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「以前よりもっと強く」。フィリペ・コウチーニョ、大ケガから完全復活へ

2022.02.13

 イングランドからの朗報を、ブラジルメディアが明るい表情で伝えている。今年1月、バルセロナからアストンビラに移籍したフィリペ・コウチーニョが、デビュー戦となった1月15日のマンチェスター・ユナイテッド戦で初ゴールを決め、3試合目の2月9日リーズ戦では1ゴール2アシストと好調なスタートを切っているのだ。

 しかも、ブラジル代表で復活を強く印象付け、大いに沸いたところだ。2月1日の南米予選ブラジルvsパラグアイ戦で好プレーを見せた上、ゴールも決めたことで、国内では彼のFIFAワールドカップ招集の是非について、早くも議論が盛り上がっている。

9カ月にわたる苦悩の日々

 技術力に長け、司令塔としても、セカンドアタッカーとしてもプレーできるコウチーニョは、2010年の初招集を経て、特に2014年のW杯以降はブラジル代表の主力として常に活躍してきた。

 その彼が、バルセロナで出場した2020年12月29日のエイバル戦で左膝を負傷。2度の手術でも完治せず、最後は帰国してブラジル代表のチームドクターであるホドリゴ・ラスマール医師に執刀してもらった。その後も代表スタッフのサポートを受けながらリハビリとフィジカルトレーニングに取り組み、試合からは9カ月も遠ざかった。

 ケガの後、バルセロナで初めてメンバー登録されたのが昨年8月末のヘタフェ戦。10月18日のバレンシア戦でスタメン出場を果たし、シーズン初ゴールを決めた。

 ブラジル代表には、その約半月後、11月の南米予選で復帰。ただ、まだクラブでもコンスタントに出場していたわけではなく、本来のコンディションを取り戻していない中での招集に対して「フライング気味だ」という声もあった。

 それに対し、チッチ代表監督はその招集の意図をこう説明した。「1人の素晴らしい選手が本来のレベルを取り戻そうとしている。コウト(コウチーニョの愛称)は司令塔であり、そのポジションを取り戻すための機会なんだ」

 チームが集合した時、コウチーニョは満面の笑みだった。

 「いつでも代表でプレーし続けるために全力で戦っていた。そしてケガをし、3度の手術を受けた後も、ここへ戻ってくるためにものすごく戦った。初招集のようにうれしい。本当に幸せだ。記者会見は好きじゃないけど、今回はみんなに話したいと自分から広報に申し出たほどだよ」

ブラジル代表の記者会見で笑顔を見せるコウチーニョ(Photo: CBF TV)

右足で待望のゴール

 バルセロナでの復帰直前、自身の新しいSNSに1つの映像をアップした。ケガから治療、ハードなリハビリの日々を記録したもので、そのビデオに「Mais forte do que antes(以前よりもっと強く)」というタイトルを付けた。そのタイトルに込められた思いを聞くと、こう答えてくれた。

 「この1年で僕に起こったこと、僕が過ごしてきたことは、すべてがとても厳しいものだった。確信を持てないことも多かった。だけど必死に努力し、献身して、プレーに戻ることができた。このフレーズ『以前よりもっと強く』は、僕が感じていることそのものなんだ。すべてを乗り越え、僕は以前よりもっと強い気持ちでここに戻ってきたんだから」

 ただ、その11月は“チームに参加した”という状態に終わり、代表での試合復帰は今年に入っての1月27日、アウェイでのエクアドル戦だった。

 実に471日ぶりに立った代表のピッチ。しかし、右SBのエメルソン(トッテナム)が前半早々に退場となったことで、チッチはコウチーニョをダニエウ・アウベス(バルセロナ)に交代させざるを得なくなった。チッチは胸に手を当ててコウチーニョに謝り、ベンチに下がる時には強く抱きしめた。その監督の姿勢が、逆にコウチーニョのこの試合に対する強い思いを表しているようだった。

 そして、その5日後のこと。ホームでのパラグアイ戦で、ついに復活の時を迎えた。FKを蹴った。惜しいシュートもあった。そして、62分に待望の瞬間。ペナルティエリアの外でマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)からのパスを受け、短くドリブルしながら相手DFとGKの位置を見る。そして、大胆に右足を振り抜いた、ビューティフルゴールだった。

 歓喜というより、強い雄叫びを上げたコウチーニョを、チームメイトたちやチッチ、全員が祝った。

パラグアイ戦ではアタッカー陣を牽引し、ゴールも決めた(Photos: Lucas Figueiredo/CBF)

チームの成長にも寄与

 この試合では、チッチが試したかったコウチーニョとルーカス・パケタ(リヨン)の同時起用が機能することも証明した。ダニエウ・アウベスの守備への貢献もあって自由に動いたコウチーニョは、ビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)やパケタへの絶妙なパスを中心に、前方の選手を大いに生かし、チャンスメイクの数とパターンを増やした。そしてブラジルは4-0でこの試合に快勝した。

 試合後、チッチは個人を称えるよりも、攻守の面でバランスが取れたことによって前方の選手が多くのチャンスを生み出すことができたと、チーム全体がうまく機能したことを振り返った。

 アシスタントコーチのセーザル・サンパイオが補足した。

 「我われは攻撃の新しいメカニズムをいくつか開発しているところで、今日も修正しながらプレーし、パフォーマンスは進化した。頭脳のコウチーニョとアクションのパケタという異なるタイプが備わり、チームは非常に成長したと思う」

 自身2度目のW杯出場枠を争うに足る答えをピッチで出したコウチーニョは、11月に見せた満面の笑みとは違い、神妙にこう語った。

 「苦しい時には気力を失うこともあるけれど、家族がいつでも僕を支えてくれたし、ブラジルサッカー連盟は僕の回復に必要なすべての手助けをしてくれた。だから、ゴールは大きな意味を持つ。ただ、今日の試合で僕のメンタリティが変わることはない。成長するために頑張るだけだ。これは毎日続く戦いなんだ。クラブでベストを尽くし、また代表に戻ってきたい」


Photos: Lucas Figueiredo/CBF, CBF TV

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アストンビラコウチーニョチッチバルセロナブラジル代表

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。