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【対談】吉田達磨×山口遼:現場での“フォーメーション”との向き合い方

2021.08.03

『シン・フォーメーション論』発売記念企画#1

8月2日に全国発売された『 シン・フォーメーション論 』は、山口遼さんが従来の枠組みでは捉え切れなくなった現代サッカーにおけるフォーメーションについて「サッカーとは何か」という根源的問いからスタートして徹底的に再考し、新たなフレームワークを提示している意欲作だ。

本書には特別企画として、2本の対談が収録されている。今回は発売を記念してそのうちの1本、現在シンガポール代表を率いている吉田達磨監督と山口さんとの対談の一部を特別公開! 外から見ていると複雑化・高度化しているように映るフォーメーションというものを指導者はどう捉え、そして指導の中で落とし込んでいるのか。現場での実情をうかがい知る手がかりとしてほしい。

――本題に入る前に、今回なぜこの2人で対談することになったのか、お2人の関係性を教えてください。

吉田「初めて会ったのは、遼くんが中3の時でした。最近そのことを言われて『あぁ、あの時のアイツだ』って(笑)」

山口「僕は鹿島アントラーズのつくばジュニアユースにいたんですけど、ユースに上がれるか微妙だったんです。それで、もともと柏レイソルのサッカーがすごく好きだったのでレイソルのユースを受験したら、セレクションに(当時レイソルユースを指導していた)達磨さんや下さん(下平隆宏監督)が来られていて、その時ですね。達磨さんからしたら『なんだコイツは?』って感じだったと思うんですけど(笑)」

吉田「あの時アントラーズのつくばジュニアユースから3人受けに来ていたんですけど、1人俺にガンガン話しかけてきたヤツがいたんですよ。『何人獲るんですか?』とか(笑)」

山口「(笑)。今思えば優しく対応していただいたなと思います。それで最近になって、代理人を通じてお話させていただく機会があって。その時点ではまだ、『若手指導者の山口遼くん』と『あの時の生意気なヤツ』の記憶が繋がっていなかったんですけど(笑)、話していくうちに1本の線で繋がったんです」

吉田「遼くんの存在は知っていて、指導者を目指している若い世代の子から『これから山口くんに会いに行くんです』って聞いたりもしていたんですけどね。話していくうちに記憶が蘇ってきて繋がりました」

山口「生意気でしたか、やっぱり(笑)」

吉田「この感じで変わってないね」

山口「そういった縁もあって達磨さんも下さんもずっと応援してきていましたし、偉そうかもしれないですけど尊敬もしています。レイソルユースのスタイルはアントラーズとは違っていて、あのサッカーを自分でプレーしてみたいと思って受けた部分もあったので。結局はアントラーズのユースに昇格することになりましたけど、レイソルユースのああいうサッカーを作り上げた達磨さんと下さんがどういうふうにやっていたんだろうっていうのはずっと気になっていて、指導者になってから参考にもさせてもらいました。それで今回、このテーマで話を聞いてみたいなと思い声をかけさせていただきました」

―― 山口さんのサッカー観に影響を与えたのが吉田さんだったわけですね。ではここからは本題に入って、まずはフォーメーションというものをどのように解釈し現場で扱われているのか、吉田さんのお考えをうかがいつつ話し合っていただければと思います。

吉田「『フォーメーションが大事じゃない』や『ただの数字の羅列だ』といったことをいろいろな方が話していますからその通りかなというのもありますし、大事じゃないわけがない、ただの数字の羅列と言うわけでもない、とも思います。3ラインが基本になっていると思いますが、歴史の中でそうなっていったんでしょうし、11人をどうやってプレーしやすいように並べるか、コートの大きさとか(を考慮して)なったんでしょうけど、僕はあんまりそういうことを学術的に深く掘り下げたことはなくて。考えたことがないわけではないですが、『すでにあるもの』でしたから。

 フォーメーションに関して言うと、ラインの数が3本から増えていますよね。とはいえ3つのラインがベースになっていることは事実で変わらないと思います。基本的なDFのライン、MFのライン、FWのラインというものがあり、それがどんどん崩れてきている。僕が好きなのは、ラインの間に人がいる、出たり戻ったりできる。前にも後ろにも、自分のラインにも入れるし前後のラインのカバーもできるし越えてもいけるというのが好きです。基になるのは3つのラインです。なぜなら、相手の守備もまた3ラインを基にしていることが多いから。昔と今の違いは、あらかじめ意図的に用意されたラインが増えているということです。

山口「要するに、攻撃の時の方がラインが増えているということですよね。守備の時は3ライン、あるいはアンカーを入れて4ラインというのが基本ですから、それに対して挟むようにフォーメーションを組むと。[2-3-2-3]や[3-2-2-3]って最近増えていますけど、ああいうのもラインが4本とか5本に増えているので。そういうことですよね」

――ラインが増えているのはどういった理由からなのでしょうか?

