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勇敢な消防士たちに敬意を。パリの「チャンピオンの夜」

2019.04.23

ムバッペのハットトリックでPSGがリーグ制覇

 4月21日、パリ・サンジェルマンのリーグ優勝が決まった。

 この夜、モナコに3-1で勝利したPSGは、5試合を残して2位のリールに逆転不能な19ポイント差をつけた。クラブ史上8回目、2011年にカタール陣営が参画してから6度目のタイトルだ。

 この試合では、中足骨を負傷して1月から欠場していたネイマールが12試合ぶり、同じくエディンソン・カバーニも9試合ぶりにピッチに上がり、両アタッカーが不在中に攻撃を牽引したキリアン・ムバッペがハットトリックという、彼らしいヒロイックな活躍で、優勝決定戦を派手に飾った。

 就任1年目でタイトル獲得のノルマを果たしたトーマス・トゥヘル監督は、「このような早い段階で優勝を決められたのは素晴らしい。ポゼッションゲームの質など、細かなところで精度を高めたい点はいくつかあるが、どのポジションも頼れる選手がそろっているから、その部分では変える必要はない」とコメント。

 ムバッペは、「僕はこのクラブのプロジェクトに惹かれてサインした。レアルのことは、ファンとして観戦させてもらうよ」と、レアル・マドリー移籍の噂をチクリと牽制した。

 PSGは27日にレンヌとフランスカップ決勝戦を戦う。リーグ優勝の喜びはいったん置いて、チームはさっそく、フランス杯優勝に照準を切り替えている様子だ。

消防士たちをねぎらったPSGの「粋」

 そしてこの試合では、もうひとつ印象的なイベントがあった。キックオフ前に、パリ市の消防士がセレモニー的キックオフを行ったのだ。

 1週間前の4月15日、パリの象徴であるノートルダム寺院が火災に見舞われるという惨事があった。午後6時すぎに出火したあと、炎はどんどん大きくなって、3時間経ってもまだ燃え続けた。宵の空に上がったその炎は、3km以上離れている筆者の住まいからも見えた。そんな中、100人近い消防士たちが、命がけで消火や歴史的貯蔵物の救済作業にあたり、おかげで数々の貴重な品が救われた。

 その彼らの勇気ある行動を称えての、パルク・デ・プランスでのこのセレモニーマッチでは、選手たちも、PSGだけでなく、モナコ側も、胸元にノートルダム寺院のイラストをあしらったユニフォームで登場した。

 スポンサーの快諾を得て、ロゴの部分に大きくノートルダム寺院、背中の選手名が入るところには「NOTRE-DAME」と入れられたPSGの特別バージョンユニは、この試合の最中に1000枚が1枚100ユーロで限定発売されたが、クラブの公式ツイッターによると30分も経たずに完売したらしい。売上金の全額と、金額は公表していないがクラブからの寄付金を、パリ市の消防関連のチャリティに寄付するという。

 ノートルダム寺院の再建には、翌日から寄付金が続々と集まっているが、消防士さんたちを労う方向に目を向けたところは素晴らしいと思う。

 筆者も3年前、アパートのお隣さんが全焼する大火事を体験した。

 幸いけが人は出なかったが、ほんの25平方mほどのアパートの一室は4時間も燃え続けて、ギレーヌさん宅は屋根も全部吹っ飛んだ。

 その時はちょうどフランスで開催されていたEUROの真っ最中で、資料をめいっぱい書き貯めたパソコンが不安でたまらなかったが、石造りの壁というのは相当火には強いようで、壁ひとつ挟んだだけの我が家にはまったく燃え移らず、すべてが無事だった。

 その時、目の前で懸命に作業する消防士さんたちの姿を見ていたから、以来、特別な思い入れがある。

 なにより感動したのは、轟々と燃えさかる炎を見て不安げにうろつく我われ住人を、目が合うたびに消防士さんが、「我われが助けますから、大丈夫!」と、力強く励ましてくれたことだ。

 一師団だけでは足りず、他の区からも応援を呼ぶくらい事態は逼迫していて、「危ないから下がって!」というような厳しい声が上がってもおかしくない状況だったのに、マスクから出ている目の部分で、常にこちらをいたわるような眼差しをくれた消防士さんたち。

 火はいったんおさまっても、燃えかすから火種がくすぶって再び燃え出す可能性があるとのことで、鎮火したあとも、翌日まで2時間おきに交代で見回りに来て、安全を確認してくれた。火を消す作業だけでなく、鎮火後にいたるまで、不安な住人たちを安心させるメンタルケアまでしてくれた彼らの勇敢さ、尊さは一生忘れない。

 だから今回、人々の関心が寺院の再建のほうに向けられている中で、PSGが消防士さんたちを労い、称える機会を設けてくれたのは本当にうれしかった。

 勇敢な消防士とリーグ王者が彩ったこの試合を、フランスメディアも『チャンピオンの夜』と報じた。

Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

1992年より欧州在住。96年から英国でサッカー取材を始め、F1、自転車、バスケなど他競技にも手を染める。99年以来パリに住まうが実は南米贔屓で、リーグ1のラテンアメリカ化を密かに歓迎しつつ、ブラジル音楽とカポエイラのレッスンにまい進中。