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CBFが決断。新型コロナワクチン接種が大前提となったブラジルサッカー界

2022.02.01

 パンデミックのこれまでの流れと同様、ヨーロッパやアメリカなどに遅れて、今、ブラジルでもオミクロン株を中心とする新型コロナウイルス感染者が急増している。12月には1日の新規感染者が全国で2000〜3000人だったのが、1月26日からは1日20万人以上となる日が多く、それ以前の過去最高の感染者数の倍をはるかに超えている。

 ワクチンの既定回数の接種完了者は1月29日時点で70.5%。現在、ブースター接種が強く奨励され、21.9%が接種済みとなっている。

 そんな中、CBF(ブラジルサッカー連盟)が、CBF主催大会に登録される選手と技術スタッフに、新型コロナワクチンの完全接種を義務付けることを決めた。

接種未完了で招集外に

 1月21日に発表された、2022年版の「ブラジルサッカーのための保護措置に関するメディカルガイド」には、「2回接種型の場合は2回目から、1回型の場合はその1回から、14日以上の経過を“完全接種”とする」と記載されている。

 試合ごとに新型コロナの陰性証明とワクチン接種証明書の提出が必要とされ、提出されない場合は、システム上で登録がブロックされる。もちろん、ワクチンが接種できないという医師の診断など、事情がある場合は認められる。

 CBFの医療委員会会長ジョルジ・パグーラ医師によると、これは選手を守るためのものであるという。

 「オミクロン株は感染力が強い上、選手たちはマスクをせずにプレーしなければならない。一方で現時点、新型コロナによる入院患者の大半は、ワクチンを接種していない人々になっている。だから我われにできるのは、重症化を避けるため、全員にワクチン接種を求めることだ」

 FIFA国際マッチデーの最中にある現在、南米ではFIFAワールドカップ予選の2節が行われている。ブラジル代表も1月27日にアウェイでのエクアドル戦に1-1で引き分け、現在はホームでの2月1日パラグアイ戦のために、開催地ベロ・オリゾンテに滞在している。

 1月13日に行われた招集メンバー発表会見でも、ワクチン接種が話題となった。左SBのレナン・ロディ(アトレティコ・マドリー)が、まだ1度しかワクチンを接種していないことによって招集のチャンスを失ったことは、会見後、世界中に報道された通りだ。

レナン・ロディはワクチン接種未完了のため招集を見送られることとなった(Photo: Lucas Figueiredo/CBF)

エクアドルには入国不可

 レナン・ロディはこれまでブラジル代表に19試合招集され、15試合に出場している。ただし、左SBの2枠のうち、W杯招集確実とみられているのはアレックス・サンドロ(ユベントス)で、レナン・ロディはアレックス・テレス(マンチェスター・ユナイテッド)や、東京五輪金メダルに貢献したアラーナ(アトレチコ・ミネイロ)らともう1枠を争っている状況だ。この1月の招集候補に挙がった時は「チャンスが欲しい」とチッチに頼んだらしい。

 ブラジル代表コーディネーターのジュニーニョ・パウリスタは、その招集が見送られたのは「まさにワクチン接種を完了していないことによる」と説明した。

 アウェイゲームの地だったエクアドルは、ワクチンを完全接種していなければ入国できない。

 ホームのブラジルでも、ワクチン接種証明書を提示せずに入国こそできるものの、その場合は14日間の自主隔離が必要となる(入国5日後以降に自主的にPCR検査を受けて陰性であれば、その時点で隔離は終了する)。ワクチン接種が免除されるのは、医師が証明する健康上の理由など、いくつかの条件のいずれかに該当している場合のみだ。

 テニスのノバク・ジョコビッチのオーストラリア入国ビザのキャンセルのこともあり、会見でワクチンについての意見を求められたチッチはこう答えた。

 「私は個人的に、ワクチンは社会的責任だとみなしている。自分自身に対する、そして自分のそばにいる人たちに対する責任だ」

 ただ、レナン・ロディが会話の最後に「ブラジル代表はワクチン接種を義務づけるんですか?」と聞いた際、ブラジル代表アシスタントコーチのセーザル・サンパイオは「それはない。僕らには僕らの意見があるけど、どの選手に対してもワクチン接種を義務付けることはない」と答えたそうだ。

チッチ監督は「ワクチンは社会的責任」と語っている(Photo: Lucas Figueiredo/CBF)

「健康を第一に考える」

 今回のエクアドル遠征では、新型コロナウイルス感染によってジュニーニョ・パウリスタや・サンパイオら4人の技術スタッフが隔離期間を過ごすために不参加となり、チームがブラジルに帰国したところからの合流となった。

 そのために、アンドレー・ジャルジーニ監督を含む3人の東京五輪スタッフが急きょ参加し、サポートしている。

 感染の拡大により、感染予防ガイドラインも厳しくなった。報道陣の現場取材や観客の入場は、11月の南米予選ではワクチンの完全接種証明書の提出のみで認められたが、今回はそれと合わせて感染テストの陰性証明も必要となった。いずれにしても、常にワクチン接種は前提となっている。

 キャプテンのカゼミロは、遠征中の会見でワクチン接種について聞かれ、慎重な姿勢でこう語っていた。

 「僕は専門家の話を聞こうとしている。そして、その分野で仕事をし、研究している人たちが、ワクチンが重要であること、ウイルスはまだ消滅していないと言うのを聞いている。一人ひとりに自分の意見があるけど、僕の意見は、サッカーに限らず、健康を第一に考えるということだ」

記者会見で「健康を第一に考える」と語ったキャプテンのカゼミロ(Photo: CBF TV)


Photos: Lucas Figueiredo/CBF, CBF TV

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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