SPECIAL

キケ・セティエン。バルセロナ新指揮官の信念は“ボールと共に生きる”

2018.05.30

私にとって最も重要なのはボールだ。これに関して譲渡の余地はゼロだ


Interview with
QUIQUE SETIÉN
キケ・セティエン
(ベティス監督)


2020年1月13日、エルネスト・バルベルデ監督の解任を発表したバルセロナ。確たるスタイルを有する名門が新指揮官に指名したのは、キケ・セティエンだった。
ビッグクラブでの指揮経験皆無の61歳に白羽の矢が立ったのはなぜか。その理由は、彼が信奉するプレースタイルにある。

0-0よりも4-4を選ぶ。ショーというのはこのスポーツの重要な構成要素だ」

クライフの志を継ぎ、フィジカルサッカー全盛の今もボールと共に生きている指揮官の信念を、2017年11月収録のインタビューから感じてほしい。
※経歴等はインタビュー当時のもの


攻撃のフィロソフィ

私を監督にする意味をわかっているのか、と前もって確認した


──『フットボリスタ』(17年9月号の17-18欧州展望)をご覧になってどうですか?

「(監督と戦術紹介のページをめくりながら)日本の雑誌が監督の仕事について説明しようとしているのはとても興味深いね」


── まあ時どきはロナウドやメッシも出てくるんですが……。

「それはしょうがないよ。彼らがサッカーの本当の主役なんだから。ただ、監督の仕事はあまりよく説明され理解されているとは言えない。一般的には監督の仕事は結果で裁かれる。だけど、敗れたとしても監督の良い仕事というのは存在するからね」


── まずはチームの現状から聞かせてください。リーグ戦11試合を終え5勝2分4敗で8位。この成績についてはどう思いますか?

「そうだな。一般的には良くやれている。我われへの正当な評価だと思う。プレー内容にふさわしくない結果を得た試合もあった。例えばヘタフェ戦だ(第11節/2-2)。相手にチャンスを作られた時間帯が長かったし、焦って思うようなプレーもできなかった。2点先取されてから彼らには3点目を取るチャンスがあり、我われは2点を返し最後は引き分けることができた」


── つまり、あなたにとっては結果よりも内容が重要だということですか?

「その通り。私にとっては結果よりもチームから伝わってくる印象の方がはるかに大事だ」


──「はるかに」ですか?

「そうだ。君が良い仕事をすればチームからは良い印象が伝わってくる。そうすれば最終的には敗北よりも多くの勝利をもたらすのは必然だ。もちろん良い仕事をしチームが良いプレーをしても負けることもあるが、普通はポジティブな成績に繋がるものだ。結果とチームのプレー内容は分けて評価するべきで、混同すべきではない」


── 20得点は上から6番目、21失点は下から5番目です。この数字についてはどう思いますか?

「2つの面から評価することができる。1つは、前がかりで攻撃面を重視する大胆なチームであるということ。多くの得点は多くの失点をもたらす。両者には相関関係がある。大量得点と少ない失点を両立できるチームはごくわずかだ。我われの今の改善点はここにある。相手ゴール前でのレベルを維持しながら、いかに味方ゴール前で堅守でいられるか。この点を一番心配し改善に最も力を注いでもいる。結局はチームの攻守バランスを向上できるかだ」


── ということは、得点を減らす代わりに失点を減らすというのは、あなたにとっては駄目だということですか?

