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“13歳の戦術家”だった19歳がウェールズへ旅立つ理由(後編)。カオスな環境で「なんやねん!」を味わいたい

2025.09.13

“13歳の戦術家”として一部SNS上で話題になっていた宮下白斗さんは、なんと高校生で福山シティの正式なスタッフとして現場を経験し、19歳になった今、サウス・ウェールズ大学へ留学しようとしている。とどまることのない情熱で前例にないキャリアを歩む“小学生でサッカーに魅せられた男”に話を聞いた。

後編では、ウェールズ留学で学びたいこと、そして地に足をつけて現実を見据えつつなお未知に飛び込もうとする原動力に迫る。

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「カオスなところで勝負していくのがサッカー」

——欧州ではどういうことをまず具体的に学ぶ構想ですか?

 「ライセンスを取れるということは、トレーニングのやり方であるとか、分析の仕方であるとか、あとはそれをどうやって落とし込むのかとか、そういう部分はまず学べると思っています。あと、ある意味でこれがメインになってくるのかなと思うんですけど、『それを英語で学ぶ』ということ自体が大きいと思っています」

——確かに普通に学べる英語の知識と、サッカーの現場で用いられる英語の間にはギャップもありそうですもんね。

 「そうなんです。そこがまずは1つ大きいのと、あともう1つは、やっぱりいろいろな国の人が来ていることなんです。この大学にいるのはイギリスだけではなく、本当に世界各国から集まっているそうなので。僕の1個上の学年にはポーランドとかギリシャとか、あるいはインドから来た学生とかもいるそうです。本当にいろいろな国や地域から人が集まってきて1つの学年が構成されているみたいで、それもすごく面白いなと思って楽しみにしています。はっきり言ってしまえば、日本では絶対に体験できないようなカオスがあると思うんです。寮の中もミックス状態だそうで、学部も多分関係なくわちゃわちゃみたいな感じらしいので、そこで得られるものも大きいだろうと思っています」

——大変そうだけど、絶対に学びはありますよ。

 「自分は分析とかだと1人で完璧に一つひとつ突き詰めてやるっていうのもやりたくなるタイプなんですけど、やっぱりサッカーの面白さって、いろいろな個性のみんなが集まって一緒になって勝ちに行く、攻略しに行くところだと思うんです。スタッフが一緒になって準備して、それがもうバッチリはまったとか、そういうのを面白がりたいというか、そのための監督の仕事をしっかり考えたいなと思っています。福山でもいろんなことがありましたし、自分も流されていたところもあったなと思います。だから、サッカーそのものについて学ぶところはもちろんですけど、それ以上にそうやっていろいろな国の人が集まって一緒にやっていく環境とかで、『なんやねん!』みたいになるとか、そういうこと自体を自分は味わっていくべきだと思っています」

——異文化衝突やカオス経験をむしろ歓迎したいわけだ。

 「ちょっとカオスなところで勝負していくっていうのがすごく面白いと感じていますし、サッカーってそういうものだとも思っているんですよね。生活面も含めて、カオスを避けずにむしろ味方につけられるように、適応していきたいと思っています」

——ウェールズ人の彼女を紹介してくる日を楽しみにしています。

 「そうですね、確かにウェールズ人の彼女作れば永住権も取れますもんね……」

——だ、打算的……。

 「いやいや、それは冗談ですからね(笑)。でもそれは冗談ですけど、現地で出会う人たちと深い付き合いをしていきたいという気持ちは本気です。目標に向かって進んでいくためにも、避けるよりもむしろ受け入れて、環境に適応してやっていく。それが大事だと思っています」

——価値観の違いを含め、日本でずっと暮らしていたら感じられないものを肌で感じられる時間になるだろうから、本当に素晴らしい経験になると思います。

気になるのはトゥヘルの勝負勘とヒュルツェラーのキャリア

——欧州で今気になっている監督とかチームはいますか?

 「まずはやっぱりトゥヘルですね。トゥヘルは本当に一番好きな監督なので、ワールドカップでどんなチーム(イングランド代表)を彼が仕上げてくるのかはすごく楽しみです。代表は時間がないですけど、逆にその中でどうしてくるのか、短期決戦ならではの戦いをどう持っていくのか。本当に楽しみです」

——そういうのが得意そうな監督ですよね

 「そうなんですよ。カップ戦だからこその強さがある人だと思いますし、チェルシーの時もそうでしたしね。チャンピオンズリーグを獲った時はもちろんそうですし、バイエルンの時もしんどいシーズンでしたけど、やっぱりチャンピオンズリーグになると、アーセナルに対してもすごいしっかりとしたパフォーマンスを出していったりする。当時プレミアリーグであれだけのサッカーをしていたアーセナルをバシッと抑えて勝つんですから。レアル・マドリーにもギリギリのところまで本当に食い下がってましたから、本当にそういう部分を持った監督だと思います」

——他はどうでしょう?

 「去年からずっと気にして見ているのはブライトンですね。ファビアン・ヒュルツェラー監督。すごく若い監督なんですけど、キャリアも含めてちょっと自分が目指したいケースの参考になる存在なんです。バイエルンのユースにいたんですけどトップチームには行けなかった人で、そこからアマチュアクラブの選手兼監督とかをして、ザンクトパウリで結果をパッと残して一気にブライトンへ引き抜かれてっていうキャリアがまず面白いですよね。あと、ザンクトパウリに日本人の方がいるので、その方からファビアンの話も聞けたんです。それもあってすごく気にしてブライトンの試合は注目して観ています。福山を辞めてから、そういう時間もしっかり取れるようになったので」

2023-24シーズンにザンクトパウリを13年ぶりのブンデスリーガ復帰へと導いたヒュルツェラー監督

“13歳の戦術家”誕生秘話

——やっぱ、そうやって試合を観るのが好きなんですね。話していてすごく感じます。Twitterを初めて拝見した時も、とりあえず「こいつ本当にサッカー好きだな」という感覚でした(笑)。

……

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Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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