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「ポゼッション革命」を起こしたスペインとバルセロナ

2020.08.26

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

EURO2008、南アフリカワールドカップ、EURO2012で主要大会“3連覇”を飾ったスペイン代表と、2008-09の3冠を筆頭に数々のタイトルを手にしたバルセロナ。圧倒的なボール支配で相手を従属させるポゼッションサッカーで戦術史に一時代を築いた両チームの強みと、パスワークと対カウンターの要となったシャビ・エルナンデスとカルレス・プジョルの重要性にフォーカスするとともに、彼らが中核を担ったチームが2019-20シーズンのCL王者バイエルンと対峙したらどうなるか、“予想”してもらった。

スペインとバルセロナの両輪

 2008年は世界のサッカーが大きく変わり始めた年だった。スペイン代表がEUROで優勝し、続いて始まった2008-09シーズンにはバルセロナがジョセップ・グアルディオラ新監督の下、圧倒的な強さを示していった。

 2008年のスペインとバルセロナは、サッカーの歴史で20年に一度ぐらい起きる大きな変化だった。それ以前の大きな変化は1987年に始まるミランによるゾーナル・プレッシングである。そのゾーンディフェンスとコンパクトな陣形によるプレッシングが、ちょうど全世界に浸透し切った段階でスペイン&バルセロナが現れた。

 スペインとバルサはゾーンの隙間にパスを繋ぎ続けることで、プレッシングを無効化した。前回の変化は守備戦術だったので、ミランの模倣者が次々に現れ、10年も経過すると画期的だったゾーナル・プレッシングは普通の戦術になっていったのだが、スペインとバルサの場合は浸透速度がはるかに遅かった。こちらはボールテクニックを伴った変化なので、マネをしたくてもそう簡単にはいかないのだ。スペインとバルサのコピーはほとんどが失敗に終わっている。そのためスペインとバルサは戦術上、一人勝ちの状態が続いた。

 スペイン代表は“ティキ・タカ”と呼ばれた洗練されたパスワークでEURO2008を制した後、2010年ワールドカップ南アフリカ大会で初優勝。EURO2012で連覇を果たした。バルセロナは2008-09シーズンからリーガエスパニョーラ3連覇をはじめ8度の優勝を重ねる。CLも3度制覇。ありとあらゆるタイトルを獲りまくった。

 シャビ・エルナンデスカルレス・プジョルは、スペインとバルサどちらのチームでも不可欠な存在だった。

 シャビはティキ・タカの象徴だ。的確なポジショニングとパスでボールを動かし続けるサッカーの中心で、バルセロナの哲学を体現するMFだった。それまで優勢でも60%がせいぜいだったボールポゼッションは、70%を超えるのも普通になった。ボールを支配することでゲームを支配するバルサ・スタイルを極限まで高めた。その中心にいたのがシャビである。

 ボールを支配して相手陣内へ押し込む。そこでボールを失っても、直ちにプレッシングで奪回する。これがバルサの勝利の方程式だ。相手は満足にパスを繋ぐことができず、すぐに失う。ロングボールで逃げてもDFに回収される。しかし、90分間に何度かはプレスをかいくぐる、ロングボールを拾うといった形でカウンターアタックになる。その時、広いスペースをカバーできるCBがこの戦法では不可欠だった。プジョルはSBもこなせるCBでスピードがあり、1対1に強かった。攻撃でのパスワークの技術、CB本来の空中戦を含めた守備力も兼ね備えていなければならないが、プジョルはパーフェクトなCBだったと言える。

2008-09シーズン、CLを制しカップを手にするプジョルとシャビ

バイエルンの新しい潮流

 2019-20シーズン、ポルトガルでの集中開催で準々決勝から一発勝負という変則的なレギュレーションだったCLを制したのはバイエルンだった。準々決勝ではバルサを衝撃的な8-2のスコアで粉砕している

 かつて栄華を極めたスペインとバルサのスタイルは、すでに優位性を失っていた。

 まず、「バスを置く」撤退守備で対抗するチームが現れた。やがてスペイン&バルサのパスワークを採り入れて消化できるチームも数は少ないが現れてきた。2012-13シーズン、CL準決勝でバイエルンは2試合合計7-0でバルサをノックアウトしている。それまでもバスを置いたうえでのカウンターで試合を盗むようにバルサに勝ったチームはあったが、圧倒的に打ち負かしたのはバイエルンが初めてのケースだった。バイエルンはバルサのハイプレスをかわすことで試合の主導権を渡さず、バルサの勝利の方程式を崩すことに成功していた。

 2020年の8-2は、すでにかつての優位性を失っていただけでなくチームとしても劣化していたバルサに対して、バイエルンは容赦ないハイプレスでバルサの最後の砦だったポゼッションも完全に破壊した。