「駄目だ」


── 駄目ですか。それでOKだという監督もいますけど。

「知っているよ。だけど私は0-0よりも4-4を選ぶ。ショーというのはこのスポーツの重要な構成要素だと思う。選手にとっても失点ゼロを目指して味方ゴール前に常に張り付いて守備をし続けるよりも、前へ向かってプレー、つまり攻撃する方がはるかに楽しい。我われはボールを持つことで、ポゼッションの時間を長くすることで守備をしたいと考えている。君がボールを持っている間は相手はゴールを決めることはできない。この原則は誰も否定できない。君が80分間ボールを持ち続けられれば相手の攻撃オプションは極めて限定される。ただ、我われはまだそれほど長い時間ボールを支配できていないのが現実だ。改善点は多いが時間が足りていない。選手たちの頭にあるプレーコンセプトも変えなくてはいけない。これまで違うコンセプトでプレーしてきた彼らに別のことを要求しなくてはならない。例えば、我われにとって守備とは前に出ることだが、選手たちは守備とは背走することだと思っている。今までボールロスト後にリトリートしていた彼らに、今は前に出てプレスをかけろと言っている。こういう変化を吸収するには時間がかかる」


── その選手たちですが、新しいフィロソフィの吸収具合はいかがですか?

「まだその途中だ。変化に対して意欲的に臨んでいても、いざ実戦となると今までやってきた癖が出てしまう。前へ出ろと言っているのに習慣でリトリートしてしまう。長年やってきたことと真逆のことを要求されているのだから大変なのは当然。ビデオを見せて練習を重ねて修正しようとはしているのだけどね。時間はかかるし修正点は多いが満足している」


── あなたを招へいしたベティスも当然あなたのフィロソフィに同意していないといけませんね。

「もちろんだ。私を監督にすることはどういう意味なのかわかっているのか、と前もって確認した。さらに私はチームを調べ上げて、私のフィロソフィ、未知の哲学に適応するのに苦労するだろう選手が少なくなく、『もっと保守的なアイディアの持ち主の監督の方が向いている』とまで進言した。だが、クラブは変化の必要性と十分な時間を与えることを約束してくれた。だから合意できたんだ」


―― つまり、あなたは選手よりまずプレー哲学ありき、という考え方なんですね。

「その通りだ」


── まず選手ありき、という監督もいますけど……。

「物事の順番として、最初にクラブが歴史や地域性に基づいたアイディアを確立しなくてはいけない。そのアイディアに沿って何をしたいのかを決める。前へ向かってプレーするのか、それとも守備を固めてカウンターに出るのか。その次に適した監督を探す。監督交代を繰り返していては一つのアイディアは決して定着しない。監督が変わるとフィロソフィが変わり選手が代わる。これでは未来に向け安定した基盤を作ることはできない。新しい監督が来て新しい考え方を導入しクラブもファンも満足している限り、それは何か継続したものになる可能性がある。だからもし、今後私が私の哲学に沿った選手を連れて来られるようになった後、チームが不振に陥って監督を交代するとしたら、理想的なのは私と似た後継者を選んでアイディアと選手を維持すること。そうしないとせっかくの選手への投資が、次の監督の考え方に合わないという理由で無駄になりかねない」


── しかし、現実にはパスサッカーが通用しないと、より保守的な監督を連れて来る、というのが当たり前になっています。

「残念ながらその通りだ。私は選手時代を含めるとサッカーに40年ちょっと関わって、いろんなクラブ、監督、選手と接してきた。アイディアを維持するのが難しいのは実感している。プレースタイルに対する確信が足りないんだ。君が監督として選手としての私を獲得した後に、君とまったく正反対の考え方の監督が後継者になったとする。私は信じていないプレーをしないといけなくなるよね。例えばバルセロナは監督を代えてもアイディアは維持してきた。それぞれの監督はニュアンスを付け加えていっただけで、根本的な大転換というのはなかった。大胆な監督と保守的な監督を交互に起用する愚は改めるべきだ」


── それはつまり、あなたはプレースタイルだけではなく、ベティスというクラブの哲学を変える責任を負っているという意味でしょうか?

