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欧州クラブのインスタは、なぜ魅力的なのか? プロが指摘する3つのポイント

2019.06.28

Instagramのマーケティングに成功しているJクラブは、多くない。

理由はさまざまだが、一つはインスタのマーケティングは専門的な知見が必要であり、そうした知見を持つ人材が現場にはまだ少ないことが挙げられる。まして、「プロサッカークラブのインスタマーケティング」に関する情報となれば、さらに絞られるのが現状だろう。

そこで今回は、インスタ運用のプロフェッショナルである株式会社ライスカレー製作所の川上慶士氏に寄稿を依頼。欧州数クラブのインスタ活用事例を元に、運用のポイントについてわかりやすく解説していただいた。ぜひご覧いただきたい。

はじめに

 「ずっと見ていたい」

 そんな気持ちにしてくれるのが、欧州各国のクラブチームのInstagramアカウントだ。Instagramでサッカー関連の投稿を見ていると、個人ごとに最適化されるフィードはすべてサッカー関連で埋め尽くされていく。

 しかし、なに一つイヤな気持ちにはならない。むしろもっと見たくなるくらい、欧州クラブチームのInstagramアカウントから投稿されるコンテンツは魅力的だ。なぜ、彼らのInstagramアカウントやコンテンツはそこまで魅力的なのだろうか?

 この謎を解明すべく、欧州各国のクラブチームのInstagramアカウントの数値や投稿される中身について比較してみた。一つひとつのコンテンツはすべて数値化されるため、その数値から見えてくる部分もあると考えられるからだ。

 今回題材にするのは【プレミアリーグ】【セリエA】【リーガエスパニョーラ】の3リーグ。選出したチームは、下記の9チームだ。


【プレミアリーグ】
チェルシー
マンチェスター・シティ
リバプール


【セリエA】
ミラン
ユベントス
インテル


【リーガエスパニョーラ】
アトレティコ・マドリー
レアル・マドリー
バルセロナ

 それぞれのアカウントのフォロワー数やエンゲージメント数(いいね! 数およびコメント数)、動画の再生数などの各数値をまとめてみたので、先にそちらをご覧いただきたい。

もはや国家レベルの規模

数値はすべて2019年4月11日のもの。いいね!、コメント、動画の数値は、集計時点での最新を除く直近6投稿が集計対象。エンゲージメント率は(いいね!数+コメント数)÷フォロワー数×100で算出

 選出した各チームの数値を見てみると、大きな違いがあることがわかる。リーグごとに見ていこう。

意外と低い、シティの動画再生数

 プレミアリーグの3チームは、どこもフォロワー数が近い。それぞれ1,100万~1,600万人ほどだ。その中でも、特にマンチェスター・シティの平均エンゲージメント率が高いことがわかる。チェルシーとリバプールが0.8~1.1%あたりに対し、マンチェスター・シティは2.5%ものエンゲージメント率を記録している。

 反対に、動画の再生数はこの3チームの中だとマンチェスター・シティが一番低い結果(平均約15万回再生)となっており、チェルシーとリバプールはそれぞれ約60万回再生ほどと、4倍以上の再生数を記録している。

突出するユベントスの数字

 セリエAの3チームだと、ユベントスが抜きん出ている。ミランとインテルがそれぞれ270万~570万フォロワーなのに対し、ユベントスのフォロワー数は約2,400万人と圧倒的だ。 また、いいね! 数やコメント数、動画の再生数なども、他の2チームと比較すると頭2つ3つほど突出している。

 ミランとインテルの平均エンゲージメント率も、低くはない。ふつうフォロワー数が増えればエンゲージメント率は漸近的に下がっていくものだが、1.8~2.3%ほどの良いエンゲージメント率を保っている。しかし、ユベントスはエンゲージメント率も高く3.0%を記録している。単純に、ユベントスの数値が突出しているのだ。

もはや国家レベル、レアルとバルサ

 最後に、リーガエスパニョーラではレアル・マドリーとバルセロナが、ともにサッカークラブ界において世界トップレベルの数値を叩き出している。

 それぞれフォロワー数が約7,000万人、約6,700万人と、もはや1つの国家と言ってもいいくらいの規模のフォロワーを抱えている。フランスやイギリスの人口が約6,400万人~6,600万人ほどであることを考えると、そのフォロワー数の規模の大きさも想像にかたくないのではないだろうか。また、1投稿あたりの平均いいね数は87万~94万いいね!、コメント数も実に4,000件以上寄せられている。加えて、動画の再生数も1投稿あたり平均200~400万回ほどと、その人気の高さがうかがえる。

この違いはどこから生まれるのか?

