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「日本が大好き」ドイツとBVBのレジェンドがCL&W杯を語る

2018.04.03

カール・ハインツ・リードレ インタビュー


去る3月下旬、1990年イタリアW杯と1996-97シーズンのCLを制したドイツサッカー界のレジェンドで、現在はドルトムントの国際アンバサダーを務めるカール・ハインツ・リードレが来日を果たした。日本と日本サッカーについての印象や今季のドルトムント、そしてこの後に控えるクラブと代表の2大タイトル、CLとW杯について話を聞いた。


――はじめに、今回の来日の目的を教えてください。

「2016-17シーズンに優勝したDFBポカールのトロフィーを、スポンサーやファンの方にお披露目するための来日です。ドルトムントは日本を国外で最も重要なマーケットだと考えています。ですから、数ある国の中から日本を選んだんです」


――日本に来るのは何度目になりますか。日本の印象を聞かせてください。

「3度……いや4度目です。私はもう、自分のことを半分日本人だと思っていますから(笑)。日本はエネルギーにあふれていて大好きです。来日した時は必ず、渋谷に行きます。スクランブル交差点にあるカフェから下を眺めているだけで楽しく過ごせるんです。寿司も刺身も大好きだし、文化も素晴らしい。本当は博物館や美術館にも足を運んでみたいんですが、スケジュールがタイトでなかなか叶わなくて。次に日本に来る時には実現したいなと思っているんですよ」


――日本のサッカーについてはどういった印象をお持ちですか?

「香川(真司)や乾(貴士)、長谷部(誠)など、名前を挙げればキリがないくらい素晴らしい選手たちがそろっています。実際、昨年夏のツアーでは、最終的にドルトムントが勝ちはしましたが浦和レッズにヒヤッとさせられましたからね。特にテクニカルな面で優れていると思いますし、夏に控えるW杯でも躍進が期待できるんじゃないかと思っています」


――今お話が出た昨年のツアーに際してラース・リッケン氏にインタビューさせていただいたのですが、彼は日本人選手に足りないものとして「シュートの技術」「ヘディング」を挙げていました。あなたの意見は?

「ラースこそ、ヘディングは全然うまくなかったじゃないか(笑)。それは冗談として、彼は育成コーディネーターを務めていてそういった分析をかなりした上での意見なんだとは思います。ただ、香川はシュートの技術も凄く高いですし、僕の考えは彼とは違います。逆に、強みを挙げるならメンタリティです。ドイツ人とも似ていて、それがドイツの多くのクラブが日本人の獲得に積極的な理由の一つになっていると思います」


――あなたのクラブ内での役割を教えてください。

「今の肩書は国際アンバサダーです。同じポジションにはロマン・バイデンフェラーとパトリック・オボモイェラもいるんです。仕事としては新たなマーケットの開拓やPR、ビジネス部門のサポートを行っています」


CL、W杯の記憶と展望


――今年はW杯イヤーになりますが、あなたは1990年大会で頂点を経験しています。世界の頂に立った時どんな気持ちになるものなのか、聞かせてください。

「W杯の時はまだ若かった(25歳)んですが、選手にとって最大の夢ですし、そこに関われたというのは自らのキャリアを形成する上でも凄く重要なワンシーンでした」


――あなたはCLでも優勝していますよね。少し意地悪な質問ですが、よりうれしかったのはどちらでしょうか?

「答えは簡単、CLです。なぜなら、W杯の時は準決勝のイングランド戦ではプレーできましたが、決勝ではプレーできませんでした。やっぱり、プレーできないというのは残念なことです。対照的に、CLでは決勝で2ゴールを挙げることができて本当にうれしかった。それから、W杯は4週間ですがCLは1シーズンです。長い期間高いクオリティを維持しないといけませんからね」

「W杯以上にうれしかった」という97-98のCL制覇(Photo: Bongarts/Getty Images)


――今シーズンのドルトムントは残念ながらCLでGSを突破できず、ELでも敗退してしまいました。また、ドイツ勢全体が欧州カップ戦で苦戦しています。あなたの見立てを聞かせてください。

「ドルトムントがCLのGSで敗退してしまったことに関してはとてもがっかりしていますし、EL敗退に至ってはハッキリ言って受け入れがたいことです。もっとやってもらわないといけない、というのはファンだけでなくチームもスタッフも感じていることです。ドイツ勢全体で見ても、バイエルン以外は歯が立ちませんでした。2シーズン前にはイングランド勢が同じように早期敗退していましたのでめぐり合わせの部分もあるとは思いますが、長期的に見てドイツ勢全体で考えていかなければならない問題だと思います」


――理由の一つとして、ドイツ勢のプレースタイルがプレッシングばかりで画一化してしまっているという意見を目にします。これについてはいかがでしょうか?

