サッカーをつまらなくしているのは我われ視聴者?コンテンツ過多とスマホ依存の先で問われること
[特集]現代サッカーは本当につまらなくなったのか――インテンシティと最適化が奪った“余白”の正体#6
「最近のサッカーはつまらない」
そんな声を耳にすることが増えた。だが、それは本当にサッカーの問題なのだろうか。それとも、我々の見方が変わっていないだけなのだろうか。かつてより速く、強く、正確になった現代サッカー。その一方で、「どこか似ている」「息つく間がない」「何かが足りない」と感じる瞬間はないだろうか。インテンシティの向上、戦術の最適化、リスク管理の徹底。勝利を追求した結果として洗練されていくゲームは、同時に“余白”を削ぎ落としてきたのかもしれない。では、その“余白”とは何だったのか。それは本当に失われたのか、それとも形を変えただけなのか。現代サッカーは本当につまらなくなったのか。本特集では、その感覚の正体を多角的に解き明かしていく。
第6回では、サッカーをつまらなくしているのは一体誰なのか?その真犯人を、X(旧Twitter)からの論客であるtkq氏が炙り出していく。
最近のサッカーはつまらなくなった……。わしが若い頃に見ていたサッカーはもっとおおらかで元気と艶があって、一握りの天才たちが思うがままにその才能を発揮してピッチの余白に芸術を描き、舌に乗せれば即座に旨味だけを残してしゃっきりぽんととろけていく、そんな素晴らしいものじゃったのだよ……。
サッカー観戦をしていると、こんな懐古主義の人に出会うことはないでしょうか。いや、サッカーだけではありません。「スピルバーグ全盛期のほうが映画は面白かった」「村上春樹に比べたら今の小説はつまらない」「全盛期のイチローはガッツポーズするだけで点が入った」「中国は唐時代が一番アツい」などなど、各界隈にこのような昔を懐かしむ声が聞こえてきます。
昔通っていたスポーツバーでサッカーを見ていた常連のおじさんがいたのですが、このタイプでした。腕組みをしながらサッカーをつまらなそうに眺めていて、「どこのチームが好きなんですか?」と聞いたら「どこも好きじゃない、今のサッカーは何もかも面白くない」と言いながら、苦虫を噛み潰したような顔で画面を眺めていました。それでも毎週通っていたのは、もはや執念としか言いようがありません。
しかし、昔のサッカーは本当に面白かったのでしょうか? 実際に確かめてみようじゃありませんか。
まるでスローモーション映像?今見るとマラドーナ全盛期も…
FIFAの公式配信サービス『FIFA+』では過去のW杯の試合を見れます。いい時代になりました。例えば、「神の手」「5人抜き」で有名な1986年メキシコW杯準々決勝アルゼンチン対イングランド(2-2/PK4-3)。当時世界最高の選手だったディエゴ・マラドーナの全盛期が蘇ります(公式配信リンク)。
あるいは、1994年アメリカW杯グループステージ第1節のコロンビア対ルーマニア。コロンビアの天才パサー、カルロス・バルデラマを中心とする南米屈指のアタッカー陣を抑え、ルーマニアが1-3の完勝を収めた一戦です(公式配信リンク)。
これらの試合を5分でもいいので、見てください。最初でも後半でも構いません。どうでしょう? めっちゃつまらないとまでは言わないですが、面白くはないんじゃないでしょうか?
1986年大会の試合は、マラドーナの5人抜きはもちろん今見ても鮮烈な輝きです。しかし、試合全体を見ると、現代から比べたら遊んでるのかと思うほど走らず、ボールホルダーがパスしない限り、永久に保持できるんじゃないかというくらいにプレスが緩いです。前線からの圧力は皆無なので、ビルドアップという概念もほぼありません。現代の超絶インテンシティ特攻前プレサッカーに比べると、まるでスローモーション映像を見ているかのようじゃないでしょうか。
次の1994年大会の試合は、サッキ革命以後ということもあってそれなりにプレスはしてます。しかし、勢いがいいのは開始直後だけで、あとはアメリカの暑さもあって尻すぼみ。バルデラマなんてロクに走っていません。ルーマニアのカウンターやコロンビアのドリブラー陣などのプレースピードは局所的には早いですが、全体的には現代よりも遅さが目立ちます。技術レベルもプレー強度も今とは比較になりません。
これらが当時世界最高峰の試合だったということにがっかりする人もいるんじゃないでしょうか。純粋に競技レベルとして数段下で、単純にエンターテイメントとして見れば、現代サッカーのほうがはるかに上であることは間違いありません。今のサッカーと比べたら社交ダンスみたいなもので、役所広司を呼んで“Shall we ダンス?”するしかありませんね。
時代とともに失われたエンターテイメントに対する飢えの正体
ただ、競技レベルが低かったからつまらなかったかというと、それはまた別の話です。
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Profile
tkq
世界ロングボール学会(WLBS)日本支部正会員。Jリーグの始まりとともに自我が芽生え、カントナキックとファウラーの薬物吸引パフォーマンスに魅了されて海外サッカーも見るように。たぶん前世でものすごく悪いことをしたので(魔女を10人くらい教会に引き渡したとか)、応援しているチームがJ2に約10年間幽閉されています。一晩パブで飲み明かした酔っ払いが明け方にレシートの裏に書いた詩のような文章を生み出そうと日々努力中です。【note】https://note.mu/tkq