 これらの数値にはリーグ・クラブ・選手としての人気、あるいはリーグが存在している国家としての人口など、さまざまな要素が起因している。なかなか、ひとくくりで語れるものではないだろう。

 ただ、それぞれのアカウントや投稿の中身を見ていくと、主に「投稿頻度」「リアルタイム性」「熱狂感」の3つのポイントが非常に重要な要素なのではないかと考えられる。

ポイントは「投稿頻度」「リアルタイム性」「熱狂感」

 1つずつ解説していこう。

投稿頻度

 どのアカウントも毎日投稿するのはもちろん、試合の日とオフの日によって違いはあるが、平均3~5投稿/日ほどフィード投稿を実施している。

 一番投稿数の少ないレアル・マドリーは1投稿/日の時もあるが、基本的には数投稿/日を実施しており、一番投稿数の多かったミランに至っては最大14投稿もフィード投稿を実施していた。

 またフィード投稿だけでなく、ストーリーズ投稿も全チームが実施していた。プレミアリーグの3チームはすべてストーリーズを活用していることに加え、全チームが過去投稿したストーリーズをプロフィールページのハイライト(※)に設置している。

※ハイライトとは、ストーリーズに投稿したコンテンツをプロフィールページ上に表示させる機能。下記画像の赤枠部分

 セリエAも3チームともストーリーズを活用しているが、ユベントスだけがハイライトも活用。リーガエスパニョーラも3チームともストーリーズを活用しており、アトレティコのみがハイライトを活用している。ストーリーズの投稿頻度も高く、そのバリエーションも非常に豊かだ。

 なぜこんなにも投稿頻度が高いのか? それはSNSの特性にある。

 SNSは基本的にフロー型であり、投稿されたコンテンツはどんどん流れていく。そのため、フォローしている数が多かったり、サッカー関連の投稿へのエンゲージメントが低いと、たとえフォロワーであったとしてもすべての投稿コンテンツが見られているわけではない。フォローしているユーザーの投稿はすべてフィード画面に出るようにはなっているが、ユーザーの興味関心によってどの投稿を上から表示していくかという優先順位は決められてしまう。また、ハッシュタグ検索をした際にも、上部に表示されるコンテンツはInstagramのアルゴリズムによって決定される。そのため、1投稿ずつのエンゲージメントを高めることはもちろん、ユーザーがどのタイミングでInstagramを開いたとしても情報接触点を作れるよう投稿頻度を高める必要性がある。

 また、昨今のInstagramではフィード投稿をあまり見ず、ストーリーズ投稿を中心に見るユーザーも増えている。そのため、Instagramの中の情報接触点を最大化するためにもストーリーズへ投稿する必要性もある。

 欧州の各クラブチームはそういったSNSの特性を考慮しており、また、フォロワーでありファンを飽きさせないためにも、常に楽しんでもらえるようなコンテンツを毎日多数投稿しているのだ。

リアルタイム性

 上記の投稿頻度にも関係してくるが、リアルタイム性という要素も非常に重要だ。

 投稿数が多くなるタイミングは試合日であり、試合中にどんどん投稿されていく。開始前、試合中の目立ったプレー、得点シーン、試合結果、などなど矢継ぎ早に投稿されていく。その多くがプレー中、あるいはその瞬間に一番アツかったシーンを捉えているものが多い。ファンとしては、非常に心を揺さぶられるのではないだろうか。

 また、Instagramはフィード・ストーリーズ投稿に限らず、それらの投稿を自身のストーリーズでリポスト、あるいはDMで直接送付できるようになっている。

 たとえば、バルセロナの公式アカウントが得点シーンを投稿したとしよう。ユーザーはそれを自身のストーリーズでフォロワー全員にシェアすることもできるし、サッカー仲間や友人に「点が入った~!」とDMでシェアしそのままやりとりを開始することもできる。

