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プロコーチによる新感覚分析。 CLトッテナムvsドルトムント

2019.02.15

【短期集中連載】新世代コーチが見たUEFAチャンピオンズリーグ#1

欧州最高峰の舞台は目まぐるしいスピードで進化している。そこで起こっている出来事をより深く知るためには、戦術革命後の「新しいサッカー」に精通するエキスパートの力を借りるしかないだろう。それぞれの方法で欧州サッカーのトレンドを探究する4人の新世代コーチに、CLラウンド16の“戦術合戦”を徹底分析してもらおう。#1はプレミアリーグのカーディフでコーチを務める22歳、平野将弘が登場!

 バレンタイン前日の2月13日、現地時間午後8時に「聖地」ウェンブリースタジアムでCLラウンド16第1レグ、トッテナムvsドルトムントが行われた。

 スパーズ(トッテナムの愛称)は直近7試合で4勝3敗。リーグ戦は4連勝中で最も興味深い点は過去7試合すべてで異なるフォーメーションを使用していることだ。3バックと4バックを使い分け、MFとFWのユニットの数や配置、個人のタスクのディテールを毎試合変更する。これはポチェッティーノ監督の特徴の1つだろう。さらにスキップやウォーカー・ピーターズをはじめとする若手の起用や積極的なローテーションを行うので、ドルトムント側としてはスカウティングレポートの作成に苦労したのが容易に想像できる。

 一方ドルトムントはというと、現在リーグ戦では首位をキープしているが、直近3試合は1敗2分とチームの流れが良くない。2試合前のカップ戦ではブレーメン相手にPK戦の末に敗退。直前のホッフェンハイム戦では66分の時点で3-0とリードしながら、75分から12分間で3点を許して引き分けに持ち込まれている。

 試合前の両チームの主要な共通点は、エースをケガで欠くことだろう。ケインとロイスの他にもスパーズはアリとエリック・ダイアー、そして左SBのローズとベン・デイビスの2人が離脱。ドルトムントは前の試合ゲームキャプテンを務めたピシュチェク、パコ・アルカセル、そしてバイグルが病気で欠場した。

■前半のドルトムントの守備は完璧だった

 まずは両チームの前半のフォーメーションから見ていきたい。スパーズは基本[1-3-4-1-2]。ボール非保持の際は自陣で[1-5-3-2]を形成する。対するドルトムントは[1-4-1-4-1]で臨んだ。

 単純に組み合わせだけで考えると、スパーズがディフェンディングサード(自陣側の1/3のエリア)でビルドアップする際、相手サイドMFのプレス位置がポイントになる。サイドCBまでプレスに来たら、ドルトムントのSBがウイングバックのマークにスライドするのでSB裏が空く。前に出ずにウイングバックの位置でステイすれば、スパーズのサイドCBが空くことになる。反対にドルトムントのビルドアップの際は、相手ウイングバックのプレス位置がポイントになる。サイドMFの位置にステイすればSBがフリーになり、SBまでプレスに行くとサイドMFが空くか、逆サイドでアイソレーションを作りやすくなる。では実際に試合中に何が起こったのかを見ていこう。

 ドルトムントのキックオフで試合がスタートした。キックオフを分析する重要性は『ESPN』や『ガーディアン』紙でマッチレポートを寄稿している著名な英国人ライター、マイケル・コックスも指摘しており、実際に筆者が所属するプレミアリーグの現場でも行われている。ドルトムントはウィツェルを経由してDFラインで左から右へとサイドチェンジを行った。キックオフ後のアクションはその試合でどういった試合運びや展開をするか、またはそのチームのプレースタイルに比例しやすい傾向がある。ドルトムントはこの試合、後ろから丁寧にサイドチェンジを駆使しながらビルドアップする狙いがあるのだろう。

 前半開始1分半の間はほとんどの時間、ドルトムントが自陣でビルドアップを試みていた。ドルトムントのビルドアップの形として見えたのは両CBが「6ヤード(5.4m)ボックス」の距離で開いてアンカーのウィツェルを1つ前の位置でプレーさせるか、両CBが「18ヤード(16.2m)ボックス」の距離で開きウィツェルが両CB間に降りてビルドアップをするかの2つ。それに対してスパーズはアタッキングサード(敵陣の1/3のエリア)での守備の約束事として、「ボールサイドのウイングバックを相手SBのところまで上げてプレッシャーをかける」ことを課されていた。1分半の間だが相手SBがボールを低い位置で保持している際、フェルトンゲンはハキミに対して、オーリエはディアロに対して厳しくプレスに行っている。そしてトップ下のエリクセンはアンカーのウィツェルを、前線2枚は相手CB2枚を見る形だ。