「責任を課されたのではなく、私自身がクラブに複数年契約(3年契約)を要求した。なぜなら過去10年間別のことをやってきたクラブをわずか1年で変えることなどできないからだ。選手のことだって全員をすべて把握しているわけではない。誰が適応でき誰が適応できないかを君は事前に知ることはできない。クラブは私の提案に同意してくれた。新しいアイディアの幕開けとしては良いスタートが切れたと思っている」


GKアダンとの約束

ミスの責任は私が持つ。批判に対しては私が受けて立ち君を守る


── しかし、そのフィロソフィのせいで例えばGKのアダンの責任ははるかに重くなり、ボール出しのミスで失点したビジャレアル戦(第3節。アダンがボールをさらわれ失点し3-1で敗れる)のようなことも起きます。

「そうだよ。だから時間が必要なんだ。アダンは偉大なGKだが、私が来るまで足を使ったプレーの練習をしたことがなく、私が彼に要求することを他の監督たちに要求されたこともなかった。アダンにも他の選手にも私が要求したことを意欲的にやってくれ、と言っている。つまり彼らのミスの責任は私が持つということだ。アダンの責任ではない。私がそうするよう要求したのだから。そうでないと選手にライオンをけしかけるようなものだろ? ミスした時だけは選手の責任? とんでもない! 私はアダンを信頼し、こう言ったんだ。『君に要求していることを軽く受け止めないでほしい。それらは君と私との約束であり、君をより良い選手にするものだ。君のプレースタイルに新しいスタイルを加えることで君はより良いGKになれる。確かにミスをすることもあるだろう。だが、その責任は私が持つ。メディアやファンの批判に対しては私が受けて立ち君を守る。私の責任だと言う。さらに、君の責任が重過ぎないよういくつかの条件を用意する。なぜなら、多くの場合(GKのボール出しの)ミスの原因は君にあるのではなく、チームメイトがボールもらいに行かなかったことにあるからだ。君には意欲を持ち続けてもらいたい。これは短期間で達成できるものではなく少しずつ良くなっていくものだから』。今アダンは誰もできると思っていなかったことができる、素晴らしいGKになろうとしている。“馬鹿げたゴール”なんて呼ばれた失点を受け入れるのは、選手たちにとっては苦い経験だったろう。だが、ボール出しがうまくいき得られたメリットの方がはるかに大きい。成功した時にはあまり評価されないものだが、私は評価している」


── 選手はボールを持つのが大好きですか?

「当たり前だよ。ボールが好きだから彼らは選手になったのだから。ボールの後ろを追いかけるためにサッカーを始めた者はいない。校庭では全員がボールを欲しがるものだ。そういう選手へ動き方を指示したり役割を与えることで、監督が彼らの意欲を奪ってしまう。君が監督としてやって来て最初に選手にボールを与えたら彼らは間違いなく喜ぶよ。確かにボールをすべての時間持ち続けることは不可能なのだから守備練習は必要だ。しかし、彼らに(ボール抜きで)走る必要性を説得したかったら、まずはボールを渡すことだ。常にボールを追いかけ、寄せを繰り返し、ファウルをし続けて選手が4回しかボールを触れないチームがあることは知っている。しかし、そういうサッカーは結局、選手を欲求不満にしてしまう。だって走るだけで大好きなボールを持たされないのだから。私にとって最も重要なのはボールだ。これに関して譲渡の余地はゼロだ」


── あなたのフィロソフィには譲れないものがいくつかあります。まずはボール、[4-3-3]システムもそうでしょうか?

「システムはさほど重要ではない。なぜなら相手の出方に応じて、選手たちは試合中常にシステムを変え続けていくものだからだ。確かに私のコンセプトでは中盤に1列下がった選手がいて、彼がピボーテ(ボランチ)としてターンをし、ボールを散らすチームを組織する役目を担っている」


── ハビ・ガルシアのポジションですね。

「そうだ。非常に重要な役目を担っている。その前に2人のMFがいて、彼らは常にボールの前にポジショニングしなければならない。彼ら3人、つまり中盤の重要性は否定しないが、そのゾーンにいる選手が2人になる時もあるし、前に1人後ろに2人の並びになる時もあるし、ウインガーが中に入ってくることもあるし、SBが前に出て同じラインに並ぶこともある。システムというのは本来流動的で1つに定義できないものなのだ。それよりも重要なのは状況に応じたポジショニングができること。正しく状況を把握し最適な瞬間に最適な場所にいることだ。システムは重要ではない。選手のポジショニングへの理解が重要なのだ」


── 後ろからのボール出しも譲れませんか?

