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ACL制覇は“ハリル化”の成果?「ミシャ→堀」にみる浦和の未来

2017.12.25

西部謙司の戦術リストランテ Jリーグ編
第4回 「浦和レッズ」

海外サッカー月刊誌footballistaの名物連載『戦術リストランテ』のJリーグ版がWEBで開店! 第4回は、Jリーグ勢の鬼門だったACL制覇を達成した浦和レッズのミステリアスな強さに迫る。ミシャから堀体制に移行し、何が変わったのか? そして来季以降はどうなるのか

構成 浅野賀一

成功する後継者の条件

―― まずミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督から堀監督に移行して、浦和のサッカーはどう変わりましたか?

 ミシャ式をやめ、[4-1-4-1]になっています。堀監督が解任後に指揮を執るのは今回が2度目。前回もペトロヴィッチ監督の後でしたが、こちらゼリコ・ペトロヴィッチでした。前任者の名前が同じなのは偶然ですが、堀監督はどちらも前任のやり方を継承していません。ゼリコの方は形の上では近いですが、踏襲したというより堀監督のスタイルに変えたと言った方がいいと思います。攻撃偏重だったミシャ式とは違い、まずはしっかり守る。守備の組織をきちんとしたことがACL優勝という結果に結びつきました。

―― 広島時代の森保監督は「継承」を選びましたが、堀監督は「変化」を選んだわけですね。

 個性的な前任者の後を継ぐ場合、ほぼそのまま踏襲するか、がらっと変えてしまうかなのですが、踏襲する方が難しいのではないかと思います。なので、広島でミシャ式を踏襲して黄金時代を築いた森保監督は凄いなと。というのも、監督はそれぞれ考え方が違いますし、同じスタイルでも率いる監督のパーソナリティが違えばそれなりの変化が出ます。例えば、僕は人の書いた文章をうまく直せません。直すと骨組みしか残らない可能性大です。その人の癖を生かした上で最小限変えるというのは、けっこう実力がないと難しい。自分流に書き替えてしまう方がよほど楽です。

 森保監督の場合は、コーチとしてミシャのやり方を熟知していたのは大きい。いきなり外から来た人があれを受け継ぐのは無理です。もう1つのポイントは「少しだけ」変えること。森保監督は守備を整備しました。前任者が頑なにやらなかったことですが、そこは普通にちゃんとした方がいいだろうと。風間監督の後を継いだ川崎の鬼木監督も踏襲型ですね。

―― 堀監督もコーチをやっていましたよね。なぜ、変えたのでしょう?

 この方が普通だと思いますよ。ミシャ式を修復できるぐらいならミシャ本人がやっていただろうと。森保監督と鬼木監督は前任者がうまくいっていた後に引き継いでいますが、堀監督の場合は解任された後ですから踏襲しても意味がないわけで、そこは違うところです。短期間で機能させなければならない状況でもあり、ミシャ式以外で選手ができそうなスタイルを選択したと思います。バイエルンでアンチェロッティが解任された後の、ハインケス監督の立て直し方が堀監督にけっこう似ていると思いました。まず守備のオーガナイズをしっかりさせています。

―― ミシャ式自体に限界が出てきたわけですね。

 広島、浦和と10年くらいやっているので、さすがにみんな慣れてきましたよね。未知の戦術ではなくなった。最初は「なんだ、これ?」って感じだったのですが、今はもう研究されて弱点を突かれるようになりました。

 具体的には「平べったく守る」ことですね。ミシャ式は前と後ろに人数をかけるので、相手が5バックや6バックで横に広がって守ると、浦和の攻撃陣も横に広く布陣することになります。そこでボールを奪って前線のプレスラインを突破すれば、もう中盤には柏木しかいないので楽々通過できます。浦和も攻撃時は槙野や森脇がインサイドに入ってカウンターケアを行うなど新たな動きを見せていましたが、まだ付け焼刃というか、しっくりいっていませんでしたね。

 あと根本的な問題として、人を選ぶ戦術でレギュラーの入れ替わりが起きにくい。阿部はボランチとCB、2シャドーはインサイドMFと守備時にはサイドハーフなど、2つのポジションを高いレベルでこなせる人材が求められます。当然そんな選手は多くないのでメンバーが変わらなくて、チームの新陳代謝が起きない。もちろん、コンビネーションが向上するなどプラスの面もあったのですが、マイナス面がそれを上回り始めたというのがミシャが解任された時の浦和の状況ではないでしょうか。

“ハリル・ジャパン化”する浦和

―― では今の浦和はそこからどう変わりましたか?

 簡単に言うと、ハリルホジッチのサッカーに似てきましたね。ゾーンの4バックの前にアンカーの青木がいて、ミドルプレスとブロック守備の併用で、行けるならハイプレスをかける。浦和の選手って、柏木以外はデュエルに強いんですよ。遠藤航もガツンと行けますし、宇賀神、槙野、ラファ・シルバ、そして堀監督になってすぐに抜擢された長澤と1対1に強い選手がそろっています。

―― ハリルの秘密兵器になりそうな長澤は昨シーズンに(西部氏が継続取材する)ジェフ千葉にいましたよね?

