「自分の経験が活きない環境で成長できた」元代表MF小林大悟が語る、開拓者としての海外キャリア10年、育成指導者としての原点【前編】
2022年にスパイクを脱いだ、元日本代表MFの小林大悟氏。現役最後の所属クラブ、バーミングハム・リージョン(アメリカ2部)での3シーズン目を終えた翌年の決断だった。引退から4年、43歳になった同氏は、パリ・サンジェルマン アカデミー・ジャパンでのテクニカルディレクターを経て、自らの名を冠した『DAIGO FOOTBALL SCHOOL』の運営と指導を通じ、サッカー界への貢献を続けている。
自身初の海外移籍となった、大宮アルディージャからレンタルでのスターベク入りは、2009年2月12日。言葉の面でサポートを頼まれた筆者は、前夜に合流したロンドンからオスロへの機内で、「到着地の天候は雪。気温マイナス17度」とのアナウンスに、「本当にサッカーできるのかな?」と思ったことを今でも覚えている。
奇しくも、丸17年後の2月12日、第2キャリアも現在進行形の彼に、リモートで話を聞くことができた。高校サッカー界の名門、清水商業(現清水桜が丘高等学校)を卒業して入団した東京ヴェルディで、秀逸のテクニックとセンスを武器に、10代の主軸となって始まったプロ生活は21年間。その中でも、当人が「革ジャン着て、下はジーパンに白いコンバース。冬のノルウェーに来る人の格好じゃなかった」と言って笑う入国から、延べ10年に及んだ海外キャリアは大きな糧となっている。本インタビューでは、敬愛の念を込め、スクールで目を輝かせながら指導を受ける子供たちに倣い、“大悟コーチ”と呼ばせてもらいたい。
「教え方からして日本と違うんだな」現役時代から興味があった小中学生の指導
――ターミナルで待ち合わせたヒースロー空港で、ノルウェーのティッペリーガン(1部リーグ/現エリテセリエン)に持っていたイメージを、「そこまで上手くはないけど縦に速い」と言っていたけど、実際に2009シーズンを戦ってみてどう感じた?
「リーグ全体的には思っていた通りというか、フォワードにデカい選手がいて、シンプルに縦みたいなイメージ。ただ、ヨーロッパのリーグはトップの4、5チームと、それ以下の差がけっこうはっきりしている。ノルウェーも、(同シーズン)1位のローゼンボリ、(2位の)モルデと、あと2チームぐらいはビルドアップもするし、ポゼッションしてゴールまで行こうというスタイルで、ウチ(前年王者で同シーズン3位のスターベク)もそうでしたけど、日本に近いぐらい戦術もしっかりあるし、ちゃんとサッカーしてくるなと感じました」
――夏には、CL予選でのコペンハーゲン戦(2戦合計1-3)、EL予選でのバレンシア戦(同1-7)と、欧州で格上とも対戦。バレンシアとのホームゲーム後(0-3)、「見えないところで踵(かかと)を蹴ってくる」と言っていたよね。
「なんかこう、嫌らしい相手というか、中盤のちょっとしたところで、カツカツ足を蹴ってくるとか」
――前線は1トップにダビド・ビージャ、トップ下がダビド・シルバで、大悟コーチと同じ右ウイングにはフアン・マタ(現メルボルン・ビクトリー)という具合に、正攻法でも強いチームだったけど、狡猾さも持ち合わせていた。
「あのメンバー、けっこうやばかったですよね。ボールに触った記憶ないですもん、回されすぎて(苦笑)」

――若い頃、海外サッカーはあまりフォローしていなかったと言っていたけど、スクールに通う今時の子たちは、当たり前のように「海外」を見ているでしょう?
「はい。僕らの頃は、毎週金曜の夜にやっていたような、セリエAのハイライトが観られる程度だった。あとは全部Jリーグ。そういう時代で。自分は18歳頃からアンダーの代表で海外に行って試合をしていたので、『やっぱり海外に行かないと、全然レベルが違うな』みたいに思ってはいたんですけど、あまりテレビで海外のサッカーを観てどうこうっていうのはなかった」
――次世代を教える自分というのは、現役時代の途中から考えていた?
「そうですね。僕自身、育成年代にサッカーをしていた自分が、サッカー人生を決める上で全体像の基準というか価値観の基になっているので、そこの年代はめちゃくちゃ大事だとずっと思っていました。
海外で、『教え方からして違うんだな』というのもすごく感じて。アンダーで遠征した20歳の頃も、フランスでの大会(2003年トゥーロン国際大会)でポルトガル代表とやった時にクリスティアーノ・ロナウド(現アル・ナスル)がいて、足は速いけど、なんか荒いし、試合も僕らが1-0で勝った。20歳ぐらいまではそうなのに、次のシーズン、彼はマンチェスター・ユナイテッドで7番をつけていたんですよ。
その年のワールドユース(現U-20W杯)では、アンドレス・イニエスタのいたスペインが決勝に進出した。そのあたりまでは、ちょっとしか力の差がないように思えたのに、1、2年後には、とんでもない差になっている(苦笑)。これはなんだろうと、ずっと思っていて。育成年代で身につけてきている戦術的な理解とか、実はそこが全然違うんじゃないかとか。だからずっと、小中学生の指導はすごく興味がありました」
「バチバチ」のノルウェー、「無法地帯」のギリシャ、「これから」のアメリカで
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
