り返したんです(笑)」


――はははは(笑)。

 「最初が肝心なんで、『ただのランチじゃねえ。絶対にトルガを連れていきたい』と言い張って。すると、会食が始まる20分前に向こう側が折れて『連れてきていい』となったんです。本来ならば会長と『ご家族はお元気ですか?』みたいな会話をするはずが、こっちはもう最初からパワー全開でGPSデバイスの話です(笑)」


――はははは(笑)。

 「選手の走力向上についてバーッと通訳を介しながら話をして。これが功を奏しまして!」


――導入しようと。

 「ランチの次の日がサッカー連盟の理事会だったんですね。『今後のモンゴルサッカーをどうするか?』みたいな議題を会長や理事が話し合い、僕も出席することになっていました。その前日のランチの場でGPSデバイスの細かい説明をしていたから、もう全会一致で『GPEXEを購入しよう』となりました。でもこれ、状況がわからないと面白くない話なんですけど、GPEXEって他社のGPSより少し高額なんです。モンゴル代表はFIFAランクでいうとほぼ底辺なわけですよ。アジアでも底辺の代表がね、世界最先端のGPEXEを導入するなんて前代未聞ですよね(笑)」

https://www.instagram.com/p/CSPGnnBpV13/
モンゴルサッカー界の走力向上を図るため、GPSデバイスを新規導入した間瀬氏は、女子代表のコーチや国内のインストラクター向けにもスタートモーショントレーニングのセミナーを開催している

ついに現地渡航。モンゴル人選手の課題は「走力」


――モンゴルに渡ってから代表監督としての最初の仕事は何でしたか?

 「僕はU-23代表監督も兼任しており、10月下旬にはU-23アジアカップ予選が控えていました。なので、モンゴルプレミアリーグの試合をほとんど生観戦して、U-23代表選手を選考するという日々が続きました」


――実際に生観戦することで良い人材が見つかりました?

 「良い人材が見つかったという言い方もできますけど、モンゴルのリーグレベルを知ったり、モンゴル人の特性をより良く知ることができました。モンゴルプレミアリーグは10チームあって、日本より優れている部分がけっこうあります。まずは全試合が民放で放送されるんですよ」


――今の時代、それはすごいですね。

 「すごいでしょ? 全試合がちゃんとテレビで観られるんです。視聴率がどうとかはわからないですけど、とにかく家に帰ってテレビをつければモンゴルプレミアリーグが観られる環境があるんですよ」


――確か1カ所で集中開催されているんですよね?

 「『MFF(モンゴルサッカー連盟)フットボールセンター』というスタジアムが首都ウランバートルにあるんです。モンゴルサッカー連盟も隣接されていて、そこから歩いて5分のマンションに僕は住んでいました。しかも、自分はけっこうせっかちなんで自転車を買ってもらい、それに乗って通っていました。家を出れば3分でモンゴルサッカー連盟に着く(笑)。まさにサッカー中心の生活でしたね」


――どれぐらいの頻度で試合を観ていたんですか?

 「本当に多い時は1日で5試合すべてを生で観るんです。トップリーグの試合を5試合、それも生で観るって、おそらく人生ではないんじゃないですか。普通は同じ場所でトップリーグの試合は行われないですし。例えば、日本代表の森保一監督がJリーグの昼の試合を大阪で、移動して夜の試合を東京で観ても計2試合じゃないですか。1日に5試合もトップリーグの試合を生で観るっていうことは物理的に不可能だと思うんです」


――そうですよね。

 「それができちゃう環境にいたので、僕の性格上、手を抜けないんです(笑)。本当に朝9時から夜9時までずっと試合を観るっていう日があったりしました」

モンゴルリーグ開幕日の8月1日は4試合が3時間おきに行われるというスケジュールで、間瀬氏はすべてを生観戦している


――周囲のスタッフはそんな間瀬さんを見てどう思っていたのですか?

 「『過去の代表監督はこんなに試合を観ていないですよ』ってよく言われました。コーチもすべての試合を観る集中力はないので、僕1人で観る試合もいっぱいあったんです。スタンドからも観られますけど、サッカー連盟が所有するスタジアムなので代表スタッフの部屋の窓からも観られるんですね。なので、とにかくいろんな状況で試合を観まくったんです」


――モンゴル人選手のスカウティングをしっかりとやれたわけですね。

 「そう。8月の終わりに僕はサッカー界全体のレベルを上げたかったんです。年内の予定はU-23アジアカップの予選大会しかなかったのですが、決断をしてA代表とU-23代表の合同キャンプを開催しました。できるだけ多くの選手にスタートモーションと僕の戦術を理解してもらいたいので、35人を招集してトレーニングを1週間だけ行ったんです」


――そこで例のGPEXEが登場したわけですね?