 長澤の話もしましょうか。彼はケルンからジェフに来ましたが、ドイツではスピードや推進力を買われて、トップ下で起用されていました。動き回れることや運動量も評価されていたみたいです。そこで関塚監督のジェフは中盤フラット型の[4-4-2]だったので、最初はサイドハーフで使いました。ところが、これがあまりフィットしなかった。次第に出場機会が微妙になったところで、ボランチにケガ人が続出し、本来CBの選手と急造のボランチを組むことになりました。

―― それはヤバイですね(笑)

 (笑)。ただ、そこでのパフォーマンスがけっこう良かったんです。1対1で止められるし突破してどんどん持ち上がれる。何より、連続でプレーしても息が切れないんです。みんな「おお!」と唸りましたし、関塚監督もそう感じたのでしょう。それからはボランチに定着しました。

 浦和に移籍後、ミシャは3バックの右CBで起用したりとか、正直まったく使う気はなかったように見えました。ただ、練習で長澤を間近に見ていた堀監督はすぐに抜擢しましたね。千葉時代は以前にボランチをやったことがなかったので当たり前なんですが、ポテンシャルは凄いけれど不慣れな感じもありました。浦和でのプレーを見ると成長したと思います。馬力があり、しかも連続的に動ける。1年前はジェフでサブだったこともある選手が今は日本代表ですからね。本当にサッカー選手は何が起こるかわからない。

―― 浦和の長澤のポジションはもっと前というか、トップ下なんですか?
ACL決勝の第2レグ、浦和は[4-4-2]のような形でスタートしていますが、守備時には[4-1-4-1]になっていました、長澤が最初は2トップとして守備に入りますが、「2」のラインをボールが越えたらそのままインサイドMFの位置へ引いて「4」のラインに入ります。もともと[4-1-4-1]のインサイドMFは、相手のCBがフリーでチームのプレス設定エリアへ入ってきたら前へ出て守りますが、長澤があらかじめ前へ出ている形といえばいいでしょうか。ハリルがアウェイのオーストラリア戦で香川に任せた役割に近いです。

―― ハイプレスとミドルプレスの使い分けやブロック守備の固さは、確かにハリルの戦術に近いですね。実際、堀監督になってから浦和の選手はかなり選ばれるようになった気がしますし(笑)。

面白いのは、浦和が試合中にかなりポジションを入れ替えていたことです。左サイドハーフでスタートしたラファ・シルバが途中から1トップに上がったり、インサイドMFだった柏木は疲れが見えたことで1つ前の長澤のポジションに上がっています。その際、長澤はボランチに下がりましたし、ラファ・シルバと入れ替わりに興梠が左サイドハーフに引きました。試合の流れや選手の疲労具合を見てポジションを変えているのですが、[4-1-4-1]ベースの全体のフォームは一定でした。この入れ替えは選手の特徴をわかっていないとできないので、堀監督のコーチとしての経験が明らかに効いています。

なぜACLを勝てたのか?

―― その前提があった上でいよいよメインテーマに入るわけですが、浦和が日本勢の鬼門になっていたACLに勝てた理由はズバリ何でしょう?

 なぜでしょうね(笑)。まずベースとしては守備が堅い。そして、ホームで強い。リバプールもそうですが、カップ戦で強いチームはホームで絶対的な強さを誇るんですよ。中立地開催の一発勝負だったら厳しかったかもしれません。川崎との準々決勝でも通常ならアウェイで息の根が止まっていたのに、ホームでひっくり返しましたからね。短期のトーナメントで勝つには「守備」と「ホームの利」は重要です。

 あとハリル・ジャパンとの違いで言えば、カウンター時にブラジル人の突破力があること。カウンターの成否は、敵ゴールに近づいた位置で1対1になった時に抜けるかどうかに懸かっています。「駄目だ、戻そう」となると相手が戻って来ちゃうので、カウンターは不成立になります。浦和はそこで突破できるラファ・シルバがいる。1対1で抜けますし、そのままシュートまで打てます。決勝も彼のゴールでしたしね。

 余談ですが、今98年W杯の日本代表の映像を見直しているんですが、組み立てはけっこういいのにFWが独力で突破できないのでカウンターがいったん止まってしまうのがもったいない印象なんです。あと、かなりクロスボールが入っているのに決められない。

―― 結局、「決める人」がいるかどうかなんですよね。毎度同じ結論になってしまいますが……。

 もう一つ、E-1の寄せ集めチームで顕著な弱点でしたが、浦和の方が日本代表よりも攻撃のコンビネーションが洗練されています。攻撃は同じくカウンター狙いなんですが、ミシャ式の攻撃力が遺産として使えた。ミシャのトレーニングはミニゲームが多かったのですが、ハーフコートの11対11でやることが多くて、その中でもいろいろな制限をつけていました。フリータッチのドリブルなし、1タッチのみ、リターンパスは禁止、ダイレクトパスのみ+リターンパスは禁止などなど。これは判断力を高めるトレーニングで、長年の積み重ねは今の浦和の選手たちの中に残っているはずです。