上はフェルトンゲン、下はオーリエがそれぞれ相手SBに対してチェックに行った場面。下の図を見ると、2トップが相手のCB、エリクセンがウィツェルを見ていることがわかる

 スパーズのセントラルMFのウィンクスとムサ・シソコのコンビは相手の同じくセントラルMF(デラネイとダフード)を見る。ドルトムントのボールサイドのウインガーに対してはスパーズのボールサイドのCBがチェックに行く。12秒のアルデルワイレルトのアクションにその傾向が現れている。ボールサイドにいる相手、人に対してかなり厳しくアプローチをするスパーズ。こういう時は逆サイドのウインガーが空くので、ドルトムントにとってはその選手の使い方が鍵になる。スパーズの前からの守備に関しては、ドルトムントが後ろからボールを繋いで組み立てようとしている時には高い位置でボールを奪い返そうという意図が見られた。

CBアルデルワイレルトがこの位置まで進出。人に対するアプローチを象徴するシーンだった

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 スパーズの高い位置からのプレスにより少々手間取っていたドルトムントだが、筆者はドルトムントのビルドアップは悪くなかったと思う。後ろでボールスピードと選手の移動が速いサイドチェンジが行われた時や、2枚のセントラルMFのうちの1人が相手の守備ポジションをずらすためにウィツェルの近くへポジションを取った際には特にスムーズにビルドアップが実行できていた。セントラルMFのデラネイとダフードがアンカーのウィツェルの隣に降りてきた際には、ウィンクスとシソコはついて行かないので、数的有利が作れるからだ。

 ドルトムントのアタッキングサードでのボール保持の特徴としては、サンチョプリシッチ、ゲッツェに自由が与えられていることだろう。もっと細かく言うと、ポジションに関する制約が課されていない。前半の1分35秒に、前述した3人が左サイドの外側のレーンでプレーする場面があった。普段のリーグ戦と違う点は、その人数が1人減っていること。リーグ戦では10番の位置にロイスまたはフィリップがプレーをするが、今日はセントラルMFの後ろにアンカー(ウィツェル)を置いた布陣で臨んだ。スパーズの攻撃陣に対してかなり警戒していることの表れとも言えるだろう。サンチョ、プリシッチ、ゲッツェの能力や特徴を鑑みて、この戦術は理にかなっていると思う。選手個人の高いクオリティやプロフィールを最大限に生かすために自由を与えることは大切だ。その3人を含んだコンビネーションプレーの機会を生み出すのはドルトムントの1つの狙いであっことは間違いない。彼らはボールを失った際のネガティブトランジション後にはすぐに守備シフトに戻り、組織的なボール奪取をチームとして戦術的に実行していた。

ドルトムントのアタッカー3人、プリシッチ、ゲッツェ、サンチョが左サイドレーンに集結した1分35秒のシーン

 ドルトムントの前半の守備はほぼ完璧で、スパーズに遅攻からのチャンスを作らせなかった。スパーズがビルドアップをしている時のドルトムントの守備の特徴は、プレスのスタート位置はスパーズのCBがボールを運びながらセンターラインを越えたあたりから。それまでは相手CB3枚に対して意図的にボールをセンターライン付近まで運ばせていた。2分28秒にスパーズがロリスまでボールを下げた際、ゲッツェはGKまで深追いするのをやめ、守備シフトに戻っている。この試合でよく起こったシーンの1つだ。

2分28秒、トッテナムのGKロリスにボールが渡るとゲッツェは自陣へと踵を返す

 スパーズの代名詞でもあるMF間のローテーションや相手選手間のスプリットパスを警戒するために、ドルトムントの5枚の中盤[1-4]は特に真ん中を固め、相手ウイングバックへのパスも十分にケアできていた。そのため、スパーズは前半、ビルドアップが思うようにうまくいかなかった。5分にルーカス・モウラが決定機を迎えるが、それはドルトムントのクリアを拾って彼らが守から攻へ移行しようとしている時に偶発的に生まれたものだ。他にも9分20秒のウィンクスからソン・フンミンへの縦パスや34分25秒の自陣深くからウィンクスが起点となって仕掛けたカウンターもどれもがスパーズのポジティブトランジションから発生したもので、ドルトムントがしっかり守備を固めた際はビルドアップからの遅攻に苦しんでいた。カウンターや前でごちゃごちゃした展開で転がってくるボール頼みしか攻略の術がなかった。それくらい前半のドルトムントの守備は機能していたと言える。