 公式アカウントがリアルタイム性をもってコンテンツを投稿していくことで、フォロワーに対しても熱量が高くリアルタイム性のある行動を促すことができる。それはクラブのInstagramアカウントが抱えるフォロワー数以上の情報流通を生み出し、より多くのユーザーとの情報接触点の創出を実現するのだ。

熱狂感

 フットボリスタをご覧の皆さんにも、それぞれファンのチームがあると思う。では、どんなコンテンツならその投稿にいいね!を押したり動画を見たり、さらには友人知人にシェアしたいと思うだろうか。

 その例として、こちらのチェルシーとユベントスの投稿をご覧いただきたい。


チェルシー


ユベントス

 動画は、見ているだけでこっちがワクワクしてくる。素晴らしいプレー、ゴール後のパフォーマンス、実況者の興奮度合い、そして観客から湧き上がる歓声。そのすべてが、この1つのコンテンツを最高レベルにまで押し上げている。投稿される画像はまさにその一瞬しか存在しなかった最高のシーンを捉えており、ファンとしてはいいね!を100連打したくなるのではないだろうか。

 反対に、同じアカウントの中で投稿した動画だとしても如実に数値に違いが出ているものもある。たとえば、マンチェスター・シティの2つの動画を見てほしい。前者が再生回数が多く約200万回以上の再生、後者が少なく約25万回ほどの再生回数だ。

 動画の再生回数に関して、プレミアではチェルシーとリバプールが高くマンチェスター・シティは低いと記述したが、その理由はこれだ。音もなく単に告知するだけの動画はほとんど見られず、臨場感のある動画コンテンツこそが求められていると言える。

 また、ミランとインテルを比較すると、フォロワー数はミランのほうが倍以上の数値を誇るが、動画の再生カウント数はインテルのほうが倍以上になっている。その差も、動画の質に出ている。


ミラン


インテル

 ミランは動画を加工し音楽をつけ、ある意味でクリエイティブの世界観がコントロールされていると言える。だが、半分以下のフォロワー数ながら倍以上再生されているのはインテルの動画だ。

 マンチェスター・シティやミラン、インテルの動画を見てお気づきかと思う。より多く再生され、より多くのエンゲージメントを得るために必要なのは、クラブチーム側が見せたい自分たちのオシャレさではなく、ファンが何度でも観たいと思える熱狂感のある動画なのだ。

考えるべきはファンが望むもの

 「Instagramを活用しよう」と聞くと、なにやらオシャレで洗練された写真がマストなのかなと思われがちだ。しかし、実際のところそうではない。

 筆者はふだんInstagramマーケティング支援を専門としており、さまざまな業種のアカウント運用・分析に携わっている。その上で、これまでの経年的な傾向やデータを見る限り、もはやキレイな写真だけを投稿するアカウントは支持されづらくなっている。

 むしろ、Instagramのアルゴリズム的には、滞在時間が長くなったり、再帰性の強いコンテンツのほうが優遇されやすくなっていると考えられる。コンテンツそのものやアカウントのコンセプトにもよるため一概には言い切れないが、長文の方が好まれる傾向にあり、動画も優遇されやすいと言える。

 また、投稿コンテンツの右下にあるしおりのようなマークは「保存」ボタンなのだが、保存されやすいコンテンツは数値的に伸びやすく、またアカウントのフォロワーも伸びやすい(検索画面でコンテンツやアカウントがオススメされやすくなるため)。検索画面でも、動画の部分がわざわざ用意されているくらいだ。

 クラブチームのInstagramアカウントだからといって、無理にカッコつける必要はないのではないか。むしろ試合で選手が活躍していたり、いちファンでは見れないような裏側をそのまま見せてあげる方が支持されやすいと、欧州各国のクラブチームのInstagramアカウントを見て筆者は考える。

 忘れてはいけないのはファンの存在であり、ファンがなにを見たいのかを突き詰めていくことこそが、クラブチームのInstagramアカウントに求められることではないだろうか。

Edition: Sawayama Mozzarella
Photo : Getty Images

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Keishi Kawakami