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フェルナンジーニョのCB起用から考えるグアルディオラのCB像

2019.11.22

注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術

欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。

#1_マンチェスター・シティ

 CBというポジションは、ここ10年で最も求められる役割が変化したポジションと言える(これからの10年ではGKが最も変化を強いられるだろう)。今ではクラブの規模にかかわらず、ビルドアップへの参加や広いスペースを守備することが当たり前に求められるようになったため、CBにはボールコントロールやプレービジョン、スピードなどといった要素がこれまでの比にはならないほど要求されるようになっている。言うまでもなく、その火付け役が2008年にバルセロナの監督に就任して以来、世界中のサッカー界にパラダイムシフトを起こし続けるペップ・グアルディオラであることに異論はないだろう。今季のマンチェスター・シティでも、CBの補強を見送った中でラポルトの長期離脱(来年初頭に復帰予定)にストーンズの負傷再発が重なったことがきっかけとなり、ほとんどの試合においてフェルナンジーニョがCBを務めている。古典的なパラダイムに則っていては、ペップがよく行うこのような起用方法についてはおそらく理解できない。ペップのサッカーにおけるCB(やSB)と立ち位置というものを、今一度考えてみよう。

ペップ(右)の下、CBとして新境地を開拓しているフェルナンジーニョ

 ペップの追求するサッカーの方法論、ここ数年ではポジショナルプレーと呼ばれる哲学の大きな特徴に、❶チーム全体のポジショニング、あるいは「配置」を重視し、❷局面で作った「優位性」をチーム全体として保存、活用しながらプレーすることが挙げられる。

 まず、DFラインから「優位性」を生み出すことができなければ、中盤や前線は常に方向=選択肢を限定された状況でボールを受け取ることになるので、大抵の場合ビルドアップの成功率は大きく減少してしまう。よって、DFラインから優位性を確保するための高いパス出しのスキルや運ぶドリブルのスキルは当たり前に求められる。

 さらには、ポジショナルプレーにおいてはチーム全体が適切な配置を取るために、各スペースに必要十分な人数を配置していかなければならない。中でも、幅と深みを取るためのウイング、ボール循環の中心となるアンカー、広げたスペースを効果的に攻略するための各サイドのライン間に位置するインサイドMFのポジションは、ペップのサッカーにおいて絶対に「空席」は許されないポジションである。

 CBやSBのビルドアップ能力やポジショニングの感度が低い場合、中盤の選手はビルドアップのサポートのためにポジションを下げなければならず、その結果、本来必要なポジションに選手を配置できないということが起こってしまう。そこでCBやSBに求められるのは、各状況において柔軟にポジショニングを調整し、相手の1stラインを突破するための必要十分な配置を取ることである。

“偽CB”や“偽SB”の狙い

 CBの選手の取るべきポジションについて簡単に触れると、まず方向を限定されず、複数の選択肢を確保するために、相手の1stラインの配置と噛み合わないポジションを取る必要がある(特に相手のプレッシャーラインと近い場合)。さらに、別のCBやSB、降りて来た中盤の選手などが最終ラインでフリーになった時には、状況に応じてポジションを上げ、相手の1stラインを突破することも求められる。また、配置される選手のキャラクターや味方同士の相互作用によっては、必要十分な配置を取るために相手のブロックの中に侵入していく動きすら求められることがある。いわゆる“偽CB”や“偽SB”と呼ばれるような動きだ。

 このように、ペップのサッカーでは常に味方との相互作用の中で変化していく「最適なポジション」を全員が取る必要がある。そのため、旧来のパラダイムにおいては本来のポジションから逸脱したと言えるようなプレーエリアでのプレーを当然のこととして求められるので、ペップは複数のエリアでプレー可能な選手を好む。

 CB以外で代表的なのはダニエウ・アウベス、ペドロ、ビージャメッシ、アラバ、ラーム、ジンチェンコ、デ・ブルイネ、ベルナルド・シルバなど、例を挙げればキリがない。同様にCBに求められるのも、いわゆるCB的な選手というよりは、カウンター対応のためのスピードとビルドアップ能力を兼ね備えた、「守備力もあるSB」や「潰せるアンカー」といったタイプの選手が非常に多い。アビダル、ブスケッツ、マスチェラーノ、アラバ、キミッヒシャビ・アロンソ、そしてフェルナンジーニョなど、実際ペップがCBで起用した選手たちを見てみるとその傾向は一目瞭然だ。

ペップにCBとして起用されたマスチェラーノ(左)とブスケッツ。前者は完全にCBへコンバートされ、バルセロナとアルゼンチン代表の守備の柱に変貌を遂げた

 このように、一見すると「なぜ本職のCBでない選手をこれだけCBとして起用しているのか」、「それでいてなぜ守れてしまうのか」と疑問に感じてしまうが、実際には攻撃の方法、守備の方法、そしてそれぞれの接続を考えた時にこのようなタイプの選手が適しているというだけの話なのだ。おそらくシティのサッカーで、CBにジョン・テリーのようなタイプの選手を起用したところで、うまく機能しない可能性が高いことは容易に想像できる。戦術が非常に進化し、細分化された現代サッカーにおいて、そのポジションに求められる選手像というのはゲームモデルに強く依存するようになった一方で、よりユニバーサルな能力を備えた選手の需要は今後も高まり続けていくだろう。


Photos: Getty Images

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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