 前半の半ば過ぎからはFWのソンとルーカス・モウラが降りてきたり、MFとFWのユニット同士がローテーションしてパスをもらおうとしたり、スペースを作ろうとしたが、ドルトムントは基本的にはボールの位置で自分の持ち場が定められるゾーナルマーキングを採用しているので、ほぼ影響されることはなかった。

 前半のxG(ゴール期待値)を見てみると、ドルトムントが0.32なのに対し、スパーズは0.17にとどまった。この数値からも両チームともゴールを簡単に許すようなシチュエーションは作らせなかったことがわかる。中でもドルトムントの守備は称賛に値する。スパーズのパスマップからはCB間で多くのパスが交換されていた。ドルトムントの固いディフェンスの壁をビルドアップの段階で乗り越えることが難しかったことを示している。ボール支配率を見てみるとトッテナムは56%と比較的高い数値を記録したが、逆に言えば打つ手がなく後方で「持たされていた」ことを意味する。ドルトムントの前半の戦い方を振り返ってみると、無駄な体力は削りゲームプラン通りのミドルサード(中盤の1/3のエリア)からの組織的な守備を披露していたので、後半からの仕掛けで勝負に出るかと思われた。

■「変えた」ポチェッティーノ、「変えられなかった」ファブレ

試合後ポチェッティーノ監督も同じニュアンスのコメントを口にしていたが、後半開始早々にスパーズが先制したことがこの試合の勝敗を分けたと筆者も考えている。先制点によりドルトムントがプレス開始位置を変えたことでスパーズにスペースを与え、簡単に試合をコントロールできるようになった。結果論を承知で言えば、ファブレ監督は先制されたとしても前半のアプローチは変えてほしくなかった。スコアが動くことでゲームプランを変えなければならないケースはもちろんあるが、失点シーンを除けばドルトムントの戦術は機能していたのだから。

 一方で、ポチェッティーノは前半戦で自分たちが用意したゲームプランを遂行できていなかったので、ハーフタイム時に問題を解決するためにビデオクリップを選手たちに見せたと話していた。英国のコーチング現場でよく使う「Through(間へ)」「 Over (裏へ)」「Around(周りへ、脇へ)」というワードがあるが、個人的にはドルトムントのアンカー脇のスペース(Around)やSB裏のスペース(Over)を狙っていくように促したと想像している。何にせよ、ハーフタイムにテクノロジーを使い修正し、後半開始早々から素晴らしいパフォーマンスを披露させたポチェッティーノの手腕には脱帽である。

 スパーズは先制した後、48分頃にウィンクスをMFの底に置き、シソコとエリクセンがセントラルMFを務める逆三角形の中盤構成に変更し、両ウイングバックのオーリエとフェルトンゲンに強い守備意識を促した。先制した後すぐに戦い方のディテールを変更する――この柔軟性もポチェッティーノのスパーズの強みの1つである。

 一方のドルトムントは77分にザガドゥに代わり、シュメルツァーが入るまで選手交代も目立ったシステム変更もなかった。サンチョとプリシッチが交代したのも88分と、動くのがかなり遅かったように感じた。特にラファエル・ゲレイロは直近の試合では好調ぶりを披露(『whoscored』による評価点では8.4、7、8.1と高い点数を記録)し、十分流れを変えられる力はあった。事実90分には得点を匂わすようなシュートを披露してもいる。

 スパーズのボール保持時の主な狙いは外のエリアにボールを入れて搾取し、クロスボールを中に入れて点を取ることだった。46分のフェルトンゲンの高い位置でのボール奪取後のクロスボールからのソンの得点もそうだし、2点目もオーリエからのクロスボールにフェルトンゲンがボレーで合わせて追加点を挙げた。ドルトムントの右SBハキミのディフェンスの仕事に対しては欧州のコーチやアナリストもリアルタイムで悲鳴を上げていたが、彼のネガティブトランジションの意識の弱さを見事に突いたフェルトンゲンの飛び出しからのゴールだった。

 さらに、前半と後半の主な違いはエリクセンがプレーしたエリアである。前述したように48分以降は10番の位置(トップ下)ではなく、1列下がったセントラルMFとしてプレーしていた。DFから積極的にボールをもらってさばいたり、前線やウイングバックが裏に抜けたところにロングボールを送って攻撃を展開する機会が増加した。

 スパーズのボール非保持のゲームプランは前半と大きな違いはないが、相手がミドルサードでボールを持っている際、先制した後の方が、両ウイングバックがDFラインに加わり5バックを形成する意識がより強まった。前半はエリクセンが10番の位置でプレーしたためアンカーのウィツェルをチェックする機会が多かったが、後半はウィンクスとシソコと一緒に下がって守備ブロックに加わる場面が増えた。