「今季のCLで言えば(プレッシングスタイルの)リバプールが躍進していますし、必ずしもそればかりが原因ではないとは思います。私自身、プレッシングスタイルが大好きです。ただ、プレッシングスタイルを志向する場合、後方に速い選手や強い選手が不可欠です。今季ドルトムントが苦しんだのも、そこの部分がうまくいかなかったからだと考えています。あとは、誰か一人がサボれば途端に瓦解してしまう戦術ですから、チームとしての意思疎通がしっかりしていないといけません。先ほどお話したフィジカル的な速さと強さに加え、シンキングスピードの速さも要求される難しさがあると思います」


――ドルトムントの今季ここまでのパフォーマンスについてはどう評価されていますか?

「シーズンの入りは本当に素晴らしいスタートが切れました。監督が代わったばかりでしたから、こんなに結果が出るものかと逆にビックリしたくらいです。というのも、勝ってはいるものの相手にチャンスを与え過ぎてることに気づいていたからです。実際そのリスクが失点に繋がるようになり、ペーター・ボス監督も何とか立て直そうとしましたがうまくいかず、監督交代という決断に至りました。後任がペーター・シュテーガーだったのは、チームにバランスをもたらし安定感を取り戻すことを優先したからです。ただ、例えばマンチェスター・ユナイテッドは勝っていますがつまらないと言われています。ドルトムントのファンが求めているのはスペクタクルなサッカーですから、どうやってそこに戻っていくか、それが今の課題ですね」


――今シーズンのCLの優勝候補はどこでしょうか?

「当初はマンチェスター・シティが本命だと思っていたんですが、リバプールの勝利に期待しています。ドルトムンが敗退した今、僕のハートは(自身がかつて所属した)リバプールにありますから。プレミアリーグでシティを倒していますし、ここ(対戦する準々決勝)を越えられればけっこうチャンスがあるんじゃないかと見ています」


――CLが終われば、いよいよW杯です。母国ドイツ代表は「2チーム作れる」と言われるくらいの充実した陣容で優勝候補と目されていますが、あなたの考えは?

「これほどの戦力がそろっているというのは凄く“幸運”だと思っています。前回大会優勝メンバーと若手とのバランスもいいですし、GK、DF、MFに関しては世界でもトップクラスでしょう。ストライカーに関しては少し劣っていますが、個人的にはティモ・ベルナーの爆発に期待しています。マリオ・ゴメスが2番手です」


――ドイツの優勝を望んでいるとは思うのですが、他に優勝候補だと考えている国はどこでしょうか?

「正直、ドイツ以上にフランスの方が優勝に近いと思っているんです。それくらい、各ラインにタレントがそろっています。それから、ブラジルとアルゼンチン。アルゼンチンは予選で苦労しましたが、本大会には合わせてくると思います。あとはベルギーも良い選手がそろっている良いチームだと思いますが、大舞台での経験値の差が出ると思っています」


――日本はポーランド、コロンビア、セネガルと同組になりました。このグループの印象を聞かせてください。

「凄く厳しいグループですが、日本にもチャンスはあると思います。ただ、ポーランドは強いですよ。レバンドフスキやピシュチェクらタレントぞろいなのももちろんですが、メンタリティ的にも強いものを持っています」


――日本にレバンドフスキの止め方を伝授してくれませんか?

「いやぁ……良い質問だ(笑)。私たちドルトムントは、彼を失ったことでいまだに泣いていますよ、世界一の“9番”ですから。残念ながら、1人じゃまず止められません。常に複数人でマークするしかないでしょうね」


――大会全体で注目している選手がいれば教えてください。

「ドイツのサネです。選ばれれば、本大会で旋風を巻き起こすんじゃないかと思っています。個人的にファンなんです」


――それでは最後に、ファンにメッセージをお願いします。

「早く香川が復活して、彼自身もチームも浮上してもらいたいと思っています。来シーズン以降も日本のみなさんに良いサッカーが魅せられるよう、クラブ一丸となって頑張っていきますので期待していてください」

Photo: Takahiro Fujii

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Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。

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