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ビエルサ・リーズの元アナリストが明かす“エル・ロコ”クレイジーな試合の見方

2021.09.11

年間数百試合を見る戦術研究家として知られながらも、一切個別取材を受けないため分析術が謎に包まれているマルセロ・ビエルサ。いまだに秘密の多い“エル・ロコ”(変人)はどんなデータや映像を求めているのか。ビエルサ率いるリーズで外部アナリストを1年半務めたサルバトーレ・シメオネ氏に解き明かしてもらう。

※『フットボリスタ第84号』より掲載。

全選手のポジション別プレー時間を計測

──リーズではアナリストとして、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?

 「リーズがチャンピオンシップ(英2部)を戦っていた2019-20シーズンと、プレミアリーグに昇格した20-21シーズンの半年間の計1年半、外部アナリストを務めていました。当時から私はリーズに住んでいなかったので、クラブの分析部門から対戦相手に関する統計データの取得、相手選手の個別プロフィール作成、対戦相手の主観的分析、自チームと対戦相手の試合・練習の映像編集をリモートワークで任されていました。私が来る前の19年1月、スパイ行為が発覚して、マルセロ(・ビエルサ)は緊急会見を実施しなくてはいけなくなりましたよね。そこで公になった資料のようなものを準備するのが、私の仕事です(苦笑)。あとはマルセロやチームのリクエストに合わせて、臨機応変に対応していましたね」

──会見でビエルサは釈明するのかと思いきや、チャンピオンシップ全クラブのトレーニングを偵察して、各チームの戦術分析を行っていることを明かしていましたよね(笑)。まず統計データの収集についてですが、どのような項目を集めているのでしょうか?

 「対戦相手に関する項目すべてです。リーズでのデータ収集では量がモノを言います。集められるだけ集めなければならない。その中にはデータベースから得られる一般的な項目もあれば、マルセロが独自に定義した項目もあります。ただ、最終的にそれらが使われるかどうかは、彼次第ですね」

英紙『ガーディアン』が報じた緊急会見の様子。フォーメーションや交代策はもちろん、セットプレーのサインから選手個々のプロフィールまで、対戦相手を徹底的に調べ尽くす分析手法がビエルサ本人の口から明かされている

──どのようなデータベースから集めているのでしょうか?

 「主にWyscoutやInStatですが、他のサービスから集めることもあります。データベースによってアルゴリズムは変わってくるので、同じ項目を複数のサービスで照らし合わせて、その正確性を検証しています」

──データベースによって各項目の定義は変わってきますし、それらも同じ人が収集しているとは限りませんからね。

 「だから、マルセロはどちらかと言えばアナリストが自らデータを採取するのを好みます。各サービスでワンクリックすれば取得できるようなデータも、わざわざアナリストの手で集めさせるので、非常に手間がかかりますね。正直イラッとしたことも何回かあります(苦笑)」


──ビエルサが設定した独自の項目とは何でしょうか?

 「一例としてマルセロはコンディションやピークを特定するために、試合中に相手選手が記録した各ポジションにおけるプレー時間を計測するよう求めていました。そこで難しいのは、現代サッカーでは一試合の中でも複数のポジションを担う選手がいるということです。マンチェスター・シティのジョアン・カンセロが好例でしょう。左SBである彼がボール保持時に守備的MFのポジションに移動すれば『左SBで20 分』『守備的MFで10 分』とExcelに入力していきます。ただ、神出鬼没な彼が5分間で左SB、守備的MF、ウイングと3 つのポジションに移動した場合は、時間を数えません。監督が自由を与えている可能性があるからです。そうした独自のデータと一般的なデータを組み合わせて、PDF で対戦相手の全選手のプロフィールを作成していました」


──ポジションによって求められるスピードや運動量は変わってきますからね。そうしたデータは何試合分集めているのでしょうか?

 「時間が許す限りの試合数を確認します。同じリーグに所属しているチームが対戦相手なら、最低でもシーズン全試合です」


──全試合分ですか? 普通は直近の数試合分ですよね?

 「私も最初にそう頼まれた時は目を見開きました。でも、リーグ戦に関しては遅かれ早かれ全チームと対戦しますよね。シーズン開幕からリーグ戦全試合を見ておけば、次の対戦相手も次の次の対戦相手も、そのまた次の対戦相手も定点観測できているので後々の仕事が楽になっていきます。19-20シーズンは24チームが参戦しているチャンピオンシップの全552試合の、データ収集とゲーム分析を行っていました。そうしてシーズンを通して、全チームの情報を蓄積しています」

──FAカップで別のカテゴリーのチームと対戦した時はどうしていたんですか?

 「時間が許す限りの試合数を見ます。例えば19-20シーズンのFAカップでアーセナルと対戦した時は、試合の1週間半前にデータ収集を頼まれましたが、ウナイ・エメリが解任された約1カ月後だったんですね。監督が代わるとメンバー選びも交代パターンも戦術も変わるので、前監督時代の試合を振り返ってもあまり意味がないのですが、エメリ時代の試合すべてからデータ取得とゲーム分析をするように言われて困惑しました。もちろん、言われた通りに全試合を確認しましたけどね(苦笑)」

19-20シーズンのFAカップ3回戦、1-0で惜敗したものの前半は格上アーセナルを圧倒していたリーズ

アナリストにも求められる自己犠牲と完遂力


──とてつもない仕事量ですね……。
……

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マルセロ・ビエルサリーズ分析

Profile

マーレー志雄

1993年、滋賀県生まれ。日本で3年間の指導経験を積んだ後、イングランドで指導者ライセンスを取得するためにサウサンプトン・ソレント大学のフットボール学科へ。現地でU-12の男子チームから大学の女子チームまで幅広いカテゴリーを指導し、現在は同大学のスポーツ科学&パフォーマンス指導学科で修士課程に進んでいる。Twitter:@ShionMurray