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日本流ゾーンディフェンスとは? 短所を長所で補う独自のアレンジ

2018.09.25

『戦術リストランテV』重版記念 西部謙司さんトークイベントレポート 前編


8月31日、くまざわ書店 ペリエ千葉本店 特設会場にて開催した弊社刊『戦術リストランテV』重版記念トークイベントの模様を、「フットボリスタ・ラボ」メンバーの嘉数翼さんがレポート。著者である西部謙司さんと、本書の編集を担当した『フットボリスタ』編集長の浅野賀一による“スペシャルメニュー”の前半は「言語化」と「ゾーン守備」について。どうぞお楽しみください。


文 嘉数 翼(フットボリスタ・ラボ)


「サッカーの言語化」とは?


西部
「わざわざお越しいただきありがとうございます。ライターの西部と申します」


浅野
「この本の編集担当で、『フットボリスタ』編集長の浅野です。よろしくお願いします。ではまず、せっかくこの本(『戦術リストランテV』)の出版記念イベントということでお集まりいただいたので、本の話から始められればと思います。どうですか西部さん、今作で印象に残っていることはありますか?」


西部
「印象に残っていることですか? 林舞輝くんとの対談(笑)!」


浅野
「どうでした林舞輝さんは?」


西部
「実は、本人に直接は会ってないんですよ。彼はポルトガルにいたので、Facebookのグループ通話でやりました。そのあと『Foot!』の収録で直接お会いしたんですけど、聞けば僕の子供と同じぐらいの年齢なんで、ちょっと変な感じがしました(笑)。いい人でしたよ。僕の価値観の中でいい人っていうのは最上位ですから(笑)。頭がいいとか関係ないですから」


浅野
「彼に初登場していただいた『フットボリスタ』が『戦術用語講座』という特集の号だったんですけど、けっこうその号からこの本もインスピレーションを得ているんです。ポジショナルプレーハーフスペースとか、ヨーロッパサッカーでどんどん新しい戦術的な言葉が生まれている。それは一回雑誌でもやらないといけないと思ったし、この『戦術リストランテV』のメインテーマとしても『言語化』ということでやってみたいということで西部さんにお願いして、この本を仕上げていただきました。『言語化』というテーマについてはどうですか?」


西部
「サッカーのプレーそのものは、見て、判断をして、プレーをする。車の運転と同じ、とまえがきに書いたんです。車の運転も信号を見たり、標識を見たりしながら判断をして、周りの状況を気にしながら運転しますよね。でも、それは考えていないんですよ。見て、すぐさま動作に移っている。サッカーもそれと似ていて、目で見た周囲の状況からわりと自動的に次のプレーをやっていると思います。ただ、車の運転と違ってボールの扱いは難しいですし、もちろん思っているところにボールを置ける、蹴れるという技術は伴います。でも、認知、判断、実行の中の判断の部分というのは、いいプレーヤーほどあまり意識していないです。勝手にいいプレーができちゃうっていうのと近いと思う。

 熟練のドライバーが『この物陰から人が出てくるかもしれないな』と思ったら、一瞬早くブレーキを踏みますよね。もちろん、そこまでうまく運転できない人もいますし、その状況をどう認知しているのかということにかかってくる。その判断の部分に関しては、言葉はほぼ関係ないと思っていて、認知をする部分において言葉があるのとないのとでは違ってくると思っています。要は自分がこの位置で(ボールを)受けることが何を意味しているのか、その時周囲はどうなっているのか、敵がこう動くとこうなるよねっていうのをあらかじめ意識しているかどうかで判断は変わってくる。運転してて標識をちゃんと読めたり、道路状況を読めたり、認識が広ければ広いほど判断も良くなっていきますから。そのあたりで言語化というのは必要になってくると思っています」


浅野
「ポジショナルプレーとかハーフスペースっていうのは新しい言葉なので、これによってヨーロッパサッカーがどう変わっていくのか。最初、林さんと西部さんの対談では、こんなふうに変わっていくんですよ、というのを期待したんですけれど。西部さんにも、林さんにもうまくはぐらかされちゃって(笑)」


西部
「はぐらかしてるわけじゃなくて、ハーフスペースやポジショナルプレーなどのいろんな言葉が最近出てきてますけど、その言葉ができてからそのプレーができたのではなくて、実際にフィールド上にあるものに名前が付いただけなんですよ。名前が付いたことで、今まで気づいてなかった人が後から気づけるようになったということなんですね」


浅野
「ハーフスペースってわかりやすいですよね。ピッチを縦に5つのレーンに分けて、その2番目と4番目のレーンをハーフスペースとヨーロッパのアナリストの界隈で言われるようになって、実際に現場でもよく使われている言葉なんですけれど。『ハーフスペースを意識しろ』と言われたらわかりやすいですよね」


