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シーズン中の監督解任は誰にとっての悲劇なのか――昨季イタリア王者・ナポリの場合

2023.11.24

11月15日、SSCナポリが監督交代を発表した。昨季イタリア王者のここまでの成績は、リーグ戦で首位と10ポイント差の4位(6勝3分3敗・24得点13失点)、レアル・マドリーと同組のCLグループステージで4節を消化して2勝1敗1分の2位。タイトルを守るには十分な成績とは言えないが、クラブ規模を考えれば最悪というほどでもない。にもかかわらず、クリスマスを待たずにクラブは監督交代に踏み切った。何かがうまくいっていなかったということだ。誰かにとって。解任された監督。ボスを失った選手たち。チームを託された新監督。クラブを愛するサポーター。そして交代を決断したクラブ会長。これは誰にとっての悲劇であったのか。

解任監督:ルディ・ガルシア

 悲劇である。何しろ志半ばにして解任されてしまったのだから。

 本当にそうだろうか?

 客観的事実を並べてみよう。2022-23シーズン終了前、クラブは前監督ルチャーノ・スパレッティ(現イタリア代表監督)の続投を望んでいた。だが契約面でのトラブルで、スパレッティはナポリを離れた。クラブはリーグ優勝監督を失い、後任を見つけなくてはならなくなった。いくつもの名前が噂されては否定された。ルディ・ガルシア監督の就任がアナウンスされたのは6月17日のことである。クラブ会長アウレリオ・デ・ラウレンティスは「ガルシアがファーストチョイスだった」と発言した。

 迎えた2023-24シーズン。メンバーをほぼ維持しているにもかかわらず、昨季のような圧倒的な強さが見られない。結果が振るわない。セリエA第3節ラツィオ戦(●1-2)、第4節ジェノア戦(△2-2)は、スコア以上に内容への不安を掻き立てた。新監督への風当たりは徐々に強くなっていった。「不振は監督の責任である」とティフォージ(サポーター)は思い込んでいるようだった。実際には、チームが見せていた攻撃時の手詰まりやカウンターによる失点は、スパレッティのチームでもたびたび見られた弱点だった。ガルシアのナポリは、その弱点がカバーされず、一層目立っていた。「ガルシアのせいではないかもしれないが、ガルシアではどうしようもない」という声も聞かれるようになった。

 第8節フィオレンティーナ戦(●1-3)は、監督が周囲の信頼を失うには十分過ぎるほどショッキングな内容だった。クラブが後任を探し始めたという報道が流れた。しかし「適切な後任が見つからなかった」。監督交代はお預けとなり、猶予が与えられたかのように見えた。競り合いながら惜しくも2-3での敗戦となったCLグループステージ第2節レアル・マドリー戦や、2点を先行されながら追いついた第10節ミラン戦での戦いぶりは、安堵をもたらした。ほんの束の間の。しかし公式戦12連敗中だったウニオン・ベルリンにホームで勝ち切れなかったCLグループステージ第4節(△1-1)、19位に沈んでいたエンポリを相手にホームで敗戦(●0-1)を喫した第12節の後には、監督を擁護する者はもう残っていなかった。クラブは解任のアナウンスを出すことはなかった。ただ新監督の就任が告げられた。

 責任はガルシア監督にあったのだろうか? だとすればどうすればよかったのか?

 そもそも、何人もの監督候補がそうした(とされる)ように、ガルシアもオファーを断るべきだったのかもしれない。スパレッティという一流の戦術家が作り上げたリーグ優勝チームを引き継ぐことが、そう簡単な仕事でないことくらい誰にだって理解できる。だが、成績不振と選手らとの関係悪化によってアル・ナスル(サウジアラビア)との契約を解除したばかりだったフランス人監督にとっては、逃し難いオファーだったのかもしれない。

 ガルシアは人心掌握に長けた監督である。そう評価されていた。すでに完成したチームを気持ちよくプレーさせるために、ロッカールームの管理に秀でた監督を招くのは理に適っているようにも思える。しかしまったくタイプの違う前監督、神経質な完璧主義者が作り上げたチームは、それゆえか、最後までガルシアを受け入れたようには見えなかった。交代を命じた選手があからさまに不満を示す。前監督のスタイルに回帰するべきだと選手がインタビューで公言する。いずれも選手らのエゴではなく、チャンピオンとしてのプライドから、(少なくとも選手らにとって)合理的な判断をしてくれない監督に対して異を唱えているようだった。選手との関係性の問題ではなく、目標に対する見解の相違。監督、コーチ陣だけでなく、スポーツディレクターも同時に交代したことが、クラブ内における正しい目標の共有とモチベーションの維持に影響しなかったとは言い切れない。その点で、ガルシア本人に全責任があるとは言い難い。

 キャリアの挽回とはならなかった。だが、元より困難なミッションであったのだ。残した結果も最悪というほどではない。傷は浅い。この段階での解任は、むしろガルシア本人にとっては幸せだったかもしれない。

選手たち

……

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Profile

大田 達郎

1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut

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