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なぜアメリカンスポーツはデータをオープンにするのか?FBrefとOptaの決別がサッカー界に問いかけるもの(後編)

2026.01.30

1月20日、世界中のサッカーファンの間で衝撃が走った。端を発したのは、過去7年間にわたって41万超の試合で23万人超の選手が記録したゴール期待値をはじめとする高度かつ詳細なスタッツを、サッカー談義やサッカー分析の材料として無料で豊富にそろえていたデータサイト「FBref」。その運営元であるSports Reference社のショーン・フォーマンCEOいわく、突如データプロバイダー「Opta」から「データフィードへのアクセス終了とサイト上にある当該データの即時削除を求める書簡が届いた」ため、ありとあらゆる指標がFBrefから姿を消すことになったからだ。この決別でますます顕在化したデータ活用におけるサッカーとアメリカンスポーツの決定的な差を、前後編に分けて秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏が解説する。

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データ活用術が炙り出す、サッカーとアメリカンスポーツの差

 世界に数多あるスポーツの中で、最も人気を博しているのがサッカー(ここからアメリカンスポーツとの比較論になるためこう言い換える)というのは有名な話だ。しかしだからといって、サッカーがスポーツ界で最も開かれた価値観を持っているわけではない。

 スポーツのデータ活用というトピックにおいて、アメリカンスポーツの右に出る者はいない。特に4大スポーツにおけるデータ活用の事例は枚挙に暇がなく、脈々と根づく「リーグ=プラットフォーム」という価値観が現場だけでなくファンの参画・教育を促してきた。

 MLBを例に取ろう。メジャーリーグはその中でも随一のオープンさを誇り、2000年にリーグ主導で設立されたデジタルイニシアチブ「MLB Advanced Media(MLBAM)」を通じて、インターネット上でのありとあらゆるビジネスの運営を始めた。その中の1つにはどこよりも詳細なローデータ(生データ)の開示が含まれており、2006年には投球位置解析システムの「PITCHf/x」(あの中継上で表示されるストライクゾーンのグラフィックだ)が、そして2015年にはフライボール革命の端緒となった高度分析システム「Statcast」が開発された。今やBaseball Savant(Statcastのデータが公開されているサイト)はどこよりもニッチな野球スタッツ置き場となっており、それらの高度なデータが現場だけでなく世界中のファンに惜しげもなく公開されている点に特徴を持つ。

 このMLBのスタンスについて語る上で、日本の野球ファンにもお馴染みとなった「セイバーメトリクス」の影響を避けて通るわけにはいかない。1970年代に野球ライターのビル・ジェイムズによって提唱された野球の分析に統計学を持ち込むという考え方は、打率や防御率といった単純な指標のポテンシャルに疑問を持った野球ファンたちによる「選手の能力を正しく評価したい」という知的好奇心・探究心の表れだった。

 そこでMLBが次に取った手段こそ、「すべてのデータをオープンソースにしてマーケティングツールにする」という選択である。この時すでにオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンが現場レベルでそれを実践して時の人となっており、一般ファンの中でも独自のモデルを築き上げるなどして競技性の発展に一役買う動きが続々と出た。それは現場を助けただけでなく、ファンを育てることにも繋がったのだ。

 ここまでのレベルではないにしてもNBAやNHLも同様のデータサイトを自前で構築している。NFLもデータサイトのほか、有料ではあるが「NFL+ Premium」というWyScoutのようなサービスを公式が提供。先に記した「データの囲い込み」という考え方とは真逆と言っていい。

オープンソース化に立ち塞がる欧州の「データベース権」とは?

 こういったアメリカンスポーツとサッカー界との差を考える上では、当然ながらさまざまな視点に想いをめぐらせる必要がある。

 サッカー界におけるアンダーラインデータ活用の歴史は浅い。何せStats Performのサム・グリーンがxGというモデルを提唱したのが2012年4月のことである(それまでにも似たような試み自体はあったが)。それ以前に遡っても、少なくともイングランドにおいては1995年のProZoneによるトラッキングデータ収集開始、翌年のOptaによるイベントデータ(ゴール、カード等の試合中の出来事)収集開始がデータ活用の走りとされている。

 これらは著名なところでサム・アラダイス(選手時代、1980年代のアメリカでのプレー経験からNFLを模倣したデータ活用に多大な興味を払っていた)、アーセン・ベンゲルらのチーム作りに活用されたことで日の目を浴び、やがて2001年のFootball DataCo(プレミアリーグとEFLによる合弁会社。リーグ関連の知的財産の管理を行なっている)設立によりデータが権利として守られることになった。

 アメリカと欧州の法的解釈の違いとして、欧州には著作権(試合の結果などの「単なる事実」はカバーされない)のほかに「データベース権」という権利がある。

……

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Profile

秋吉 圭(EFLから見るフットボール)

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

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