「私は選手に自由を与える。どの程度前からプレスをかけてくるか対戦相手を研究し、どこにフリーの選手を置きプレスをかわしてボールを出すかを練習でリハーサルしていく。ただし、後ろからのボール出しのようなアクションは、どこまでリスクを負うのかという問題なので、実戦では選手の精神状態に大きく左右される。それは個々の自信のレベル、チームとしての能力レベルによって異なるし、相手のプレスの強度という問題もある。リスクを負って前からプレスをかけてくる相手もある」


── あなたのベティスのように、ですね。

「そうだ。こうした様々な条件によって君は選手に決断させるしかない。ある状況でロングボールを蹴らざるを得ないと彼らが判断する」


── それでOKですか?

「それでOKだ。選手は後ろからショートパスを繋いでボールを出すことの重要性を承知している。いつもロングボールを蹴るような選手を私は起用しないが、状況を見誤ったせいで(1試合で)1、2度ロングボールを蹴ってしまうのはまったく問題ない」


── なるほど。今季の最高のゲームというのはどの試合ですか?

「私が完全に満足した試合は1つもない」


── そうなんですか? サンティアゴ・ベルナベウでの歴史的勝利(第5節レアル・マドリー戦の0-1)ですら?

「サンティアゴ・ベルナベウでは良い時間帯もあった。だが、相手は偉大なチームだから、私たちがやりたいことをやらせてくれないのは承知しているが、失点のピンチが多過ぎた。ピンチが多いと私は満足できない。選手がナーバスになりイージーなミスを繰り返す時間帯がなければ、ボールはもっと持てた(40%)はずだ。結果には満足しているが、全体を通じた内容には満足していない。我われのコンセプトとしてはレバンテ戦(第6節/4-0)の方が満足度が高かった。レバンテはカウンターが危険なチームでそれまで無敗。前半我われは辛抱強くボールを扱い、リスクを負うことなく相手を疲れさせることができた。後半相手の疲労が溜まり、前半にはなかったスペースを見つけることができた。加速すべき時は加速しフィニッシュも正確だった」


結果を望むファンとの関係

選手を説得するのと、ファンを説得するのは同じだよ


── ファンについての話をしましょう。ベティコたちはあなたのフィロソフィを受け入れたと思いますか?

「全員ではない。たくさんいるからね。人生だってそうだろ? 伝統的にベティスファンはクオリティの高い選手の個人技を歓迎する傾向があるんだけどね。例えばバックパスをすることは時間の無駄ではない。だが、どんな形ででもペナルティエリアにボールを蹴り込んだ方が良い、と考える者たちはいる。時間をかけて説明していきたいと思う。バックパスは逆サイドにスペースを作る手段なのだと。ファンは少しずつそういったことを理解し受け入れ始めてはいる。バックパスをしてボールを持ち続ければ相手チームにチャンスを作られないということがわかれば、彼らも楽しめるのだと思う。選手を説得するのと、ファンを説得するのは同じだよ」


── ただ、ファンが本当に大好きなのは結果の方ですよね?

