SPECIAL

コロナ禍で大きく躓いたチーム作り。西野朗監督率いるタイ代表、W杯2次予選敗退の背景

2021.06.18

来年、カタールで行われるワールドカップの出場権を懸けたアジア2次予選のグループGで、西野朗監督率いるタイ代表は前回に続く最終予選進出を果たせなかったばかりか、2勝3分3敗でグループ4位に沈んだ。タイ国内では監督の進退に関する議論も出ている。ただ今回、チームは国内合宿中に新型コロナウイルス感染者が出るなど、コロナ禍による影響を大きく受けた。直面した難局を西野監督がどう乗り越えようとしたのか、彼の言葉とともに戦いを振り返る。

3戦必勝のUAEラウンドでまさかの未勝利

 UAEでの残りの2次予選の集中開催が始まる前、タイは5試合を終えて2勝2分1敗の勝ち点8で3位につけていた。2位マレーシアとは勝ち点1差だが、首位ベトナムとは2度の直接対決をドローで終えてすでに勝ち点3差がついていた。しかも4位のUAE(勝ち点6)はまだ1試合消化が少ない。最終予選進出の可能性はまだ残されていたとはいえ、2次予選突破に向けてUAEでのインドネシア、UAE、マレーシアとの試合は3連勝が求められていた。

 西野監督が試合前日会見で「十分な準備をしてきたかどうかが試されるゲームになる」と話していた6月3日のインドネシア戦。ここまで5連敗で最下位に沈む相手からの勝ち点3は必須だった。プレミアリーグのレスターに所属するMFタナワット・スンジッターウォンらを初先発させたタイは5分、CKからDFナルバディン・ウィーラワットノドム(ブリーラム・ユナイテッド)のゴールで幸先良く先制。しかし39分にDFの隙を突かれて追い付かれると、50分にFWアディサク・クライソーン(ムアントン・ユナイテッド)のヘディングで勝ち越すも60分に再び同点ゴールを奪われ、勝ち点1に留まってしまった。

 是が非でも勝たなければならない続く7日のUAE戦。UAEは3日に行われたマレーシア戦を4-0で勝利しており、この時点でタイを得失点差で上回り2位に浮上していた。西野監督は「バンコクで戦ったチーム(2-1でタイが勝利)とは大幅にメンバーが変わっているように思う。相変わらず一人ひとりのタレントの力は非常に高い」(試合前日会見)と警戒したが、序盤から細かいパス回しを多用するUAEに主導権を握られたタイは前半だけで2失点。54分に18歳のFWスパナット・ムエンタ(ブリーラム・ユナイテッド)のゴールで反撃ののろしを上げるも、試合終了間際に追加点を奪われ万事休すとなった。

 同日、ベトナムはインドネシアに4-0で勝利して勝ち点を14まで積み上げており、この時点でタイの首位通過の可能性はなくなった。さらに、試合がなかった11日にUAEがインドネシアに5-0で勝ったことでタイは2位の望みも失われ、最終予選進出への道を完全に断たれることになった。

 15日のマレーシア戦、試合前日会見で西野監督は「タイサッカーにとって絶対に負けられない試合。代表チームが持っている力をすべて出し切りたい。サポーター、国民の期待に応えられるように戦いたい」と意気込んだ。だが、タイは前半からチャンスを作りながらも決められずにいると、52分にマレーシアにPKを献上。GKチャトチャイ・ブップロム(BGパトゥム・ユナイテッド)がシュートに触れながらもボールはゴールを割り、その後両チームにゴールは生まれずタイは0-1で敗れた。

タイ代表を率いる西野朗監督

オフ明けの難しいタイミングのうえ、合宿中にはコロナ感染も判明

 新型コロナウイルスのパンデミックにあって、満足な準備ができたチームは数少ないだろう。ただ、タイは今回ひときわ大きく影響を受けたチームの一つもかもしれない。……

残り:2,018文字/全文:3,513文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

タイ代表西野朗

Profile

長沢 正博

1981年東京生まれ。大学時代、毎日新聞で学生記者を経験し、卒業後、ウェブ制作会社勤務などを経てフリーライターに。2012年からタイ・バンコク在住。日本語誌の編集に携わる傍ら、週末は主にサッカー観戦に費やしている。

RANKING