NEWS

ホイビュルクが語るモウリーニョ、ペップ、そしてバイエルンでの日々

2021.02.20

 ジョゼ・モウリーニョが率いるトッテナムに今季加入したデンマーク代表のピエール・エミール・ホイビュルク。イングランドのプレミアリーグでは全試合フル出場と、モウリーニョから全幅の信頼を得ている。

 昨年12月6日のアーセナル戦後、指揮官は「フィジカルがとても強靭で、技術的にも人々がイメージするよりはるかに優れている。選手の天才性を示すのはプレーの簡潔さなのだが、ホイビュルクがボールを扱う時はすべてのプレーが簡潔だ。私は彼のことを天才的な選手だと思っている」と絶賛した。

選手目線で比較する3人の名将

 この「簡潔さ」をピッチで体現する上で不可欠なのは、試合を読む能力だ。モウリーニョは続ける。「ピエールは特にインテリジェンスに優れている。非常に正確に試合を読むことができる。いつの日か監督になるだろう」

 この能力はどこで培ったのだろうか。ホイビュルクは2月11日の『シュポルトビルト』で説明している。

 「ペップ・グアルディオラが、ピッチ上で試合を正確に分析する方法を教えてくれたんだ。『敵の位置はどこか』『どのスペースが空くのか』『チームメイトを理想的に使うにはどうすべきか』。そういった状況を俯瞰して見る能力、ピッチ上でサッカーを分析する能力は、自分のプレースタイルにはとても重要なものになっている」

バイエルンでペップ(右)から学んだことが、プレースタイルの土台になっているという

 10年前、バルセロナのグアルディオラとインテルやレアル・マドリーを指揮したモウリーニョはライバル関係と見られ、サッカー観も異なると見られていた。その10年後、バイエルンでペップの指導を受けたホイビュルクが、トッテナムでモウリーニョにとって不可欠な“天才的な選手”となったのだ。

 つまり、ホイビュルクの土台となったペップの指導とは、1つのスタイルに適応することではなく、どんなスタイルにも適応できるような分析能力を身に付けることを意味している。そして、これが自分自身の土台となっていることを実感しているのだ。

 そうしてサッカー選手としてのインテリジェンスの基盤を習得すると、サウサンプトンに移籍。そこで4シーズンプレーし、プレミアリーグで活躍するための土台を築いた。とりわけラルフ・ハーゼンヒュットルの下で行ったトレーニングは、プレミアリーグに不可欠な身体面の成長を実感するものだった。

 「身体面での強靭さ、俊敏さや柔軟性、そしてダイナミックさといったフィジカル面に関しては、ハーゼンヒュットルの指導から大きな恩恵を受けている」と振り返る。

 これらの監督を見てきたホイビュルクにとって、モウリーニョの特徴は、特にチームづくりにあるようだ。戦術や分析の細かさ、向上心や野心など、ペップや他の監督たちとの共通点もあるものの、モウリーニョの成功の要因はクラブ全体が「機械のように機能していること」だという。

 「モウリーニョは僕ら一人ひとりから1つの機械を作り上げたんだ。それぞれがお互いに協力し合いながら、歯車ががっちりと噛み合っている機械をね。それは、クラブで働く誰もが感じているはずだ。その一部になることができてうれしいし、誇りに感じている」

バイエルンのDNAが成長を促す

 とはいえ、ペップやハーゼンヒュットルの指導を受けたからといって、成功が約束されたわけではない。成功の要因は、ホイビュルク自身の学習意欲にある。

 モウリーニョは「ピエールはイライラするほど質問をしてくる。『なぜ、チームはこうするのか?』とね。そして、試合になるとピッチ上で正確に試合を読むんだ」とホイビュルクの性格を描写する。この学習意欲や好奇心は、もともとの性格に加え、10代をバイエルンで過ごしたことも影響しているようだ。

 「10代の頃をバイエルンで過ごし、ワールドクラスの選手たちと毎日ハードワークできたことが今に生きている。『過去の栄光は過ぎ去ったこと。大切なのは今ここだけだ』ということを学んだよ。バイエルンでは世界王者やUEFAチャンピオンズリーグ王者もたくさんいたのに、彼らは昔のことなんか忘れて、次の試合に勝つことだけを考えている。バイエルンで学んだメンタリティは、その後の僕の人生を形作っている。バイエルンは“王者のための学校”なんだ」

 10代の時にバイエルンで王者のメンタリティを学んだホイビュルクは、今年で26歳になる。飽くことのない学習意欲や好奇心を武器に、着実にワールドクラスへの階段を上っている。


Photos: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

ジョゼ・モウリーニョトッテナムバイエルンピエール・エミール・ホイベルクペップ・グアルディオラ

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

RANKING