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「第二のクラブ」が海外展開に挑む――クラブスタッフとして働く日本人から見たカディスCFの実像

2021.08.16

2021-2022シーズンが開幕したラ・リーガ。久保建英原大智など日本人選手の活躍も期待される中、本記事ではオフ・ザ・ピッチで同リーグの魅力を伝えようと奮闘する2人の日本人を紹介する。

1人目は金子侑。昨シーズン15年ぶりにラ・リーガ1部に復帰したカディスCFでクラブ唯一の外国人スタッフとしてコミュニケーションチーム(広報)に所属している

2人目は前田貴史。カディスCFの日本公式デスク「カディスジャパン」の中心メンバー。SNSやnote、ポッドキャストで日々クラブの情報を日本語で発信している。

両名は日本での知名度が高いとは言えないカディスCFになぜ惹かれ、どのような経緯でクラブと関わるようになったのか。

「明日からおいでよ」

――まずは金子さんがカディスCFの存在を知ったきっかけから教えてください。

金子「学生時代からサッカーは好きだったのですが、スペインという国を意識したのはFIFAクラブワールドカップですね。楽しそうに応援しているスペイン人の様子を見て『いつかラ・リーガで働いてみたいな』って(笑)。SNSを通じてラ・リーガの情報をいろいろ調べている時に見つけたのが『カディスCF』の日本語公式アカウントで、他クラブと比較して独特なコンテンツを配信していることに興味を惹かれたのがクラブの存在を知ったきっかけですね」

――確かに『注目選手紹介』や『マッチプレビュー』といった定番コンテンツに加え、『フロント業務の裏側』や『美味しいパエリア屋さん紹介』など、彼らの情報発信は数あるサッカークラブの中で異彩を放っています。

金子「そうなんですよ。そんな話を会社の同僚にしたら『それ、俺の知り合いが運用しているよ』と紹介してくれて。世間が狭いのはサッカー業界あるあるですよね。初めてお会いした場で『私もお手伝いさせてもらえませんか?』とお願いしました」

――その運用メンバーの1人が前田さんだった訳ですが、前田さんはどのような経緯でカディスCFとの関係をスタートされたのでしょうか?

前田「私も金子と同じくサッカーに携わる仕事に就くために転職活動を続ける中で、同じ志を持った仲間2人と出会いました。当時、私は海外のスポーツテックを扱うベンチャーで活動していて、仲間はメディアやマーケティングの会社に就職していたのですが、本業と平行する形で仲間から『海外クラブの日本展開に興味ない?』と声をかけてもらったのがきっかけです」

――それが『カディスジャパン』ですね。

前田「その通りです。クラブ(カディスCF)に対して日本語SNSアカウントの開設など、日本でのプロモーション展開の提案を行いました。クラブが海外展開を考えているタイミングだったこともあって許諾をいただき、2019年11月からカディスCFの日本公式デスク『カディスジャパン』としての活動が始まったという経緯です。現在はメンバーも増えて7人体制で運用しているのですが、全員が本業を持ちつつ、その傍らで『カディスジャパン』に関わっているという形です」

――なぜ日本での知名度が高いとは言えないカディスCFにアプローチしようと思ったのですか?

前田「正直に言って、私も(カディスジャパンの発案者である)仲間からその名前を聞かされるまでカディスCFの存在を知りませんでした。ただ、調べたり教えてもらったりする中で、観光や歴史的に魅力があることはもちろんですが、クラブが『第二のクラブ』というブランド戦略を持っていることに惹かれました。地元から一番に愛されていることが前提ですが、レアル・マドリーやバルセロナといったメガクラブが同居するラ・リーガにおいて、自分たちの立ち位置をよく理解しているブランディングだなと。『第二のクラブ』というスタンスも影響しているのか、クラブスタッフのみなさんは常にカジュアルにコミュニケーションを取ってくれますし、こちらからの提案も基本的にはOKが出ます(笑)」

――金子さんはカディスジャパンでの活動を経て、現在はカディスCF本体のスタッフとしてスペインで働かれています。

金子「ほとんど押しかけたような形なんですけどね。クラブとは何の約束もしていない中で、ワーホリ(ワーキング・ホリデー)のビザを申請して、とりあえずカディスに引っ越しました(笑)。本国のスタッフに『1年間こっちに住むことになったよ』と連絡を入れたら『スタジアムを案内してあげるから遊びにおいでよ』と招待してもらって、その勢いで『マーケティングディレクターも紹介するよ』ととんとん拍子に話が進んで。そこで『ずっとスペインが好きでした。ラ・リーガのクラブで働くのが夢です』と伝えたら『OK! 明日からおいでよ』と言われて就職が決まりました(笑)」

カディスCFのホームスタジアム「ヌエボ・ミランディージャ」

――とてもカジュアルな採用ですね(笑)。先ほど前田さんから『海外展開』というワードが出ていました。金子さんが採用された背景には今後、カディスCFが日本人選手を獲得するようなプランがあるのでしょうか?

