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アスピリクエタが切り開く新境地。ハーフスペース封鎖の達人

2018.04.19

“高くて強い”ポジションを無双の俊敏性と反応速度で我が物に


César AZPILICUETA
セサル・アスピリクエタ

1989.8.28(28歳) 178cm/78kg SPAIN


 ギャリー・ネビルとジェイミー・キャラガー。プレイヤー視点からの明解な分析をこなす2人の名物解説者に絶賛されるDFこそ、セサル・アスピリクエタだ。チェルシーの守備陣を支え続ける縁の下の力持ちは、優れた判断力によってポジション変更にも柔軟に対応してきた。

 マルセイユ時代は攻撃的な右SBとして知られ、モルガン・アマルフィターノ(現レンヌ)との絶妙なコンビネーションから高精度のクロスを供給。努力家としても知られる彼の守備力は、チェルシー移籍後に飛躍的に向上していく。特にジョゼ・モウリーニョは厚い信頼を寄せ、左サイドへのコンバートによって彼をさらに適応力のある選手へと変貌させた。アントニオ・コンテは、3バックの一角に抜擢。堅陣で知られる2人の名将に力を認められながら、アスピリクエタは世界屈指のDFへと成長していく。

 特筆すべきは、他を寄せ付けない俊敏性と反応速度。普通では反応できないようなパスであってもインターセプトしてしまう彼の能力は、前からのプレッシングと相性が抜群。味方が連動して相手をサイドに押し込みながらプレッシャーをかければ、その回収を担当する役割をSBのアスピリクエタが完璧に実行する。苦し紛れにドリブルを仕掛けても、機動力に優れた彼には通用しない。絶妙な距離感で敵を追い込み、ボールを奪取する対人守備能力は圧倒的で、凄腕のドリブラーでも沈黙させてしまう。

 その機動力は、CBにコンバートされてからも重要な武器となっている。「ハーフスペース封鎖」のスペシャリストとして、存在感が飛躍的に高まっているのだ。

 2月のCLラウンド16第1レグ、バルセロナ戦(1-1)でルイス・スアレスを抑え込んだ彼は、そのスピードによって広い範囲をカバーすることができる。リバプール時代からハーフスペースに入り込みながらの積極的な仕掛けでエリア内に進入する形を好んだL.スアレスは、狡猾にPKを意識させつつ密集地を抜けてくる。前を向けばゴールを狙い、後ろを向いた状況ではボールをキープし、ボールを持たない状況では深いスペースを使おうとするL.スアレスの動きを、アスピリクエタは状況に合わせて封殺。ドリブルには俊敏性を生かしてコースを塞ぎ、起点としての動きには鋭い反応で体を寄せることで自由を奪う。

 さらに、インターセプト能力を発揮して裏へのスルーパスも未然に防ぐ。それに加え、高い位置に進出するイニエスタへのチェックまで担当。L.スアレスを他の選手がマークしている局面ではイニエスタを封じ、バルセロナの左サイドを弱体化させた(図1参照)。

CLバルセロナ戦、すべての動きを予測して相手FWから自由を奪い、状況に応じてイニエスタへのチェックも敢行

 自分がカバー可能なエリアを的確に判断し、相手に適切なプレッシャーを与える。特にボールを背負った相手に対し、ギリギリまで寄せることによってミスを誘発する技術は世界屈指だ。

 右ウイングバックにコンバートされた同僚のビクター・モーゼズが「守備面の成長において、アスピリクエタの存在が大きかった。彼は常に的確な指示で正しいポジショニングを守ることを助けてくれるだけでなく、どのタイミングで前に出るべきかを教えてくれる」と語るように、周囲との連係にも優れている。唯一の弱点はCBとしては低い178cmの身長で、空中戦で狙われることも。特にトッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノは、デレ・アリを左サイド寄りに配置し、右からの長いクロスボールを多用することで空中戦の局面を作り出し、アスピリクエタを苦しめた。


持ち上がってアーリークロス、も抜群

 機動力を武器に相手を抑え込む守備面に加え、アスピリクエタは攻撃の局面でも通常のCBでは不可能な役割を果たす。もともとSBということもあり、正確なロングパスとセンタリングを武器にFWにボールを供給するのだ。

 3バックの左右のCBには攻撃参加が求められ、ボールを持ち運ぶことで中盤をサポートすることが重要視されるようになっているが、アスピリクエタはファーサイドへのセンタリングというSB的な仕事にも完璧に対応する。右サイドをウイングとウイングバックで崩そうとした場合、[4-4-2]の相手はSBとサイドMFで対応することになる。数的同数の局面で、アスピリクエタが攻撃参加してくるとフリーになりやすい。ウイングバックの内側をオーバーラップし、ファーサイドへ正確なアーリークロスを送ることで得点機を生み出す。クロスに走り込むのはCFのアルバロ・モラタと、逆サイドのマルコス・アロンソ。特にモラタとの連係は抜群で、今季の前半戦ではホットラインとしてゴールを量産することに成功した(図2参照)。

右サイドでWG、WBが相手と2対2で対峙している局面で攻撃参加。ここから放つアーリークロスにより、前半戦だけでモラタのゴールに直結する6アシストを記録した

 SBからCBにポジションを変える選手は少なくないが、彼のようにリーグ屈指のSBがCBにコンバートされる例は希少だ。SBとして磨いた能力を生かすことにより、アスピリクエタはCBの新境地を切り開いている。

Photos: Getty Images

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セサル・アスピリクエタチェルシー

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。