「もちろんだ。私の監督生命が結果次第なのはわかっている。どんなに良いプレーをしても勝てなければファンは満足せず、私は出て行く運命だ。だが、それはなるべく考えないようにしている。私がやりたいことはすでにはっきりしている。スタイルを変え続けていくわけにはいかない。守備的なやり方をしても結果が出なければ結局は出て行かなくてはならず、ファンだって満足しないのは同じだ。こんな私でもこれまでうまくやってきた。選手時代から私はボールを欲しがった。仲間がロングボールを蹴ったり、私の足下にボールをよこさないと腹を立てたものだった。これが私のアイディア、フィロソフィ、プレーの解釈というものであり、私の仕事はそれを選手に伝えることだ。別のコンセプトを求めるなら別の監督を連れて来れば良い」


── あなたもご存じの通り、ここのファンは情熱的で拍手からブーイングまであっという間に変わりますよ。

「理解してくれていると思うよ。特に能力を存分に発揮している選手がいることは見てくれているんじゃないかな。例えばホアキンだ。クオリティの高い選手だけど、ここ数年は今ほど鋭いプレーはできていなかった。36歳になってサッカーを楽しんでいるのが伝わってくる。選手と話せばわかるが、新加入の選手も長くいる選手もほとんどが満足している」


クライフサッカーの衝撃

何が起こっているんだ? どうすればこんなプレーができるんだ?


── どうやってあなたのフィロソフィを身に付けたのですか?

「私にとってサッカーとは常にボールとともにあるものだった。プレーし始めた時は9番だったが、得点よりもパスを出す方が好きだった。キラーではなかった。トップ下のようにボールをもらい、そして出すことが好きだった。ロングボールを使う監督の時は、よくボールをもらいに中盤まで下がっていた。その後ポジションを下げてMFとなり、思う存分ボールを触れるようになった。そういう好みが根本にあって、その後クライフのバルセロナやアヤックスのような“サッカーをする”チームに注目するようになり、彼らと対戦した時に気が付いた。全然ボールに触れないじゃないか、と。ボールを追いかけてもすぐパスを出されてしまう。何が起こっているんだ? どうすればこんなプレーができるんだ? と疑問を持ち、私もこういうスタイルが好きだし実践したいと学び始めた。私は自分のニュアンスを付け加えてはいるが、大元のアイディアは監督クライフのバルセロナのものだ」


── でも、それはクライフの下でプレーした経験によるものではなく、対戦した経験によるものなのですね。

「バルセロナと対戦した時は90分間のうち80分間は相手ボールで走り回らされるだけだった。28歳の時のこの経験から勉強と分析を始め、少しずつ監督の道へ入って行った」


── あなたはチェスが趣味ですよね。戦術的に言ってサッカーとは共通点があるものでしょうか?

「ないことはない。私はサッカーでは中盤を最重視するが、チェスのプレーヤーにとっても盤の中央というのは最も大事なところだ。中央を支配すれば盤のどこへでも行けるし、駒も組み合わせやすい。中盤の選手というのはプレーを読みやすく、周りを使いやすい。ボールの行き来が一番激しい中盤にこそ最高の選手を起用しなければならない」


── ベティスの目標は何ですか?

「私は目標を立てない。特に今は新しい監督の下で新しい選手もたくさん入って来た。他の多くのチームも刷新された。どんなチームと競い合うことになるのかはまだわからない。11節を終えて、自分たちが大体どのくらい戦えそうかという展望が開けてきてはいるが。あえて言えば、目標は順位表の上で快適な位置にいることだが、最優先課題はさっきも言ったようにアイディアを植え付け、それを定着させて選手たちを成長させ、誰を来季以降も継続させるか、どんな選手を新たに獲得しなければならないかを見極めること。その上で、残り8節ほどになって欧州カップ戦の出場権を争える状況にいれば、それに越したことはない。だが、今は欧州カップ戦出場権獲得なんて目標にはできない。我われのサッカーには改善の余地が大いにあるし、負傷者だって出るだろうから、どこまで戦えるか私にもまだわからないからね」


── では、あなた個人の目標は何でしょう? それこそバルセロナの監督をしてみたいとか、スペイン代表を指揮したいとか……。

「いや、私はそんなことは心配していないよ。私の目標は常に今いるチームを良くすること。ベティスを去る時はみんなに良い思い出を残すことだ。それで十分だよ。バルセロナやレアル・マドリーの監督をしたいなんて思わない」