 選手交代に関しても、ジョレンテを起用して2分後に彼がゴールを決めたのをはじめ、ポチェッティーノの采配が当たった試合だった。フェルトンゲンのウイングバック起用はメディアから驚嘆の声が上がっているが、理屈上は驚くべき奇策ではない。彼は2試合前のニューカッスル戦では左SBとしてプレーし、積極的に高い位置まで上がり良いパフォーマンスを見せていた。現代サッカーは純粋なポジションではなくタスクが重要だ。11日前の左SBとこの試合での左ウイングバックでのプレーは、実はタスクに関してはほぼ同じである。ポジションの呼び方の違いだけだ。

貴重な3点目を挙げ、スタンドに向け雄叫びをあげるジョレンテ

 「最低の45分間」と各メディアに酷評された後半のドルトムント。それはxGの数値にも表れていて、なんと0.09を記録。ほぼ得点チャンスがなかった。しかしボール支配率は52%を記録し、パス成功率もスパーズを上回る88%。ボールを支配しパス成功率も高いが、ゴール期待値や決定機は少ない。サッカーは非常に複雑で難しいスポーツだとあらためて考えさせられる。まさにスパーズとドルトムントの立場が前半と後半でそのまま逆になってしまった。ドルトムントのチーム全体の縦の平均距離に関しては前半よりも後半の方が51.4mと間延びしており、筆者が感じた通り守備の際に最後尾と最前線のゲッツェとの距離を開け過ぎてしまった。結果、前半より容易にスパーズにビルドアップを許してしまったのだ。

 さらにボール保持の際には、ディフェンディングサードからミドルサードまではボールを持てていたが、それはスパーズが低い位置で5バックを形成して守っているからである。アタッキングサードに侵入してからは事故渋滞を起こして何もできなかった。筆者の主観的な見解では、スパーズが先制後5バックを形成しているのがわかった時点で基本システムを[1-4-2-3-1]に変更し、2枚のセントラルMFの前に10番を作ってダフードに代えゲレイロかフィリップを投入し、両SBは1番高い位置まで上げて5レーンを効果的に埋めて攻撃をすべきだったと思う。スパーズは全体的に後退していたので、2CBと2セントラルMFの1人が後ろで予防的カバー&マーキングをしていれば、カウンターやネガティブトランジションの対応も難しくないだろう。

■第2レグ、ドルトムントに打つ手はあるのか?

厳しい結果となったドルトムント。ホームで迎える第2レグで大逆転なるか

 この試合のMVPは満場一致でフェルトンゲンだろう。特に後半は果敢な攻撃参加でサンチョのストロングポイントを無効化し、自身はゴールとアシストを記録した。シュート数/枠内はスパーズが14/5でドルトムントが6/5。クロス数/成功はスパーズが12/6でドルトムントが半分以下の6/2、そしてアタッキングサードへのパス数はスパーズが82回なのに対して、ドルトムントはたったの44回。ドルトムントはアタッキングサードでの工夫や精度が次節のカギとなる。今回の結果によりスパーズは過去2年間CLの舞台でドルトムントに3連勝を飾ったことになった。

 Optaによると「スパーズはソンが得点した試合は負けたことがない」。ポチェッティーノは試合後の記者会見で次節ソンが得点したら、「ドレッシングルームに戻ってシャワーを浴びて帰り支度をするよ」と冗談を飛ばしていたが、次のドルトムント戦も彼がキーマンになるだろう。ケインとアリの欠場を感じさせないのは、ソンのパフォーマンスによる部分が大きい。過去12試合で怒涛の11得点5アシストを記録している。

 もう1つ、スパーズのCLでの12得点中11得点は後半に生まれている。そこに目をつけて試合を見てみるのも面白いかもしれない。第2レグでドルトムントはおそらく[1-4-2-1-3]で大量得点を奪いにくるだろう。トッテナムは第2レグ前にチェルシーとアーセナルと対戦するので、選手のローテーションをどう行うのかも注目だ。いずれにせよ、現在のケガ人を抱えたポチェッティーノのチームを正確にスカウティングすることは至難の業なので、ドルトムントは複数のプランや想定が必要になってくる。彼らにとっての最大のメリットは1日多く休みを得られること。1日でも多くリカバリーや戦術的な練習に時間を当てられるのは、大きなアドバンテージとなるはずだ。

Photos: Getty Images

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Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