金子「そんな展開があれば個人的にはうれしいですが、直近でそういう動きがあるとは聞いていません。ただ、カディスの人たちがスペイン国内だけでビジネスをしていても売上をこれ以上大きくすることは難しいと思っているのは確かです。アジアであれば日本以外にも中国、ベトナム、インド、インドネシア、タイでも現地の言葉でカディスCFのSNS運用を開始していますし、そういう海外展開のタイミングがハマって『日本人も試しに採用してみよう』となったのかなと想像しています(笑)」

――海外展開を進められているというのは、クラブにリソースがあるということだと思います。15年ぶりにプリメーラ・ディビシオン(1部)を戦われた2020-2021シーズンの営業収益を教えてもらえますか?

金子「移籍金を含まないで、約4500万ユーロ(約58億円)です。詳しい比率はお伝えできないのですが、1部昇格で放送権料の配分が増えています。あと、JリーグでもDAZN視聴者数に応じて得られる『ファン指標配分金』がありますが、ラ・リーガには『SNS分配金』というものあって、フォロワー数やエンゲージメント数などに応じてリーグからクラブにお金が支払われます。人的リソースとしては1部昇格後はスタッフ数が急激に増えています。最近もSNSやオウンドメディアを扱う専門のスタッフが加わったりと、今はフロントスタッフだけで50人以上います」

――コロナ禍において激減した入場料収入を、オンラインの領域でカバーしようとするアプローチはスペインも日本も同じなのですね。

金子「デジタルコンテンツに力を入れるのは、コロナの影響以外にスペインの若者がサッカーを昔と比べると見なくなりつつあるという背景もあります。映像尺が短いTikTokを使って情報を発信するクラブがスペインでは増えてきていますね。クラブ独自でオウンドメディアを立ち上げるチームが増えており、カディスも『カディスCF TV』というものをローンチしたのですが、そこでのコンテンツ作りがテレビのニュース番組での露出にも繋がったりするので力を入れています」

前田「あと、試合映像に派手な加工をするクラブも増えてきていて、カディスでもゴール映像に炎のアニメーションをつけて投稿したこともあります」

8月5日に開催された「カランサカップ」ではアトレティコ・マドリーに勝利した

カディスタが特別な存在である理由

――お2人に共通する業務内容である『広報』についてお聞きします。まず『カディスジャパン』に関しては、非常にカジュアルな情報発信が特徴です。

前田「他の海外クラブの日本語アカウントとの差別化を意識した時、他クラブと同じように公式情報を発信するだけでは絶対に見てもらえないという考えが前提にあります。ですから、監督や選手コメントを関西弁で翻訳してみたり……これが正解だとは思っていませんが、変化球を投げようという意識はあります」

他クラブとの差別化を意識し、情報発信は試行錯誤を続けている

――関西弁?

前田「差別化出来れば何でも良いという訳ではありません。関西弁にしているのは、カディスの土地柄として方言が強いことや、カディスに住む人たちの雰囲気が関西人のようにオープンマインドな人柄が多いことなど、関西と似た要素が多いことが背景にあります。真面目に考えながら、変化球を投げていこうという意識でやってます」

金子「たまに『公式のくせにそんな発言していいの?』というご意見をいただくこともあるのですが、『公式らしさとは?』という問いはメンバー全員で考えて続けているテーマです。本国のスタッフも『みんなで楽しくサッカー観られれば何でもいいのでは』という感覚で、『公式だから●●はしてはいけない』ということは一度も言われたことがないですね」

――日本での広報活動において変化球を投げているのは、現状はカディスCFの認知度向上が最優先というステータスゆえだと思います。本国スペインではいかがでしょうか? 何を目的として情報発信をされていますか?

