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トゥヘルの計算を狂わせた森保ジャパン。歴史的初勝利のイングランド戦、パワープレー完封に隠された伸びしろとは?

2026.04.03

北中米W杯の優勝候補とも目されるFIFAランキング4位通算対戦成績1分2敗のイングランドを相手に、敵地ウェンブリーで歴史的初勝利を飾った日本代表。森保ジャパンが突いた敵将トーマス・トゥヘルの誤算と、終盤のパワープレー完封に隠された伸びしろを、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏と探ってみよう。

ケイン欠場で生まれた「現代版2トップ」の成立条件

 まずボール非保持時の日本に注目すると、[5-2-3]がベースとなっていた。相手の配置に対応して前線3枚が形を変化させる柔軟性を持っていることは、これまでの試合でも証明してきた通り。イングランドは[4-2]を基本形とするビルドアップだったため、右シャドーの伊東純也と左シャドーの三笘薫がそれぞれ左CBエズリ・コンサと右CBマーク・グエイを監視し、CF上田綺世はコビー・メイヌーとエリオット・アンダーソンが組むダブルボランチの片方を背中で消すことを優先する形で試合を進めていった。

 開始当初こそはロングボールによるプレス回避も見られたイングランドだが、時間の経過とともに地上からの前進で日本のプレス網を突破していく様子は流石であった。CBへのパスラインを制限しながらGKジョーダン・ピックフォードまでプレッシャーをかける相手に対して、中盤の選手が入れ替わりながら顔を出し、パスラインを制限されていたCBへボールを通していくシーンは、対ハイプレスの正攻法を標準装備としているイングランドの基準の高さを知らしめる場面となった。

 イングランドのボール保持の時間が長くなっていく中で、彼らの配置も段々と明らかになっていく。ハリー・ケインの欠場で注目を集めた最前線は、コール・パーマーとフィル・フォデンが2トップで起用されていた。筆者が「現代版2トップ」と勝手に呼んでいる形で、両者がハーフスペースを住処としながらも空いているレーンやスペースへの移動を繰り返す特徴を持つ。デメリットはゼロトップと同じで、肝心のゴール前に人がいなくなりがちなところだろう。両ウイングが深さを確保するためにサイドから斜めに侵入したり、内側への移動を促したりする仕掛けが「現代版2トップ」を成立させる上で重要となっている。

 そのスイッチを、イングランドは両SBに用意していた。右SBベン・ホワイトは高い立ち位置を取ることでウイングを内側に絞らせ、左SBニコ・オライリーはマンチェスター・シティでの振る舞いと同じようにハーフスペースへ進出することで、自らゴール前への圧力をかける道を選んでいく。

 そんなイングランドがボールを保持する展開に対して、ミドルプレッシングで対抗していく日本。スコットランド戦と同じように、相手が急造の仕上がりだったことは否めないだろう。チーム全体の配置が中に偏ったことで、サッカーの原則通りの中央圧縮で日本は対応することができていた。ダブルボランチの佐野海舟と鎌田大地に対して負荷を与えるようなイングランドの仕掛けだったが、日本は右は渡辺剛、左は伊藤洋輝の3バック両脇の果敢な出張によって食い止めていく。

「パスで自分たちの配置を整え、相手の配置を動かす」

 そこから速攻に移行したい日本だが、イングランドの中盤中央にはメイヌーとアンダーソンが鎮座している。カウンターの芽を摘むために立ち位置に気を遣うコンビの活躍によって、日本はボールを回収され続けてしまう流れとなった。

 だったら、ボールを保持して自分たちの時間を作りたいものの、イングランドはハイプレッシングで対抗。ゴールキックからも繋ぐ気がありそうな日本だったが、相手を剥がしてボール保持を安定させるというよりは、そのまま攻めきることを優先する時間帯となった。ゴールキックからも速攻を狙うとなると、どうしても前線3枚の能力に頼ることになる。となると、やはり2シャドーに足の速い選手たちが起用されることは当然の理なのだろう。

 18分、日本に初めてボール保持の機会が訪れる。ミドルプレッシングで構えるイングランドは、三笘をかなり警戒をかなりしているようだった。選手本人もそのことは承知している様子で、左ウイングバックの中村敬斗とのポジションチェンジを交えながら、ボールを引き出そうとプレーしている。

 以降はお互いにボールを保持する展開が続き、相手のバックパスをスイッチとするイングランドのミドルプレッシングからハイプレッシングへの移行に日本が苦戦する中、23分に一瞬の隙が生まれた。上田からボールを奪い切る強さを見せつけたイングランドのボールがパーマーに渡る。その過程を振り返ると何本もパスを繋いだわけではなく、ボールを奪って早々の出来事だったのでイングランドの配置はまだ整理されていない状態だった。「パスで自分たちの配置を整え、相手の配置を動かす」とはよくいったものである。

 そこで仕掛けるパーマーから三笘がボールを奪った瞬間、アンダーソンとメイヌーの距離は離れていた。それまで最大限の集中力を発揮していたメイヌーだが、虚を突かれたまま潰すことはできず、そのまま三笘を起点にお手本のような日本の速攻が始まると、囮になる上田の動きは第1次森保ジャパンを彷彿とさせる形だった。ボールを運ぶ三笘から大外を爆走する中村にスルーパスが出され、ファーからニアへと回り込む上田が空けたペナルティスポット付近で三笘がクロスを流し込み、日本が先制に成功する。

……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

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