―― 長く一緒にやっているので阿吽の呼吸というか、コンビネーションも熟成されているので、遅攻の完成度が代表チームとは違って当然ですよね。

 これはミシャ以外もやっていますが、2人1組で組ませる時はSBとサイドハーフなど隣り合うポジションの選手同士で組ませます。すると、お互いの癖がわかってきて、言葉にしなくても何を考えているのかわかるようになってきます。そうやって作り上げてきたものはチームの中に残っていますし、一緒にやってきた堀監督がそのベースの上に守備を強化したことで、アジア制覇の栄冠に繋がったのではないでしょうか。

「イノベーター後」の未来

―― 最後に、浦和の今後を占ってください。

 堀監督は来季も継続のようですから、もしかしたら日本のデル・ボスケになるかもしれませんね。デル・ボスケはレアル・マドリーの育成などをやっていましたが、トップの監督が解任されると“ケアテイカー”として何試合か監督をやってくれるクラブにとって便利な人でした。3回目ぐらいの“ケアテイカー”の時にCLを獲れたのでそのまま継続し、銀河系のレアルを率いることになりました。その後はスペイン代表監督としてW杯とEUROを獲得、タイトルコレクターに変貌しています。

ビセンテ・デル・ボスケ

 バルセロナのレシャック、マルセイユのジョゼ・アニゴのように、ビッグクラブにはこの手の便利な人がいます。堀監督は今回のACL制覇で、デル・ボスケへの道が拓けてきたわけです。

―― デル・ボスケもそうですが、個性の強い監督の後は調整型の監督の方が成功しやすいですよね。

 実はイノベーター監督の後の方がタイトルを獲っているクラブが多いです。トータルフットボールのアヤックスはミケルスが築き上げたチームですが、70-71シーズンからのチャンプオンズカップ3連覇はシュテファン・コバチの下で達成しています(最初の1年はミケルス、残り2年はコバチ)。同じようにアリーゴ・サッキのミランも、後を継いだカペッロのチームの方が(伝説の無敗優勝を含む)セリエA3連覇などタイトルを獲得しています。

 パイオニアの人たちは自身の考えを強調して伝えるため状況をデフォルメするというか、極端に伝える傾向があります。ミシャは守備練習をほとんどしませんでしたし、風間監督に至っては「守備」という言葉すら使いませんでした。どうしても無理をしているところが出てきますし、やり方を知っている人が少し緩めて弱点を補強してあげるとすぐにタイトルが獲れるようになるのは歴史上繰り返されてきたパターンですね。

―― ただ、次第にイノベーターの遺産は劣化していくと。

 弱点を補強するとどうしても普通のチームになっていくというか、尖った部分が失われていきますよね。実はミシャ式の[3-4-2-1]の可変システムは守ろうと思えば守りやすいシステムでもあるんです。[5-4-1]で守備を固められますからね。森保監督の広島はミシャがほとんどやらなかった守備を整備してJリーグを連覇しましたが、次第にカウンターサッカーになっていきました。ミシャはそれを批判していましたが、彼としては攻めるためにこのシステムを採用しているので本末転倒なわけです。おそらく彼は、守備を整備すればそうなるのもわかっていたのでしょう。だから、やらなかったんだと思います。

 イノベーター後の変化という点では今のガンバもそうですね。遠藤保仁が「(ハリルホジッチ監督は)うちのサッカー大好きだと思いますよ」と言っていましたが、実際レギュラーの大体は代表に呼ばれています。ガンバも西野監督時代は徹底攻撃路線でした。相手に点を取られても取り返せばいいというスタイル。ただ、2点取られたら3点取れというのは、普通に考えれば大胆過ぎます。普通は2失点したら負けですから。しかし、それがガンバのサッカーだと選手たちも思っていた。外から来た長谷川健太監督からすれば、それはおかしいでしょと。攻撃はいいけど、失点していいわけがないと。そうして攻守のバランスを整えて、ガンバに3冠をもたらした。

―― 監督には「作る人」と「収穫する人」がいるわけですね。どちらも大事だとは思います。ただ、堀監督が面白いのはイノベーター型のミシャの戦術を森保監督とは違って受け継がなかったわけじゃないですか。その場合はどうなると思います?

 もしかしたらガンバサポは今のスタイルに違和感があるかもしれませんが、浦和サポはどう思っているんでしょうね?というのも、ミシャ式が長かった浦和ですが、10年前にACLを獲った時はカウンターサッカーでした。もともとドイツと関係が深かったチームですし、堀監督は馴染みのあったスタイルへ戻したとも言えます。ミシャより浦和在籍歴は長いわけで。デル・ボスケ、レシャックもそうでしたが、クラブの伝統とDNAへの保守性が強いのかもしれません。

 いずれにしても堀監督の真価が問われるのは来シーズンでしょう。選手の質はいいですし、今のサッカーに合わせた補強――例えば1対1で突破できるカウンター向きの強力なFWなど――が重要になってきます。広島とはまた違ったミシャ後ということで、どちらに転ぶのか興味深いですね。


Photos: Getty Images

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Jリーグ戦術リストランテ浦和レッズ

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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