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各チームの攻撃の型を浮き彫りにする数値「プレ・アシスト」を読み解く(前編)

2020.08.09

 ゴールやアシストに目が奪われる一方、たいていの場合はその前のワンプレーを誰が行ったのかは覚えていない。だが、チームの攻撃の型を浮き彫りにするのは、このアシストにつながる1つ前のワンプレー、「プレ・アシスト」だ。

 7月12日付の『キッカー』は、現在サッカー界のデータ収集サイトとして注目を集めている『StatsBomb』が取り上げた「プレ・アシスト」という数値を紹介している。文字通り、得点につながるアシストの1つ前のパスを換算したものだ。このパスが出されたエリアや割合などを割り出すことで、そのチームの攻撃パターンや攻撃の核となる選手を見つけ出すことができる。

攻撃の中心が浮かび上がる

 『StatsBomb』は、プレ・アシストの定義として「アシストをした選手に直接ボールが届くこと」「シュートまで15秒以内」など、細かく条件づけている。

 プレ・アシストした選手自体は、チャンスメークを意図しているものの、そこから先のことまでは確実には予測できない。それが直接アシストになるのか、プレ・アシストになるのか、それともさらに数本のパスが繋がるのか――。

 ペップ・グアルディオラが言うように、ペナルティエリア内の最後のワンプレーは選手のアイディアやクオリティによるところが大きい。

 だからこそ、攻撃の再現性を確認するためには、その1つ手前のワンプレーである「プレ・アシスト」を見ることが有効になる。この数値を見ることで、各チームの攻撃でハブとなる選手、そしてチャンスメークの中心となるエリアが浮かび上がる。

バイエルンを支えたキミッヒとミュラー

 このプレ・アシストは得点につながった場合とは別に、得点にはならなかったものの決定的なチャンスのシュートにつながった攻撃もデータとして表される。このチャンスに繋がるプレ・アシストに注目すると、そのチームの特徴がよりつかみやすくなる。

 今季100得点を決めたバイエルンの場合、決定的なチャンスにつながったプレ・アシストの総数は「372」。ファイナルサードのペナルティエリア手前のエリアで左右、中央と満遍なく「プレ・アシスト」となるパスが繰り出されている。

 さらに、ミドルサード敵陣のセンターサークルから左右のハーフスペースにかけて、同様に多くの「プレ・アシスト」となるパスが出されている。相手を押し込んだ上でCBやボランチから両WGにダイアゴナルな長いボールを入れ、そこからのコンビネーションプレーがチャンスに繋がっているのが見て取れる。

 ダブルボランチの一角を務めたヨシュア・キミッヒ、トップ下のトーマス・ミュラーがそれぞれリーグトップタイとなる44本の「プレ・アシスト」のパスを供給し、チャンスを演出している。バイエルンのチャンスに繋がる「プレ・アシスト」の総数が「372」であることから、チャンスの4分の1を演出したこの2人が、WGの選手やレヴァンドフスキのようなCFのサポート役としていかに機能していたのかが読み取れる。

ハベルツの傑出した数値

 選手個人として、チームの攻撃を牽引した選手としてはレバークーゼンのカイ・ハベルツが突出している。レバークーゼンの総得点は「61」。そのうち12得点6アシスト、さらに得点に繋がるプレ・アシスト「6」も含めれば、チーム総得点の3分の1以上の24得点に絡んだことになる。

 さらに、チャンスに繋がる「プレ・アシスト」数は先のバイエルンの2選手と並ぶ「44」。レバークーゼンのチャンスに繋がる「プレ・アシスト」の総数は271なので、チームのチャンスの6分の1を演出していることがわかる。

 さらに、そこから直接シュートに繋がるパスや、フィニッシャーとしての自分自身のシュートも含めれば、直接チャンスに絡んだ割合はずっと大きくなる。移籍金が100億円とも言われる21歳のドイツの新星の価値が、数値によっても示されているのだ。

 今回は「プレ・アシスト」の定義と、それが実際に何を浮き彫りにするのかを確認した。次回はハノーファーやシャルケの監督を務めたアンドレ・ブライテンライターのコメントを引用しながら、この数値からさまざまな戦い方が読み取れることを紹介する。


Photo: Getty Images

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Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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