西部
「まあ、話が早くなりますよね。縦に5つに割って、2番目と4番目っていちいち言わなきゃいけないまどろっこしさはなくなると思います」


浅野
「今までで言えば、CBとSBとボランチを繋いでできる三角形の間にあるスペースあたりを狙え、みたいな話ですよね」


西部
「もっと簡単な話をすると、壁パスってあるじゃないですか。昔は『壁パス』という名前しかなかったんですけど、テレビ東京のアナウンサーだった金子勝彦さんが『ワンツーリターン』って言い出したんですよ。壁パスというとぶつけて跳ね返って来る感覚はわかるけれども、『ワンツー』といった方がリズム感が出るじゃないですか。実際それを放送しながら言うと『これがワンツーなのね』というのがわかるわけです。だから僕なんかがプレーしていても壁パスじゃなくてワンツーって言いますよね。タン、タン、っていうイメージ。イメージの共有というのは言葉がないと難しいので。言いやすいですし」


浅野
「まさにそういった言語化というのは、分析の視点がどんどん進化してるというのにも繋がってくるんですけど、ヨーロッパをはじめとして新しい言葉であったり、新しい概念であったりというのが生まれていて、実際それがヨーロッパサッカーを進化させている部分でもあると思うんです。それをこの本のメインテーマとして伝えられればなというのがありました。そういった作り手側の考えがあることも知って、この本を読んでいただければうれしいですね」


日本サッカーのゾーンディフェンスは特殊?


浅野
「西部さんからの要望もあって、せっかくこういう機会はあまりないので、みなさんの聞きたいことにできるだけ答えられればというのがありまして」


西部
「こういうトークイベントみたいなのをやると、だいたい最後にある質問コーナーで質問に答え切れないまま終わるんですよね。だから、思い切ってというか少し多めに質問タイムを取ろうかなと思いまして」


浅野
「もちろん、W杯での日本代表の話だったり、戦術的な話だったり、千葉での開催なんでジェフ千葉の話だったりとかを考えてきたんですけど、せっかくなのでみなさんが聞きたい話ができればなと」


西部
「この時点で何かご質問はありますか(笑)?」


浅野
「ザックリとしたものでも大丈夫なので」


――FC東京のファンです。今シーズン良い時は良いんですけど、肝心なところで失点を食らったり敗戦したりしています。いつも気になるのですが、西部さんから見てFC東京のどこが良くて、どこが良くないのかお聞かせください。


西部
「そこまで毎試合FC東京を追っていないのであまり深くは答えられないですけど、今シーズンで言えば印象は一緒です。フォーメーション的には[4-4-2]で『コンパクトにインテンシティ高く戦え』という長谷川健太さんのカラーがよく出ているチームだなと思いました。そんなに凄いストロングポイントもない代わりに、ウィークポイントもあまりないという印象ですね。2トップが強力で、特にディエゴ・オリベイラが凄いので。スペースを持っていれば個人技で勝負できますから、それを担保するためにDFをしっかりさせるという。逆にあまり高い位置で取ろうというよりは、スペースを持ったまま取れた方がいいので、そのあたりは考えてデザインしているんだろうなという気はします。ただ、そういったサッカーって言ってみれば手堅いサッカーなんで、崩れもしない代わりに、そんなに点も取れない。そして、重要なとこで失点してしまっているということに関してはわかりません(笑)。おそらく、CBに何らかの問題があるのかなという勝手な想像ですが」


浅野
「せっかくFC東京の話が出たので、この本の中の[4-4-2]復興の話でもしましょうか。次回の雑誌の戦術リストランテでアトレティコ・マドリーの[4-4-2]を取り上げようと思っていて(発売中の『フットボリスタ』第61号収録)」


西部
「編集長が今ネタバレしましたけど(笑)!」


浅野
「全然OKです(笑)。それに関してJリーグでもFC東京だったり、サンフレッチェ広島という[4-4-2]のチームが上位に来ていて、W杯でも[4-4-2]のチームが多くて、そこに面白い傾向があるのではないかという話を西部さんにしていただいたんです。そのあたりの話をFC東京に絡めてなんてどうですか?」


西部
「W杯に関して言うと、ハイプレスをして前からボールを取るということはかなり難しかったですよ。行ったらかわされるということの方が多かったので。それこそポジショナルプレーの概念と言いますか、立ち位置をずらして、有利なボール回しをするということがわりと浸透しているんだなと思いました。だから、むやみに取りに行っても取れないので、もう少し取る場所を決めて。引くチームは思い切って引きますし、中盤くらいで止めるチームは止めるんですけど、あまり前からプレスしようということがなくなったので、いったんセットして守備に入るチームが多かったように思います。その時に[4-4-2]って一番ゾーンが埋めやすいんですよね。後ろも重くならないし、前がかりにもなりにくいので。守備を考えれば、けっこうやりやすいし、合理的なシステムなので[4-4-2]が多かったのかなという印象です」