── でも、あなたのフィロソフィに適したチームですよ。

「関係ないね。どこでもやることは同じだから。選手のクオリティは高いかもしれないが、その分要求水準も高くなるのだから。私の目標はチームに良いプレーをさせることと、求められるクラブにずっといることだ。クラブが私のやりたいことを理解し安定して一緒に働けるならこのクラブに一生いてもいい。ラス・パルマスの監督に就任する前、2部Bのルーゴの監督だった時、毎年必ずより良い年俸でカテゴリーが上のクラブからオファーが届いたが、私は出て行かなかった。6年目が終わって出て行ったのはクラブのオーナーが変わったから。ルーゴが少しずつ成長するプロジェクトの方が他のクラブへ行くよりも私にはずっと魅力的だった。私は幸せだった。とはいえ、私が野心的でないわけではないよ。チームに良いプレーをさせるというのは十分に大きな野心だ。監督仲間たちがやって来て『君のチームはなんて良いプレーをするんだ!』と言われたり、相手チームの選手に『良いプレーをするね。見ていて楽しいよ』なんて褒められたりするのが一番うれしいよ」


── ということは、あなたの言う「良いプレー」とはバルセロナのような質の高いチームによって実現可能な一種の“贅沢”ではない、ということですね。

「違う。私は私の選手に満足しており、彼らに良いプレーをさせたい。私の考えを彼らに植え付けて、グラウンドで実現させたい。それで選手たちも満足であれば良い。確かに技術面でより優れている選手というのはいるが、私が彼らを改善する余地は常にある。バルセロナの選手のレベルに達することはないかもしれない。メッシやロナウドが私のチームにいることはないかもしれない。だが、チームに良いプレーをさせるのが私の最高の喜びなんだ」


── 後半戦最初のバルセロナ戦でもあなたのベティスはボールを奪いに行きますよね?

「そうするつもりだ。我われは相手によってスタイルを変えない。ただ、バルセロナは私のチームに戦い方を変えることを強制する、リーガで唯一のチームかもしれない。彼らは我われより上で、我われからボールを奪ってしまうから。同じアイディアでずっとやっているバルセロナから、3カ月しかやっていない我われがボールを取り上げることは難しい。でも他のチームからはどこへ行ってもボールを奪いに行くよ。それで十分だ」


── 日本のファンはスペクタクルを好みパスサッカーが大好きです。彼らも後半戦のベティスに注目しています。今日は長い間ありがとうございました。


Enrique “Quique” SETIÉN Solar
エンリケ “キケ” セティエン・ソラール

(ベティス監督)
1958.9.27(59歳) SPAIN

カンタブリア州サンタンデール生まれ。選手としては1977年に地元のラシンでMFとしてデビューし、アトレティコ・マドリー、ログロニェス、レバンテでプレーし、1996年に引退。キャリア通算518試合95得点。2001年に故郷のラシンで指導者の道へ進むと、ポリ・エヒド、赤道ギニア代表監督を歴任し、07年に古巣ログロニェスを率いた。07-08途中で解任されるも、1年半の休養を挟んだ09年に当時3部のルーゴ監督の座に就く。10-11はリーグ首位になるも昇格プレーオフで敗退、続く11-12に20年ぶりの2部昇格に導く。その手腕が評価され、15年に当時降格圏にいたラス・パルマスを指揮し10位フィニッシュし名声を高め、今シーズンからベティスの監督に就任した。

COACHING CAREER
2001-02 Racing
2003   Polidepor tivo Ejido
2006   Equatorial Guinea National Team
2007-08 Logroñés
2009-15 Lugo
2015-17 Las Palmas
2017-  Betis


Photos: Fernando Russo

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キケ・セティエンリーガエスパニョーラ

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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