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長距離パスを活かせる新機軸も… 「その先」が見えないアーセナルの現状

2019.11.28

注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術

欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。

#9_アーセナル

 アーセン・ベンゲル退任から1年。ウナイ・エメリのアーセナルは「試行錯誤の真っ最中」である。彼がもたらした大きな変化の一つは、攻撃におけるCBの役割だ。CBがペナルティエリア横まで開いて行うビルドアップはベンゲル時代に見られなかった手法で、現代的にシフトしたとも言える。しかし、悩みも多いのが現状だ。大きく開いたCBを使って低い位置からの組み立てに取り組んだのはいいが、CBが持ってから先のイメージをチーム全体に落とし込めていない。結局、ビルドアップはマテオ・ゲンドゥージら創造性のある選手の閃きに頼りがちで即興の要素が大きいのである。

 最終ラインからの組み立てに多大な貢献をしてきたローラン・コシエルニーが昨季で退団。他のCBたちは足下に優れているとは言えず、新しい仕組みの中で本領を発揮できずにいた。そこで期待を背負うのが、今夏に加入したダビド・ルイスだ。チェルシー時代は長いボールを前線に送る役割を一手に引き受けていた。展開力に長けた人材がいないCB陣では貴重な存在である。

 だが一方で問題が先送りとなっているのが肝心の守備の部分。今季主戦のダビド・ルイスとソクラティスはともに対人守備においては能力を発揮しているが、スペースのリスク管理は得意ではない。MF陣も前からプレスに行くアーセナルにとって、不用意な飛び込みはアキレス腱になりかねない。

 2人の持ち味の重なりを考えれば、CBの組み合わせには一考の余地がある。サポーターが待ちわびているのはロブ・ホールディングの帰還だ。昨季は12月に大ケガを負うまで高い危機察知能力を駆使してMVP級の活躍。縦パスの供給能力も高く「エメリ最大の発見」とも言われた。9月下旬のリーグカップ戦でようやく復帰を果たした彼に懸かる期待は大きい。レンタルバックしたカラム・チェンバーズ、来夏加入する有望株ウィリアン・サリバなど他にも今後の活躍が見込める選手はいる中、エメリは早く最適なCBコンビを見つけたいだろう。

 ただ、今季の失点を振り返ると、CBをめぐる課題は組み合わせだけではない。注目したいのはアストンビラ戦(9月22日/○3-2)の2失点目。その発端は、退場者を出したチームで右SBに入ったチェンバーズがダビド・ルイスからロングフィードを受けた際に孤立し、ロストしたことだった。すなわち、CBから長いボールを受けた選手をフォローするチームとしての仕組みができていないのである。この試合では10人だったという言い訳もできるが、ビルドアップでの各選手の立ち位置の工夫や、守備陣を楽にする前線のプレスの整備が見られないのはどの試合も共通だ。アーセナルのCBは個人のミスが多いと言われるが、CBに過度な負荷を強いていることに起因する失点も多い。CBの負担を減らす仕組み作りもエメリに課された大きな仕事である。

トレーニング中のキーラン・ティアニーとロブ・ホールディング
11月27日のトレーニングでキーラン・ティアニー(左)とボールを蹴るホールディング。復帰後、ここまでトップチームで6試合に出場。コンディションを上げポジション争いに割って入れるか


Photo: Getty Images

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アーセナルウナイ・エメリダビド・ルイス

Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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