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日本代表GK川島永嗣の新天地ストラスブールってこんなクラブ

2018.08.31

8月29日、日本代表GK川島永嗣の新天地がフランス1部・リーグ1のストラスブールに決まった。昇格初年度だった昨シーズン15位のクラブについてはよく知らない人も多いことだろう。果たしてどんなクラブなのか、フランス在住ジャーナリストの小川由紀子さんが昨シーズン、かの地を取材し綴ったコラムで知っていただきたい。


 昨シーズン、タイトルや欧州カップ出場権争いに絡むでも、残留を争うでもなくほとんど話題には挙がらなかったものの、個人的にイチオシだったクラブの一つがストラスブールだった。

 昨季のストラスブールは、ネイマールも加入して開幕15戦無敗だったパリSGから初めて勝ち星を奪ったチームだった。12月の第16節、13分に先制すると、ムバッペに同点に返されるも、後半に追加点を決めて2-1で倒した。他にもニースやレンヌという上位勢を破り、マルセイユにも3-3で引き分けた彼らは“油断のできない要注意クラブ”と一目置かれていたのである。

 リーグ1参戦は07-08シーズン以来10年ぶり。以前はトップリーグ常連で、優勝1回、フランスカップでも3度優勝し、CLで準々決勝に進出したこともある。かつてプレーした著名選手には、あのイビチャ・オシムやJリーグでもプレーしたイワン・ハシェックがいる。後者は監督も務め、その2003年には元日本代表の市川大祐選手(引退)が練習参加していた。また、ご当地ストラスブール出身のアーセン・ベンゲルはここでプロデビューしたのち、ユース部門のコーチとなって名将のキャリアをスタートさせた。元フランス代表ユーリ・ジョルカエフも1年在籍している。


英・独に学ぶスタジアムづくり

 ところが、07-08を19位で終えてリーグ2に落ちると、会長がころころ変わるなど運営が不安定になり、成績も後退して3部に転落。深刻な財政難のペナルティとしてアマチュアリーグの5部降格という処分を受け、近年はすっかり表舞台から消えていた。

 そんな中、名門復活に立ち上がったのがクラブOB のマーク・ケラーだった。2012年6月、出資者を集めて会長に就任すると、当時4部のチームを1年で3部に昇格させ、そこから3年でリーグ2復帰。初年度で優勝し、昨シーズン晴れてリーグ1入りを果たしたのだ。

左が選手時代のマーク・ケラー(中央はパオロ・ディ・カーニオ、右はパウロ・ワンチョペ)。ドイツではカールスルーエ、イングランドでは写真のウェストハムのほかポーツマス、ブラックバーンでプレーし2002年に現役引退。フランス代表として7試合に出場している

 イングランドやドイツでもプレーしたケラー会長がまず実践したのは、それらの国に習ったサポーターが楽しく足を運べるスタジアムづくりだったという。キックオフ2時間半前に開場し、試合前の時間も楽しめる工夫をしている。取材に訪れた日はイースター休暇中で、子供たちのために会場で卵形のチョコレートを探すイベントが催されていた。

 スタンドも、サポーター軍団席とファミリー席をきっちり分け、家族連れが安心して楽しめる環境を確保。街なかからトラムでスタジアムに向かう人々の様子が実に和やかで印象的だったのだが、ここではサッカー観戦が週末のイベントとして定着しているようだ。

本拠スタッド・ドゥ・ラ・メノのゴール裏スタンドに陣取るウルトラス

 パリから高速鉄道TGVで2時間足らずのストラスブールは、伝統的な木造建築が残る街並みもとても素敵だし、なんとトラムで隣国ドイツにも行けてしまう。チケット代200円ほどで(なんなら歩きでも!)国境越えできるうれしいおまけもついて、和やかな雰囲気の中で観戦できる。今シーズンもリーグ1に残ってくれてよかった~。

フランスとドイツの国境を分ける川。右がフランス、左がドイツ

Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images

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ストラスブールリーグ1川島永嗣

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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