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イスタンブールダービーを終えて 長友・香川、トルコでの現状

2019.05.09

長友、ベテランとしての落ち着き

 大観衆が作るテンションに煽られ、フィジカルコンタクトは非常に激しいものとなる。局地的な競り合いで選手同士が倒し倒され、主審はイエローカードを連発。トルコ・シュペルリグが有する激しさに、ダービーマッチならではの敵愾(てきがい)心が加わったガラタサライとベシクタシュの激突は、非常にゲームコントロールの難しい一戦となった。

 そういう試合を制する上で重要なのは、テンションに飲み込まれない冷静さである。「イエローカードもらい、そこから退場に繋がったりしたら、明らかに試合の内容がひっくり返る。そこは僕もいろいろ経験させてもらって、ベテランとしてチームメイトを落ち着かせるところ、そういうコントロールというのも心がけてやっていますけど」。左SBとして、ガラタサライのDFラインを形成していた長友佑都は、そんなプレーをやり通した。対面にリーグ有数のサイドアタッカーがぶつけられる中で堅実にカバーリングを行い、持ち場をしっかりと死守することで、守備に安定をもたらしていた。

 前半にマッチアップしたのはイェレマイン・レンス。爆発的な縦へのスピードを誇るオランダ人のサイドアタッカーは、カウンターから裏のスペースを狙って走り込んでくる。その彼から目を離さず、いち早く回り込んで縦の進入路を切る。アウトサイドのレーンを塞いで相手の足を止め、攻撃を遅らせたところで味方はラインを整える。外に回れなくなったレンスは中へパス出しや突破を図るが、そこにはガラタサライのCBやボランチ陣ががっちりとカバーに入っている。中盤や前線の選手が少なからずボールロストをする展開ながら、カウンターの制御に成功したガラタサライのDFラインは、ベシクタシュのFW陣にシュートを撃たせなかった。

 逆にガラタサライは44分、緩くなっていたSBの裏とワンボランチの脇のスペースをカウンターで突いて先制に成功。ビハインドを背負ったベシクタシュのシェノル・ギュネシュ監督は、流れを変えようと57分にリカルド・クアレスマの投入を決める。レンスを左に回し、右に配置されたのはこの天才ドリブラー。しかし長友は、違うプレースタイルの相手に対処をきっちりと切り替えた。右に左に細かくフェイントを入れるドリブラーの動きに合わせ、細かくステップを踏んでターンを繰り返し、ラストパスのコースを切ってボールをピッチの外へ出させる。スタンドからは声援が上がっていた。

 「集中ではなく、どのように意識を分散させるかっていうのが、サッカーにとっては大事だと思っている」

 長友は試合後、そんなことを話していた。プレーの幅が広く、視野も広い香川真司が交代で入ってきた終盤の方が彼にとっては怖かったらしい。それまでの時間帯については「制限できるし、そこまで怖い選手はいなかった。しっかりと目の前の選手に対して自分たちが集中できていれば、問題ないかなっていうぐらい」と言い切っていた。

 そこまで余裕を持ってゲームを把握していたところに、長友自身が言っていた「ベテランとしての落ち着き」が表れていたのだろう。インテル時代にミラノダービーを数多く戦ってきたが、全力を出して走り回る一方でミスもたびたびあった。フェイントに引っかかったり、走り込む相手を視野から離したりで失点に繋がる場面もあったが、この試合にそんなシーンは一つもなし。もといトルコに戦いの場を移してからは、果敢なオーバーラップを見せながらも守備の安定度で貢献する場面が目立つ。

 長友の談話を取っている間、ファティ・テリム監督が横に来て彼の肩を抱き、日本の報道陣に挨拶をしていた。「僕もギリギリのところでやってますし、もしプレーが悪かったら次の試合も代えられる」と長友はインテル時代同様に危機感を露わにしていたが、指揮官の信頼は厚そうだ。

試合後、長友は自身のSNSで勝利を報告

途中出場の香川は…

 一方、チーム内で異なる立場に立たされているのはベシクタシュの香川だ。「ファーストチョイスとして(ギュネシュ監督は自分を)見ていない。特に守備なのか(理由は)わからないが、やっぱり(シーズンの)途中から(チームに)入ってる中で、序列が分かれてる部分が非常にある」と試合後に悔しさをにじませていた。

 ギュネシュ監督は最近の数試合で、守備的なインサイドMF3枚を配置してプレーすることが多くなっていた。その割を喰う形で、トップ下のポジションが削られた結果香川はベンチに。このガラタサライ戦ではガリー・メデルを故障で欠いたが、代役に選ばれたのは香川ではなくネシプ・ウイサル。シーズン後半はベンチを温めることが多くなっていた28歳のCBが、11カ月ぶりにMFとして起用された。もっとも前述の長友の言葉通り、ボールを奪った後の展開のバリエーションに乏しい印象は否めなかった。モロッコ代表のゲームメイカー、ユネス・ベルアンダのパス出しを軸に機能的なカウンターを成功させていたガラタサライとは、その部分が勝負を分けたように感じた。

 ならば香川を先発か、後半のもう少し早い時間からぶつければ良かったではないかと思えるところだが、ギュネシュ監督が中盤の選手に求めているのはプレー強度。守備の際には深く戻ってスペースを埋め、タフに走ることを期待している。3-3で終わった2月のフェネルバフチェ戦後、香川について「守備での貢献が乏しい」と地元メディアに語っていたが、その時から評価そのものは大きく変わっていないようである。

 もっとも香川の持ち味は攻撃時にあるし、アデム・リャイッチやブラク・ユルマズらと細かくポジションを入れ替えながら攻める際には精度の高いプレーを発揮できている。残り3試合で首位との勝ち点差は4と厳しい状況になったが、だからこそ勝ち切る力が重要になる。たとえ少ない時間であっても、精度の高さとプレーの幅の広さで、ゴールへと直結する仕事ができるかどうかが香川には期待される。

Photos: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。