浅野
「Jリーグでも[4-4-2]がメインになってくるんじゃないかという予感はありますか?」


西部
「ありますね。というかすでに何年間か前からメインになっているような気はしますね。ただ、[4-4-2]のゾーンでしっかり守るというのは、実はあまり日本に根付いてないです。ハリルホジッチが代表監督だった時に、ロープで繋いでプレスの練習とかしてたじゃないですか」


浅野
「確かにありましたね、そういうの」


西部
「距離感を確かめるために『一人が行ったら、一人がカバーリング、スライドしていきますよ』というのをロープでみんなを繋いで、遅れないようにというのをやっていたんですよ。それって、ゾーンの初期のアリーゴ・サッキさんがミランでやった一番最初の練習です(笑)。それを代表チームでやらざるを得ないというのはある意味そういう状況なんだろうなとは思います」


浅野
「『日本人はゾーンディフェンスができない問題』のようなものが議論にもなっていましたけど、それに関してはどう思いますか、西部さんは」


西部
「ゾーンディフェンス自体はある程度は浸透しています。日本なりにはできています。ただ、ゾーンってスペースを守る守り方ですけど、すべてのスペースはカバーできないんですよ。重点的に埋めるスペースと捨てるスペースがある。で、捨てるスペースがどこかっていうと、例えばスウェーデンとかアイスランドが典型なんですけど、SBがオーバーラップして上がって来ている場面でサイドは守らないんです。サイドの奥を切る立ち位置はしますけど、サイドにパスを出されないようにする場所には立っていません。サイドには出されてもいいという考え方です。出されてもスライドすれば間に合う、真ん中にクロスを入れられても跳ね返せばいいっていう考え方なんです。日本の場合は高さがないので、真ん中で跳ね返せればいいという守備をみんなあまりしないんですよ。

 4バックは基本的にペナルティエリアの幅です。サイドでは中を切って、奧を使われないようにします。また、サイドの選手は極力飛び込まないです。飛び込むと、抜かれた時にCBがつり出されるので。サイドから上げられるのは最悪かまわないっていう考え方です。こういうふうにどこを守って、どこを守らないかというのがゾーンディフェンスはハッキリしているんです。ただ、日本は(クロスを)上げられたら、フェライーニにやられちゃう可能性がありますから(笑)。日本はできれば上げさせたくない、という対応をしがちなんです。だからウイングの選手がサイドを何とかしてくれと、深くまで戻って来る。でも、いっぱい走らなきゃいけないのでそれはウイングの選手にとっては良くないです。FWも下がって来ないといけないというのもあります。ゾーンの原則から言えば、日本の守り方はあまり良い守り方ではない。けど、そこを運動量とかスピードでカバーしているので、実は日本は日本の守り方で成立はしています。ただ、上げられたらやばいという考え方は、ゾーン守備が定着している国ではあまりない。スウェーデンでも、アイスランドでも、イングランドでも『入れられたら、跳ね返せばいいじゃん!』っていう考え方です。『入れられちゃダメだ!』っていうのはないです」


浅野
「ハリルホジッチはマンツーマン気味の守備をずっとやっていたじゃないですか。それはなぜなんでしょうか?」


西部
「それはもうちょっと前の中盤での話ですね。ボールに食いついちゃうんですよ、相手にやらせたくないという気持ちが強過ぎて。どこを切って、どこはやらせてもいい、というのがあまりないんですよ、日本の場合は。みんな、やらせたくないからボールに突っ込んじゃう。そうすると相手をフリーにしてしまう。突っ込まなくていいんですよ。危ないゾーンだけ抑えちゃえばいいんですけど、そのあたりの加減がなかなか難しいので。だったら、もう行っちゃっていいから人数を増やそうということで[4-5-1]にしてましたよね。ほぼマンツーマンに近いような形でやった方が破綻がないだろう、という考え方だと思います」


浅野
「なるほど」


西部
「ただ、W杯の時には日本も普通に[4-4-2]で守っていて、サイドに出れば原口なんかがスプリントして、2対1にして取る形も多かったですよね。そういったことはスウェーデンやアイスランドのような大きい選手たちは得意じゃない。アジリティが低いので、素早く動けないですから。そこは日本の長所だとは思います。ただ、ゾーン守備の原理原則から言うと、ほんとはでっかいチームの方が向いてるんじゃないかなと思いますよ」


浅野
「エリアを捨てられるからってことですよね?」


西部
「そう。だから、ゾーンディフェンスがちゃんと教科書通りに浸透している国って、まあ発祥がイングランドですよね、それからスウェーデン、ノルウェー、アイスランド。みんなでっかい国ばっかりです。それはある意味、合ってるからだと思います」


浅野
「なので単純に日本が、ただゾーンディフェンスができないっていうよりは、日本なりのゾーンディフェンスにアレンジしているという側面が強いんですかね?」


西部
「そうですね。ゾーンディフェンスの原理原則通りにやると、日本はハイクロスでやられちゃうことが多いのかなと」


● ● ●

後編へ続く


Photos: Getty Images

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