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アルゼンチン代表再建に向けて。戦術以外にも重要なことがある

2018.09.07

 先日、W杯から帰って来たアルゼンチン代表番記者に様々な話を聞いた中で、1つ驚いたことがあった。

 「今回のメッシは明らかにピッチ外の問題に悩まされていた。あれほど悩める彼を見たことがない。理由はわからないし見当もつかない。アントネーラ(夫人)との不仲の噂や脱税の件もあったが、W杯の最中に外部の影響から集中力を失うような選手ではない」

 選手たちが何らかの悩みや不安を抱えるのはまったく不思議ではない。それを解決するための手段として心理科のカウンセラーがいるわけだが、ホルヘ・サンパオリは心理学に頼ることを頑なに拒否した。

 代表にカウンセラーが不在だったことは知っていたが、驚いたのは記者が次に言ったことだった。

 「選手たちはカウンセラーの帯同を懇願していたというのに……」


選手たちが抱えていたトラウマ

 “お腹が痛くなったら内科へ、心が痛い時は心理科へ”という意識が定着しているアルゼンチンではスポーツ心理学の発展も著しく、今どきカウンセラーのいないサッカークラブを見つけるのは不可能に近い。

 代表レベルでも、例えばホセ・ペケルマンは90年代半ばのアルゼンチンユース代表からコロンビア代表に至るまで、長年マルセロ・ロッフェの力を借りて選手たちのメンタル強化を図っているし、ペルー代表のリカルド・ガレカ監督は36年ぶりのW杯出場という目標達成のためにマルセロ・マルケスにメンタル面でのサポートを託した。ロッフェもマルケスもアルゼンチンのスポーツ心理学者を代表するエキスパートで、その実績から海外でも頻繁に講習会を開いている。

 スポーツ心理学で定評のある国の代表チームに心理科のカウンセラーがいなかったとはなんとも皮肉だが、選手たちが求めていたにもかかわらず監督に聞き入れてもらえなかったとは驚かざるを得ない。しかも、今大会に向けて選手たちが置かれていた状況を知っていればなおさらだ。

 アグエロは以前、自分を含む代表選手たちがトラウマを抱えていることを吐露した。2014年W杯、15、16年のコパ・アメリカと3年連続で決勝まで進んで敗れた屈辱は、W杯予選でのプレーにも悪影響を与えた。当時の監督マルティーノも、後任のバウサもスタッフにカウンセラーを入れていなかったため、サンパオリが就任した際、選手が個別に要請したという。

 代表番記者は言った。

 「カウンセラーがいれば優勝できたというわけではない。だがW杯では今やどの国も戦術解析だけでなく、対戦チームの選手の特徴、監督のゲーム感覚や癖のようなものまで調べ尽くしている。戦術以外に重要な部分のケアを怠った状態で勝ち進むのは困難だ」

 代表再建を試みるAFA(協会)に望むことはただ一つ。新たなプロジェクトに着手する前に、選手をはじめとするチーム関係者の声を「しっかり」聞いてほしい。彼らは戦術をインプットされてボールゲームに興じるロボットではないのだから。

Photos: Getty Images

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アルゼンチン代表

Profile

Chizuru de Garcia

89年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。