クラブW杯に出場した浦和レッズは、残念ながら3戦全敗で大会を去ることになった。世界トップレベルとの対峙で見えてきた「差」とは何なのか? FIFA主催大会で豊富に公開されているデータレポートを参照しつつ、データ面から課題を掘り下げてみたい。
2022年のカタールW杯以降、FIFAは主催する国際大会で1試合ごとに分厚いデータレポートを公開しており、現在行われているクラブW杯も例外ではない。レポートの内容は2022年W杯と相違ないため、どういったデータが公開されているかは、同年に執筆した記事を参照していただきたい。
今回は残念ながら3試合で冒険を終えた浦和レッズのデータに着眼し、レポートの数値を読み解いていこう。データはグループステージ終了時点のレポートから抽出しているが、後日修正されるケースもあるため、記事執筆時点の数値とさせていただく。前提として、3試合だけのデータである上に第3節は順位によって試合の運び方が異なる面もあるので、不足のあるデータ分析となる点は頭に入れておいてほしい。
高強度走行距離(HIRR)は上位だが、気候の恩恵もある
今大会もトラッキングデータが公開されており、総移動距離(Total Distance)、時速範囲別の移動距離(Zone 1 – 5)、高速走行回数(High Speed Runs, Sprints)、トップスピード(Top Speed)のデータが掲載されている。一部の試合のトップスピードの値が明らかにバグと思われる数値となっており少々信頼性に欠ける面もあるが、他のデータについては分布を見ても正常の範囲内にあるので使用できると判断した。
この中から「HIRR(%):High Intensity Running Ratioの略称。フィールドプレーヤーの総移動距離のうち20km/h以上の割合」と「高強度走行量差分:20km/h以上の走行距離の相手との差分」を下図に表した。前者はJリーグの公式サイトでも紹介されている指標で、後者はいわゆる「走り勝つ」を表したデータだ。

このグラフだと浦和はHIRRも高く相手よりも高強度走行距離が長い傾向を残している。一方で高強度系の数値が高ければ勝てるわけではない点もあらためて認識させられた。他、バイエルン、マンチェスター・シティといった多くの時間ボールを保持できるチームが相手よりも長く走っている点は興味深い。
試合中継を見ている方であれば、今回の試合が環境に左右されていることも想像できるだろう。開催地の開催試合日における気温データとHIRRを下図のようにグラフ化した。気温のデータは気象庁より開催都市の最高気温、平均気温を出力したものであり、スタジアムで観測されたものではない。開催都市はFIFAの記載に準じるものとする。

グラフは縦軸が開催日の最高気温の平均、横軸がHIRR、色は開催日の平均気温の平均、四角のサイズは開催試合数を表している。今大会くらいの試合数だとデータ分析としては不足があるが、それでも気温が低い方がHIRRが高くなる傾向にある。浦和のグループはシアトル、ロサンゼルスでの開催だったため、他のスタジアムに比べればプレーしやすい環境だったと言える。ちなみにニューヨーク近辺は気温の上下動が激しく、20度以下の日もあれば30度以上の日もあった。気温以外に湿度、雷雨中断などの要素もあり、加えて欧州のトップリーグはシーズンを終えた直後の試合であるため、厳しい条件が揃った中での試合となっている。アメリカを含めた3カ国共催で行われる次のW杯でも環境による影響は考慮しなければならない。
浦和に足りなかったのは「最後に奪い切る力」
ここからは試合の中でのアクションのデータを見ていこう。まず1つ前提のデータとしてボール保持率の差分を掲載した。参考比較用に2022年W杯のデータも併記する。
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Profile
八反地 勇
1981年、愛媛県生まれ。音楽で食べていくために上京するもサッカーに魅入られ、サッカーのデータ入力、速報配信運用業務を経て、現在はフリーランスにてサッカーのデータ分析向けの設計、分析記事の執筆、ウェブフロントエンジニアなどを担当。サッカー観戦は1チームに絞らず、広く浅く見るタイプ。