吉田「攻撃で言えば相手のラインをを崩す、あるいは壊す。守備で言えばラインを崩しに来る相手に対応する。守備ではもちろん陣形も大事ですけど、コンパクトにという前提がそもそもありますからね。その塊を崩すために、攻撃側は基本横に並ぶ相手のそれぞれのラインを崩し穴を作る、そのためにそこに人がいるというシンプルなことです。守備側は自分の視野に新しく入ってくる選手を気にしながら、本来自分がいるべきポジションも守ることになり、そこに穴が見える。当然タイミングや技術というものがあってのことですが、基はとてもシンプルなものです」

山口「最近のフォーメーションが複雑化しているというのも、守備の3ライン以上、[4-2-3-1]や[5-4-1]も[5-2-2-1]みたいになって、前の5人は五角形になって一緒に動いたりするから、そこに対して従来の3つのラインとか、単にラインですっていうのでは崩せなくなってきた中で、同じような配置の中でもちょっと人が前を取って、縦の段差を作ってラインを越えるとか引き付けるとか、細かい調整がシステムに組み込まれてきたんだろうなっていうのは見ていて思いますし、その1つの結果がグアルディオラのマンチェスター・シティだったり、トゥヘルのチェルシーなんかもそういうことをやろうとしているんだなと思います。

2020-21のCL決勝で相まみえたトゥヘル監督とグアルディオラ監督

 ヨーロッパの人ってシステムに組み込むのがうまいなってすごく思っていて。日本の中でもレイソルユースは例外で組み込むのがうまいなと思うんですけど、一般的に日本だと個々の動きにフォーカスされ過ぎちゃって、全体がすごく寄り過ぎちゃったりとか、全員が下がってきたりとか全体としての不協和音が生まれちゃいがちというのが課題としてあって。一方で、全体の規則にとらわれ過ぎちゃうところもあるじゃないですか。だから配置だけカチッと決めてしまって、あとはもうがんばれみたいな形だと守備も対応しやすいから、両輪じゃないけどシステムのところもある程度カチッとはめ込みつつ、個人のところでうまく段差を作るとか。そういうのをうまく組み込むことが必要だし、その結果として高度化したように見えているというか。でも実際には、そんな複雑なことってトレーナーも理解できるわけないですから。言ってることはシンプルなはずなんですよね。結果として高度化して見えるというのは、そういうことなんじゃないかとは思いますよね。本当はラインを越える、守備のラインが増えた、攻撃のラインが増えて、あとは人が動かなきゃいけない。というのがうまく組み込まれた結果なのかなというのは凄く感じます」

吉田「だいたいシンプルだと思いますよ。そんなにいろんなことを考えてプレーはできませんからね。そっちが重たくなってくると体が動かなくなってくる。なので両方鍛えないといけないんですけど、それをさせながら、高い強度でトレーニングし続けないといけないんですけど、そんなに細かく、この時はこうであの時はこうでみたいな対策というのは1つ2つ、3つくらいが限界で結構いっぱいいっぱいなところがあって。なので攻撃はいかにシンプルに相手のラインを越えていくかとか、誰が幅を取り誰が深さを作るのか。守備は3つのラインを軸に、最終ラインの幅をうまく埋めたい、なら5バックにしよう、相手CBにスペースを与えても自陣ゾーンにスペースは与えたくない、なら1トップで[5-4-1]をベースにしたり、やっぱりそれすら許したくないから2トップで[5-3-2]をベースにしたり。当然攻撃に出る時に変化をすることになりますけど。同じ[5-4-1]でも引き込む守備もあれば、シャドーが相手CBや下がったボランチに圧力をかけてウイングバックもそれに連動して出ていく[3-4-3]に近いものもあるでしょう。3つのラインをベースに、何を許すのか許さないのか。全部は取れないわけで。相手の特徴やボールのあるゾーンによっても変わると思うんですけど、攻撃側はそれを崩していくためにライン間に起点を増やすことになるでしょう。そうなると、標記されるシステムは数字の羅列になるでしょう」

山口「僕が去年、執筆した本で戦術的ピリオダイゼーションについて書かせてもらいましたけど、いろんな文献にあたってみて、グアルディオラとかクロップはどうやってるんだろうかと見ていく中で1つ面白いなと思ったのは、戦術的ピリオダイゼーションってシンプルに、シンプルなことしかできないんですよ。僕としてもそう思いますし、現場で僕も去年くらいから変えたんですけど、2年目くらいまではポジショニングについてもすごく細かく言ってたんです。『今の時は、あと半歩こっちの方が良かったんじゃない?』とか。でも、無理なんですよ。だって、同じ局面なんて2度とないわけですから。そこでもう1回、戦ピリの基本に立ち返ってみると、やっぱりシンプルな原則で、判断基準を示し続けるということを言ってるんですよね、結局は前から見ようねとかラインを越えようねとか、今の目的はなんだっけ、前をのぞけないとパスコースがないよねって言うだけで、前がのぞける位置を取るじゃないですか。相手の前に立ったらのぞけないから。シンプルな中で、シンプルな指示をいくつか与えていく中で、判断基準の中で勝手に組み上がっていく方が選手もやりやすそうですしね。フォーメーションの議論にも通じることですけど、複雑なこととか絶対に無理ですから」

吉田「先ほど遼くんが触れていたけど前から見るとかラインを越えようとか、一定の基準がないとパワーの出しどころが分散しちゃうし目も行動もそろわない、それは良くない。だからシンプルな指針(コンセプト)があって、それを基にしながらピッチ上で起こる様々なことへの対応は選手に任せる、というか選手が担う。だからトレーニングでそれらを鍛えるんです」

この後、話はより具体的な現場での指導方法へと進んでいく。その内容は『シン・フォーメーション論』でお確かめください!

Photos: Getty Images

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シン・フォーメーション論吉田達磨対談戦術

Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。