金子「まずサッカーを扱うメディアの数が日本とは違うので、広報が何もしなくてもクラブに関する露出は毎日保証されています(笑)。あと、シーズンチケットでスタジアムがほぼ埋まるので、スタジアムへの集客を目的に広報活動をしているという意識もないですね。最近は先ほどお話したデジタルコンテンツへの流入が広報活動における重要なKPIの1つにしていますが、スペインのサッカー市場はすでに成熟している印象です。特にカディスのサポーターの熱量は凄まじく、絶対にクラブから離れないという確信もありますね」

――『カディスタ』(カディスCFのサポーター)ですね。彼らのクラブへの忠誠心の高さはスペイン国内でも一目置かれる存在だとか。

金子「コロナ禍にスペインに来たのでスタジアムでカディスタと直接コミュニケーションを取れる機会がなかったのですが、地元の人に『なぜカディスタは特別な存在だと言われるの?』と質問すると『良い時も悪い時も絶対にサポートするからだ』とみなが同じ回答をしていました。『今はプリメーラ(1部)にいるけど、どのカテゴリーに所属していても応援する気持ちは変わらない』と考える人が多いみたいで。先日、カランサカップでスタジアムにカディスタが入っている試合を始めて見たのですが、失点後もすぐに拍手でチームを盛り上げていている様子などからカディスタのクラブ愛を感じることができました」

――そうしたサポーターのメンタリティはどのように育まれていくのでしょうか?

金子「カディスで暮らして感じるのは“カディス=サッカークラブ”であるということ。みな、自分が生まれ育ったこの街が大好きなんです。だから、カディスの人々が地元のサッカークラブであるカディスCFを応援するのは当然という感覚です。そうした考えはクラブ創立から100年以上の歴史の中で代々受け継がれているのだと思います。カランサカップでも5、6歳の少年が、カディスの選手がファウルされると大人に混じって全力で怒っている光景を見て、この街には文化としてカディスCFが根付いていると感じました」

――先ほども話題になりましたが、『第二のクラブ』として本命のクラブとかけ持ちでカディスCFを応援するサポーターが多いこともこのクラブの特徴として挙げられます。

金子「これも“街=サッカークラブ”という捉え方から説明できると思っていて、カディスの街自体が3000年以上の歴史があって、海も近くて、ヨーロッパではバカンスで遊びに行くような場所なので嫌っている人が少ないんですよ。そういう街のイメージによる影響が大きいのかなと思います」

前田「あと、いわゆる“ダービー”のような相手がカディスにはいないことでアンチが生まれにくいことも要因としてあるのかなと思います。バルセロナとレアル・マドリ―、セビージャとベティスのような自然と敵対する構図になるクラブがないので、他クラブのサポーターが『第二のクラブ』として受け入れやすいのだと思います」

――お2人の活動で日本でもカディスCFを『第二のクラブ』として応援する人が増えればいいですね。最後に今シーズンのカディスCFの見どころを教えてもらえますか?

金子「チームとしてはプリメーラ残留が最大の目標です。昨シーズンは強豪クラブに勝利した試合があるなど想像以上の成績でしたが、そんなに簡単な目標ではないと思っています。注目選手は新加入の(ミルティン・)オスマジッチ選手です。プレシーズンマッチで躍動しているので、シーズンでもゴールを期待しています。またレアル・マドリードから加入した若いセンターバックのチュスト選手も非常に注目されています。広報的にはカディスジャパンのメンバーとも連携しつつ、選手へのリスペクトを忘れずに面白いことを続けたいと思っているので、オフ・ザ・ピッチの活動にも注目してもらえればうれしいです」

――お忙しい時期にありがとうございました。

YU (ISHIDA) KANEKO
金子(石田)侑

1990年1月17日生まれ。高校はカナダ、大学は日本、大学院はスペイン・イタリアと渡り歩く。帰国後新卒で日系メーカーに就職した後、2017年4月にDAZN PR部に転職。社会人になった後もスペイン再渡欧への想いが途絶えず、カディスジャパンに2020年夏にジョイン、同年12月にコロナ渦ではあったもののワーキングホリデーのビザを活用しスペインへ移住。現在はラ・リーガに所属するカディスCFのコミュニケーションチームでクラブ唯一の外国人として勤務中。

TAKAFUMI MAEDA
前田 貴史

1988年愛知県豊田市生まれ。刈谷高校サッカー部、立命館大学スポーツ社会学部を卒業後、リクルートライフスタイルなどで営業職を経験後、大手ASPにてスポーツブランドECサイトを担当。兼業で海外スポーツテックを扱うベンチャーにジョインした経験を経て独立。現在は株式会社iSMにてJクラブなどのwebディレクターを担当。カディスジャパンには立ち上げ当時から参加。

Photos:©︎Cádiz CF

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ。関西学院大学社会学部卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリ開発等を担当。2018年より筑波大学大学院に所属し、スポーツ社会学を研究。修士号取得。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」管理人。footballista編集部。