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今なお繰り返される愚行…ブラジルはビニシウスの笑顔を守れるか

2022.10.01

 9月19日から27日まで、ブラジル代表はガーナ、チュニジアと親善試合を戦うためフランス遠征を実施した。そこで、W杯カタール大会に向けた招集枠争いやチームの仕上げといった本来のテーマ以外に、報道陣が取り上げずにはいられない話題があった。

 すでに報道されている通り、9月15日に放送されたスペインのサッカー番組で、スペイン・サッカーエージェント協会のペドロ・ブラボ会長が、ビニシウス・ジュニオールのゴール後の歓喜のダンスついて「対戦相手を尊重し、踊りたいならブラジルのサンバ会場へ行け」と発言した中で、「猿のよう」という言葉を使ったのがきっかけだった。

#BailaViniJr

 ネイマールや他のブラジル代表選手たち、それに代表OBたちが、自身のSNSを使ってビニシウス擁護の声をあげた。

 ブラジルサッカー連盟(CBF)でも、彼がA代表初ゴールを決めて、ネイマールやルーカス・パケタと一緒に歓喜のダンスをした時の映像を、「#BailaViniJr(踊れビニシウスJr)」のハッシュタグとともにSNSに掲載した。

 しかし、9月18日にはラ・リーガのダービーマッチで、アトレティコ・マドリーのサポーターの一部がビニシウスに対して人種差別的チャントを合唱するという事件も続いた。

 ビニシウスは危険なスラムで育ち、食べるにも事欠く貧しい暮らしの中から、類まれな才能とひたむきな努力によって頭角を表してきた選手だ。Rマドリーへ行ってからは技術・戦術的な適応と成長の期間を必要とし、若くして大きな期待と厳しい批判に揉まれながら、ここ1、2年でついに才能を開花させた。そして、クラブでも代表でもゴールを決め、歓喜のダンスを踊れるようになったのだ。

 人生で乗り越えてきたものの大きさからも、簡単にうつむくことはない。彼も自身のSNSで「僕の勝利への意欲、笑顔、目の輝きは、偏見よりももっとずっと大きい」「僕は踊るのをやめない」と宣言した。

22歳の才能を必死に守るCBF

 代表遠征中は、22歳の若き才能の笑顔をCBFやスタッフ、チームメイトたちが全力で守ろうとしているのが感じられた。

 この一連の出来事に関する報道陣の質問に、チッチはビニシウスにメッセージを送る形で答えた。

 「ビニシウス、君がその才能と芸術を、サッカーを愛する人たちに届け続けることを願っているよ。ドリブルをしろ、踊れ、輝け。それがいつでも君の本質であり続けるんだから。君の本質とは、喜び、躍動、そして(ゴールを)祝うことだ」

 そして、報道陣に向けてこう補足した。

 「ダンスが挑発的なものか、喜びを表す美しい振る舞いかは、私には非常によく区別できる。選手たちには今のように、明るいままでいて欲しい」

 同じ22歳のFWアントニーは、いつもの冷静な雰囲気とは違い、強い口調で語っていた。

 「いつでも対戦相手や人々を尊重している。だけど、僕らは僕らの持つ喜びや本質を失ってはいけないんだ。ゴールを決めてダンスで祝うのは僕らブラジル人だけじゃない。なぜブラジル人だけをそういう目で見るのか、なぜネイマールやビニシウスに、歓喜のダンスのせいでイエローカードを出したりするのか、僕には分からない」

 ビニシウスは今回の遠征中、記者会見など報道陣への応対を免除されていた。彼を表に出せば、その関係の質問が集中し、精神的な負担が増すからだろう。

 チーム内では非常に落ち着いている様子で、ネイマールやパケタをはじめ、仲間たちと冗談を言い合う時は満面の笑みだった。チームメイトたちも、少なくとも見える範囲では、気を使ったりするよりも、ごく自然にともに過ごしているようだった。非常に良い雰囲気で結束している様子は、チームの外で帯同している報道陣にも伝わってくる。

トレーニング中、パケタ(右)と談笑するビニシウス。チーム内では落ち着いた様子を見せていた

取り組みを無にする愚行も発生

 今回、ビニシウス自身の得点がなく、彼が歓喜とともに踊る様子を見ることはできなかったが、チームはガーナ戦3-0、チュニジア戦5-1と快勝した。ピッチではいつもと変わらず、ネイマールやパケタ、ハフィーニャがゴール後のダンスを披露していた。

 2試合目のチュニジア戦では、CBFがスポンサーとともに「我われの黒人選手たちがいなければ、このユニフォームに星はなかっただろう」というプラカードを作り、試合前に選手たちがピッチで集合写真を撮った。

 いつもCBFが使う「Somos todos iguais」、つまり「我々はみんな同じだ」または「我われはみんな平等だ」というニュアンスより、かなり踏み込んだ言葉だ。

ネイマールらは普段通り得点後に歓喜のダンスを披露。チュニジア戦では黒人選手たちを称えるバナーを掲出した

 しかし、そのチュニジア戦でリシャーリソンがゴールを決めた時のことだ。選手たちが輪になって歓喜していた中、リシャーリソンに向けてスタンドからバナナが投げ込まれた。ここまでの取り組みを、まさに振り出しに戻すような行為だ。

 リシャーリソンは試合後「自分がその時に気づかなくて良かった。頭が熱くなって、どうなっていたか分からないから」と語っている。CBFとFIFAは調査し、厳しい罰則を適用するために動き始めている。

 ブラジルでは、サポーターが声や身振りによる人種差別的な行為をしたら警察に拘束される。それでも、今も差別は繰り返されている。世界のどこかで、自分の発言に関して「誤解を招いた」などと謝罪する例もそうだ。世界で誰が傷つき、顔を上げようとしても、誰が擁護し、反対を表明しても、サッカーにおける人種差別は終わっていない。


Photos: Lucas Figueiredo/CBF

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チッチネイマールビニシウス・ジュニオールブラジル代表リシャーリソン

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。