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アルカディウシュ・ミリク。復帰直後の靭帯再断裂にもめげず

2019.04.22

“2度のケガを通して、僕はもっと強くなれた”

Arkadiusz MILIK
アルカディウシュ・ミリク

FW99|ナポリ
1994.2.28(25歳) POLAND

 2017年9月23日、ナポリ対SPAL戦。ルーズボールに向かって走っていたミリクは、いきなり右膝を押さえて倒れ込んだ。本人はユニフォームで涙を拭い、チームメイトが一様にショックを受ける様子がTVで大写しになっていた。

 ミリク本人も、仲間たちも落胆するのには理由があった。16年10月に左膝前十字靭帯断裂の重傷を負い、ほぼ1シーズンを棒に振った。「これで選手生命が終わるんじゃないかと思った」というケガからようやく復帰したにもかかわらず、開幕1カ月後にまた故障。軽いものでないことは、ピッチにいる誰もが理解していた。結局、右膝の前十字靱帯断裂が判明。長いリハビリに耐えて復帰したミリクは、再び長期の戦線離脱を余儀なくされた。

 膝前十字靱帯断裂はサッカーをはじめとするコンタクトスポーツでは発症リスクが高いケガで、選手生命を左右しかねない重症である。しかも再発も少なくない。ブラジルのロナウドを2度にわたって襲ったのもこの部位の故障だ。執刀を担当した整形外科医の権威ピエルパオロ・マリアーニ教授いわく「一度膝の手術を受けた患者が、逆の膝に故障を負う確率は20%」だという。故障が原因で筋力の回復がアンバランスになり、他の部分に影響が及ぶのが理由と考えられている。

 右膝の負傷は前十字靱帯だけでなく、半月板にも影響が及んでいたという複雑なもの。厳しいリハビリを経てようやく復帰したのにいきなりこの故障では、落ち込むのも無理がない。周囲にはうつを心配する声もあったそうだ。その時、関係者がミリクにロナウドの話をしてくれたという。2度目の故障から立ち直って、2002年のW杯で得点王になったスターの存在は希望となり、「ロナウドにならおう」とリハビリに取り組んだ。極力、家族とともに過ごしてリラックスするする時間を増やし、厳しいリハビリに備える。マリアーニ教授は「2度目の故障の場合は治療経過をすでに経験しているため治りも早くなる」という。

 もっとも、規定の治療期間が終わっても焦りは禁物だ。患部そのものは治癒しても、脳裏には違和感と故障への怖さが残るミリクのことを、周囲も落ち着いて見守った。

 こうして昨季の終盤に復帰したミリクは、今シーズン尻上がりに調子を上げている。そこには、アンチェロッティ監督とスタッフの丹念なケアもプラスに働いている。W杯後にはバカンスに行かず、ジムで筋トレを行った。シーズン中のフィジカルトレーニングでは足の筋肉の反復に重点を置き、筋力の増強を図る。一方で負荷がかかったと思ったら、ペースを落として練習も休ませた。その結果ミリクは復調し、第32節終了時点で17ゴールを稼ぐまでになった。

 なおミリクは、同じ故障をしながら手術代の工面に苦労していたポーランド時代の同僚の手術費用を負担している。2度にわたる故障は、彼を心身ともにさらに強い人間にしたようだ。

Photos: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。