 バイエルンは新しい潮流を代表するチームと言える。バイエルンが優勝する5日前にELを制したセビージャ、2018-19のCL王者リバプールも同種のスタイルだが、バイエルンはより洗練されている。

 バイエルンは後方ではしっかりパスを繋いでボールを確保する。しかし、センターサークル付近から相手ペナルティエリア手前までの中央エリアへパスを入れない。攻撃は徹底的にサイドからであり、これはEL優勝のセビージャも同じだった。

 中央エリアにいるレバンドフスキ、ミュラー、ゴレツカの3人にとって、そこはゴール前へフィニッシュのために入っていくための「控室」のようなもので、そこでプレーするつもりはない。攻撃ではまったくといいほど使わないそのエリアは、守備のための場所だ。

 バイエルンが中央エリアにボールを入れないのは、そこで失いたくないから。逆に、その場所で相手からボールを奪ってショートカウンターを狙いたい。だから攻撃ではそのエリアを避け、守備ではそこへ相手を追い込んでいた。いわばハイプレスのための攻撃であり、攻撃のためのハイプレスでもある。リバプールが残していた“ストーミング”のカオス部分まで、きれいに整理したサッカーと言えるかもしれない。

大敗を喫したバイエルン戦でうつむくメッシ

全盛期バルサはバイエルンに勝てるか?

 もし、シャビやプジョルが健在だった全盛期のバルセロナが、現在のバイエルンと対戦したらどうなるのだろうか。

 進化の先端がバイエルンなのだから、バイエルンが勝つと考えるのが妥当かもしれない。ただ、バイエルンがサッカーの進化までいかない変化に過ぎないとすれば、バルサにも勝機はある。少なくともシャビやプジョルがいた頃のバルサは、バイエルンに8-2で敗れたバルサとは違う。

 バイエルンが攻撃で回避していた中央エリアは、バルサにとってまさに生命線とも言える場所だった。シャビ、イニエスタ、ブスケッツ、メッシがそこへ集結してボールを動かし、相手のプレッシングを解体したことこそがバルサの強みだったのだ。一方、バイエルンはそこにミュラー、ゴレツカ、レバンドフスキらを集結させてボールを奪い取ろうとする。この攻防をどちらが制するかが試合の趨勢を決めるはずだ。

 バルサはすでにプレッシングとの戦いに勝利しているが、より高度なプレッシングにも勝てるかどうか。それはテクニックとプレッシャーの勝負だ。

 「優れたテクニックの前に、プレッシングは無力だ」

 かつてヨハン・クライフはそう言ってドリームチームを作ったが、実際に言葉通りのレベルに達したのは20年後の2008年以降だった。より速くなったプレッシャーを、シャビたちは外せない可能性もある。ただ、理論上は外せる。クライフの言葉を借りれば、「人はボールより速くない」からだ。

 CL決勝で、パリSGのネイマールはバイエルンのプレスを外せていた。常にではないが、テクニックがプレッシャーに勝った場面が何度かあった。散発に終わったのは、パリSGのビルドアップそのものが封じられていて、ネイマールにボールが渡っても無理な状態がほとんどだったからだ。準決勝、準々決勝でもネイマールは厳しくマークされていたが、プレッシャーを外せている。プレッシャーを最大化しようとするとどうなるかは、何度も繰り返された股抜きが象徴的だろう。ファウルしないでボールを奪いたければネイマールの手前で停止が必要だが、スピードに乗って距離を詰めている分、足の間を閉じられない。

 ネイマールと同じことがメッシにも当てはまる。そしてシャビ、イニエスタの援護がある。プレスの最速化を図るバイエルンだが、理論上はことごとくインターセプトしない限り、シャビ、メッシ、イニエスタ、ブスケツのスクエアからボールを奪うことはできない。人はボールより速くないだけでなく、ボールに追いつこうと速度を上げてもボールは奪えないのだ。可能性はボールより速く走ってインターセプトする他ないが、それが続けられるとは到底思えない。

 ただ、実感としてはそれでもバイエルンが勝つのではないかという気はする。しかし、数年後には新しいバルサやシャビたちが、理論通りにバイエルンのプレスを空転させるだろう。バルサやスペインが他との決定的な差を作っていたのはテクニックだ。その中でも最も高度な技術が要求されるのは中央エリアである。ボールと相手を同一視野に収められない場所、そこで勝負できる人材がいたことが大成功の要因だった。その場所でのプレーを回避している時点で、すでにバイエルンは負けていると言えるのかもしれない。

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流麗かつ支配的なポゼッションスタイルで一時代を築いたスペイン代表とバルセロナで、チームの心臓として幾多のパスを紡いだシャビ・エルナンデスと、ハイラインの後方の番人として立ちはだかったカルレス・プジョル。偉大なる2選手が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

さらに詳しい情報を知りたい方は公式HPへアクセス!
http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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Photos: Getty Images, Corbis via Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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