 「そうです、そうです。キャンプに間に合うようにGPEXEを導入しまして。初日に測った時にわかったのが、モンゴル人のサッカー選手はやっぱり平均的に走力が低いんですね」


――それはスピード、それとも持久力?

 「要するにインテンシティも低いし、持久力もなかったんです。おそらく選手自身も自分が走れていないことを知らないし、遅いことも知らない。世界やアジア、日本と比較したこともないと思います。まずは現実を彼らに伝えたんですね。僕は『モンゴル人の長所を見つめて、彼らの本来持つポテンシャルと能力を上げる』ということにポイントを絞り、選手やスタッフに良い話や褒める話をたくさんしてきたんですけど、一度だけ本当に厳しい話をしたのは『君たちには走力がない』ということでした。『足も遅い。日本人と比べても足が遅い。それは認識するべきだ』と伝えたんですね」

スタートモーション指導の効果


――それだけにスタートモーションを教え込んだんですね。

 「走り方を誰も知らなかった、単にトレーニングをやっていなかっただけなんです。1週間のキャンプでは現実を話したのち、選手たちをテストしました。僕は光電管タイム測定器という機械を使って5mと10mのスプリントのタイムを計測します。誤差のあるストップウォッチは絶対に使いません。トレーニング前に彼らが普段やるウォーミングアップをしっかりやってもらい、まずは今までの走り方でタイムを測ります。そこからスタートモーションのトレーニングを施し、立ち姿勢から変えて。スタートモーションというのは足が速くなる、特に初速を速くできるというのがポイントで、40分ぐらいトレーニングをしたあとに再びタイムを測るんですよ。そうすると本当にその日のうちに速くなるんです。合同キャンプでは35人中29人がその場で速くなりました」

モンゴル代表の走力を向上すべく、間瀬氏はスタートモーショントレーニングを導入。合同キャンプでは8割以上の選手が初速スピードを上げている


――選手側にも驚きの反応がありましたか?

 「それはありました。その前に女子代表の初日にもトレーニングをやって、25人中16人が速くなったんですね。男子代表の合同キャンプでは35人中29人。ものすごく多い数字じゃないですか。

 眼の病気で僕の監督退任が決まり、12月にモンゴルを再訪した際、モンゴルサッカー界に関わる指導者や希望者全員を前にしてスタートモーションのプレゼンテーションを行いました。オリンピックセンターという広い場所で講義をして、そのままサッカー連盟所有のフットサルコートへ移動。聴講者は着席したまま僕の指導を観る形で、今度はモンゴルU-19代表の17人にこのトレーニングを施しました。その時は時間がなかったので20分だけトレーニングをやったんですよ。そしてタイムを計測したら、なんと17人中15人がその場で速くなりました」


――おっ、9割近くですね。

 「それがスタートモーションの特長です。1週間の合同キャンプを通してA代表とU-23代表の走力やインテンシティなど、あらゆる能力が向上しました。そのあと彼らがモンゴルプレミアリーグに戻って試合をやるじゃないですか。今度は試合中の彼らにGPEXEをつけたんです。ある時はスタメンのフィールド選手の10人×10人につけたり、ある時は代表選手だけにつけたりとあらゆるケースで計測しました。トレーニングでは初速スピードも上げられるんですけど、ロングカウンターなど30mぐらいの距離中に出るマックススピードの数値も劇的に上がりました。

 僕が熟知するJ2の試合を例に挙げれば、走力にあまり関心がないチーム、走力が上がらないチームにおいてマックススピードが時速30kmに達する選手は1試合に2人ほどしかいないんですね。僕がブラウブリッツ秋田に初めてGPSデバイスを導入した時、スタートモーションのトレーニングはまだ生まれていませんでした。でも、走り方を良くしてマックススピードを上げるというスプリントトレーニングを導入したんです。なので、良い試合だと秋田のスタメン中、7人ぐらいが時速30km以上を出していましたね」


――なるほど。

 「例えば、『速い』と言われる選手は時速33kmとか34kmを出します。でも、そういう選手って稀なんです。世界一速いサッカー選手がキリアン・ムバッペで、時速36kmを出すと言われているんですね。でも、モンゴル代表の中でリーグの試合中に時速35km後半を出した選手が3人も出たんですよ」


――へえー。

 「ムバッペよりちょっと遅いぐらいですね」


――代表選手は合同キャンプのあとも間瀬さんが体系化したトレーニングを継続的にやっていたんですね?

 「そう。おそらく日本代表だと前田大然とか伊東純也あたりが時速34kmか35kmだと思います。なので、今のモンゴル代表は僕のトレーニングを通して日本代表に負けない走力がもうすでにあるんです」


――間瀬さんが退任した後も、モンゴル代表の選手たちは走力向上のトレーニングを継続しているんですね?
……

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イビチャ・オシムジェフユナイテッド市原・千葉モンゴル代表文化間瀬秀一

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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